Neetel Inside ニートノベル
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ニーノベ三題噺企画会場
お題①/余剰者

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右手に持つ奇妙奇天烈な形状をした木製と思われる棒を天に掲げ、我が友は言った。
「この杖つえー」
「お前は何を言っているのだ?」
ウィットに富んだ知的な駄洒落に内心感心しながらも、私は冷静を装って言葉を返す。我が友は件の棒を両手で持ち直すと、何やら躊躇した様子でしばし考え込み、やがて意を決した表情で私に向き直ると、重々しく口を開いた。
「関係ない話かもしれないが」
「何だ?」
「実は俺、病気だったんだ」
「病気?」
「ああ、人には言えない病気で、生まれてから今までずっと隠し通してきたよ。こうして話すのは、お前が初めてだ。人間としての尊厳を徹底的に踏み躙られる、忌むべき病。一種の先天的奇形。病名を口にするのも憚られる。あえて言うなら包皮余剰症」
「それはただの包茎ではないのか?」
そこで私は言葉を区切り、補足の一言を付け加えた。
「本当に関係ないな」
「包皮余剰症に思い悩んだ俺はバイトに精を出した。東京上野の某診療所で施術を受けるためだ。一つ上の男になるためには金が要るんだ。保険が利かないからな」
我が友は豆知識を交えて話し、言外に博識を誇示しているものの、その表情は暗い。だがそれも当然のことであろう。男性である以上、男性のシンボルに不完全要素があって一人前の男子と言えようか。言えまい。包茎者は男ではないのだ。
「そして手術費用を準備した俺は意気揚々と昨日上野へ赴いた。俺は真皮露出者として生まれ変わったんだ。だが診療所から出た時、ある重大なことに気が付いた」
言葉は返さず、私は視線でその先を促した。
「診療所の者達は俺がかつて余剰者だったことを知っている」
「で?」
「殺すしかない」
「お前は何を言っているのだ?」
「そこで、この杖だ」
我が友は左手で例の杖を軽く叩くと、意味ありげな微笑を私に向ける。
「絶望に打ちひしがれていた俺に優しく声をかける者がいた。天使のように神々しい、美しい女性だった。彼女は言った。あなたの幸福を祈らせて下さい」
「待て」
「最初は俺も胡散臭く思ったさ。だが彼女はそんな連中とは違った。彼女の語る世界の美しさ、思想の正しさは本物だ。今の俺は、心から彼女と先生を信じている」
「先生とは誰だ」
「俺の艱難辛苦を残らず聞いた彼女は、この杖を取り出し、俺に手渡し、微笑み、言った。次の参院選は公明党に投ひょ」
「そうか」
「信じられんかもしれんが、この杖を手にした俺の身体に、不思議な力が湧き上がったんだ。万能感とでも言うべきだろうか。俺は彼女に別れを告げると、一目散に診療所へと走った。そして、忌まわしき余剰者としての過去は闇に葬られた」
「診療所の者達全員を殺害したのか?」
我が友は、声を出さずに笑った。微笑みではない。哄笑、嘲笑、失笑、冷笑、どれとも違う。酷薄さと憐憫の情とがない交ぜになった、そんな笑いだった。
「撲殺したさ。だったらどうだってんだ?」
「我が友とはいえ、その所業は目に余る」
我が友は嘆息すると、小さく呟いた。
「余ってたのは目じゃなくて皮だろ」
「上手いな」

       

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