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ソフトBL小説集
「ソフトBL小説を書くための手引書」(新書系BL)

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 これを今読んでいるあなたは、

・ソフトBL小説に興味を持っている
・普段からソフトBL小説を自分でも書いている
・いつかソフトBL小説集にFAを送りたいと思っている
・ソフトBL小説に特に興味を持っていない

 のいずれかに該当すると思います。中には「自分にはソフトBL小説なんて書けっこない」と思い込んでいる人もいるかもしれません。しかしそう判断するのは早計です。実はソフトBL小説というのは、ちょっとした工夫次第で誰にでも書けるようになるものなのです。騙されたと思ってここに書いてあることを実践するだけで、あなたは今日からでもソフトBL小説作家として生きていくことが出来るかもしれません。もしうまく書けなければその時は開き直って、ハートフルBL小説でもハードゲイBL小説でも書けばいいのです。
 難しく考えることはありません。あなたの中にあるものを掘り起こし、形にするだけでいいのです。ソフトBL要素は何にでも含まれています。あなただけが例外だなんてことはあり得ません。


<実体験を元にソフトBL小説化する>

 これは私も『シュレンディンガーのパンツ』でやっています。大抵の人は、ソフトBL的体験を六つや七つは持っているものです。特に少年少女時代には、仲の良い同性の友人への好意を、恋愛感情だと錯覚することも多いですから。
「あれはひょっとしてソフトBL的体験だったかも……」と思い当たることを探して書き起こしていきましょう。少し脚色すれば小説らしくなります。ただしあまりに大袈裟にしすぎると、せっかくあったリアリティが失われますので気をつけて。


<恋愛小説をソフトBLに置き換える>

 次は邪道です。もしあなたがゲイでも両刀使いでも腐女子でも何でもなくても、比較的簡単にソフトBL小説を書く方法をお教えします。
 自作の恋愛小説に登場する男女を、男同士に置き換えるだけ。たったそれだけであっさりとソフトBL小説が出来上がります。「そんな馬鹿な」と思うあなたに向けて、ここで一つ実践してみましょう。例に出した普通の恋愛小説は、もちろん私の自作です。


『ベンチで僕は』(普通の恋愛小説)

 学校からの帰り道にある公園のベンチに座って、僕と加奈子先輩はいつも三十分ぐらい他愛もない話をして過ごす。話すのは決まって最近読んだ本のこと。文芸部の先輩である彼女は、唯一の二年生部員である僕を熱心に教育してくれているのだ。
「来年は君一人になっちゃうかもしれないんだから、いっぱい新入生を勧誘するんだよ」
 なんてことを言って僕を叱咤激励してくれるが、正直な所、先輩がいなくなる文芸部に僕はもうあまり興味を持てなくて、いっそ廃部になっても仕方ないかな、と思っている。文芸部の先輩-後輩という関係から一度抜けてみないと、いつまでも恋愛対象として見てもらえないのじゃないかと、心配すらしている。
 いつもなら広いベンチに二人掛けで、二人の間にはたっぷりと隙間が空いており、そこを埋めるのは諫早湾干拓事業より大変なことに思われた。けれど今日に限って、一人のおじいさんがベンチに腰を下ろし、気を遣った先輩がほんの少し僕の方に体を寄せてくれた。
 最近読んだ外国の恋愛小説についてまだまだ語りたがっている先輩はベンチから離れる気はないらしい。と、おじいさんの奥さんらしいおばあさんが後からゆっくりとやってきて、おじいさんの隣に座った。更に先輩との距離が縮まる。先輩のスカートの裾が僕のズボンに触れ、先輩の長い髪の毛が僕の耳をかすめた。先輩の体温が伝わってくる。先輩が何か話すたびに息がかかる。これまで先輩と通算何百時間語り合ってきただろう。今の今まで、先輩の匂いや体温を知らずにいたのが不思議に思えてきた。先輩の眼鏡に映り込んだ僕の顔は、鼻の穴を大きく広げていた。
 密着するのも気にせず、「そこで二人はね……」などと語っている先輩の頭越しに、老夫婦がニヤニヤと僕らを眺めているのが見えた。後押しされている、と感じた僕は、本当はその小説の結末を知っていたのだけれど、敢えて聞いてみた。
「それで最後、二人はどうなるんですか?」
「こうやって……」と言って先輩は僕の背中に腕を回して、顔をぐっと近づけた。
 いつもより狭くなったベンチで、僕らは初めて、話をすること以外にその唇を使った。(完)


