Neetel Inside 文芸新都
表紙

_Ghost_
どうすんのさ、おれ

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____________________lonely ghost____________________________





新規霊感者様探しは難航した。とにかく目につく人間すべてにアプローチを仕掛けるが、皆一様に俺など存在していないかのように通り過ぎてしまう。まあ事実見えていないのだから、仕方がないのだけれども。
悲しいね、おれここにいるのに。

誰かに話しかけて、でも伝わらなくて。そんなことを何時間か繰り返したらすっかり萎えてしまった。

気持ちが、萎えてしまった。次、話しかけてダメだったらどうしよう?
どうしようも何も、次がダメならその次で、その次もダメならさらに次。
それを何回繰り返せば、この苦労は報われる?
そんなことは神様にしかわからない、つまり聞くだけ無駄。
しかし問うことしか出来ない非力な幽霊は、空を見上げて疑問を投げかける以外に術を持たぬのだ。
俺は、どうすればいい? って。この無駄とも思える努力を延々と続けるだけしか道はないのか? って。
本当は、道はいくらでもある。無駄だと思えばやめればいいのだ。諦めればいいのだ。
でも、やっぱり俺は諦めたくない、諦められない。
ならやるしかない。
マジで?
マジで。


「急がば回れ、急がば回れ」


口中にて二度、呟いて心機一転。
取り敢えずやろう。無駄でも何でもやるしかないのだから、最初から選択肢なんてないのだから、後は根気よく。
一人一人、丁寧に迅速に。俺という存在を訴え続けよう。





________come back______________





頑張ったけどダメだった。



まあ頑張ったんだから仕方ない。他の誰にも俺のこの努力は伝わらないけれども、俺は俺のことを逐一見守っていたから知っている。
俺、頑張った。でもダメだった。
しゃあないしゃあない。
そんな訳で、頭をポリポリ所在なさげにしつつも、もはやここが最後の可能性であるという焦燥感に後押しされて俺、強気。
「いや、マジメにすみませんけれど、佐屋さんにご協力して頂く以外の選択肢が消えましたので、是非お願いします」
ペコリ。
「・・・・・わーがる思ちゅうなら、いね」
バリバリ寝起きの顔(現時刻午前二時。わっ、草木も眠る丑三つ時だネッ 偶然だネッ)で俺を睨みつけ、低く鋭い声で恫喝する佐屋嬢。
しかし俺は幽霊。それも開き直った幽霊。もうね、目的のためには手段とか選んでいられんです。道徳? 倫理? ああ、生きている人達が守らなくちゃいけない的なアレっしょ? おれも昔守ってたわーってな具合。
「えー、このたびですね、私伊藤樹は幽霊から悪霊にジョブチェンジ致しますことを決意しましてですね。ええ、悪霊。わかります? 悪い霊と表記しましてこれがまた読んで字の如く、悪いことをしちゃう幽霊なんです、ええ。まあ悪いことと言いましても、ポルターなんちゃらだとかラップほにゃららだとか、そんな極道な真似は出来ない非力な幽体。せいぜいできることと言えば、霊感のある人の眠りを妨害する程度なのですが。いや、しかしでもこれってよく考えたらカナリ(尻あがりの発音)迷惑じゃありません? だって生きてる人って寝ないと死ぬでしょ? それも長い時間をかけて苦痛にうめきながら死ぬっしょ? 眠りたい眠りたい、でも耳元で悪霊がうるさくてねむれないぃぃぃって苦痛に塗れて死ぬっしょ? ヤリィ、これすげー武器だぜ。ああ、わかります? これ独り言とかじゃないですよ? 当方には、当方の提示した要求が受け入れられるまでこの悪逆非道なる行為を続ける決意がございます。そんな訳で早速はじめさせて頂きますね、あそれワッショイッ! ワッショイッ! ワッショイッ!」
佐屋嬢の耳元で力の限りワッショイし始める俺。最低だね、うん最低。あー自己嫌悪、でもこうしないと目的は達成できないのだから仕方無いと自己正当化。しかる後に目的の為ならば何をしてもいいのかという自問。そりゃダメでしょう常識的に考えて、なにやってるの俺と自己嫌悪。でもでもでも! こうしないとだめなんだからっ! と自己正当化。以下、無限のラビリンス。
果てしない迷宮を潜りつつも全力のワッショイは続く。
声を限りに全身全霊。頼む、頼む。
おねがいします。
願いながら、ワッショイ。


「・・・・・・・・・」


パタリを無言で立ちあがった佐屋嬢。お、意外と早く折れたなぁとか思った俺は甘かった。
「やかましいわっ!」
バサン! と佐屋嬢がなにやら机の上に置いてあった容器から一掴みしたものを俺にふりまいた。いやいや、自分幽霊っすから物理的攻撃とかスルーなんすよ。余裕綽綽で待ち構えていたらジュワッと煙を上げるマイボディ。
フィジカルダメージっ!? なんで!? おれ、おれ幽霊じゃなかったっけ?
痛みとかはないけれども、現在進行形で蒸発でもするみたいに消えてゆく体。
ないないない! こんなんないから! いやあああああ!
佐屋嬢は予期せぬ反撃に忘我する俺を氷の瞳で一瞥すると、容赦なく幽霊を蝕む何らかのアイテムを再度握り込んだ。
殺すつもりだ。
汗などかかぬはずの背中に、ひやりと冷たい感触が一走り。俺は今、危険に直面している。

ここで死んだら、もう取り返しがつかない!

本能的に察した俺(幽霊)は全力でこの場を離脱した。流石に全力飛行すれば安心なのだろうが、それでもチラチラ後ろを見てしまう。
なんなんだありゃあ?
油断すれば混乱の坩堝へと落ち込んでしまいそうな思考をなんとか整合し、とにかく離脱が優先だと方向も定めず逃走。
ダメージを受けた箇所はもう煙を上げていない様子だが、怖くて視認できない。これは人間だったときと同じ感覚なんだな。
はてさて本当にもう。
中空にて頭を抱え、煩悶する。
いやだってさ、けっこう手詰まり感がひどくないですかこれ。
頼みの彼女は拒絶の塊で、心を鬼にして身を悪霊にして脅迫したら逆に殺されそうになっちゃって。
さあ、もう、本当に、ええ。



どうすんのさ、おれ。

       

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