 この話の登場人物を全部男性に置き換えてみます。


『ベンチでボブは』(ソフトBL小説)

 ジムでのトレーニング終了後、サウナ室のベンチに座って、ボブとジョージはいつも三十分ぐらい他愛もない話をして過ごす。話すことは決まって最近飲んだプロテインのこと。ボディビルディング愛好会の先輩であるジョージは、唯一の会員であるボブを熱心に教育しているのだ。
「とにかく新人を勧誘するんだ。相手がひょろひょろの坊やでも、肉体美に全く興味がなくったって構わない。プロテインを飲ませたら何とでもなる。何だったら危険な薬物を投与しまくったっていいんだ」
 なんてことを言ってボブを叱咤激励するが、ボブは正直な所、愛好会にはいつまでもジョージと二人だけでもいいと思っていた。ジョージは愛好会を大規模なものにしたいという野望を持っているのだが、ボブにはジョージ一人で十分だったのだ。
 いつもなら広いベンチに二人掛けで、二人の間にはたっぷりと隙間が空いており、そこを埋めるのはイラクの大量破壊兵器を見つけるより大変なことに思われた。けれど今日に限って、一人の青年がベンチに腰を下ろし、気を遣ったジョージがほんの少しボブの方に体を寄せていた。
 最近飲んだ日本のプロテインについてまだまだ語りたがっているジョージはサウナから出る気はないらしい。と、青年の連れらしい連中がどさどさとサウナに入ってきた。連れは連れを呼び、あっという間にサウナは大量の男たちでいっぱいになり、室温が二十度上昇した。
 ボブとジョージの距離は更に縮まり、既に密着している。二人のすね毛が絡み合い、ジョージの胸毛とボブの胸毛が混ざり合った。ジョージの体温がボブに伝わる。ジョージが何か話すたびに息がかかる。これまでジョージとは通算何百時間も語り合ってきたのに、今の今まで、ジョージのすね毛の感触や体温を知らずにいたのが、ボブには不思議に思えてきた。ジョージの瞳の奥に、鼻息を荒くする自身の姿をボブは見た。
 密着するのも気にせず、「ほんとこのプロテインは凄くてな……」などと語っているジョージの頭越しに、青年連中がニヤニヤと二人を眺めているのを、ボブは発見した。後押しされている、と感じたボブは、本当はそのプロテインの効能を知っていたのだが、敢えて聞いてみた。
「それで、どんな効果があるんです?」
「股間がな、凄いことになるんだよ……」と言ってジョージはボブの股間に自分の股間をくっつけて、腰を大きく振り始めた。
 いつもより狭くなったサウナで、ボブとジョージとその他大勢は、のぼせて倒れるまで腰を振り続けた。(完)


 登場人物の性別が変わるので、設定などに若干の変更を加えてはありますが、ごく自然に、恋愛小説がソフトBL小説になっていますね。この方法を応用すれば、まずソフトBL小説を書いて、ごく普通の恋愛小説に置き換えるというやり方も可能です。「恋愛小説に挑戦してみたいけどちょっと気恥ずかしくて……」という方は是非一度挑戦してみてください。

 以上、簡単ながら二つばかりソフトBL小説の書き方を記してみました。これを読んだ方の中で、「よし、ソフトBLを書いてみよう!」と思って下さった方がいらっしゃっれば幸いです。
 私が書いた手引書で、あなたがソフトBL小説を書く。そうすればもう二人の関係は、ソフトBLではないでしょうか? 繋がり合えば奇跡だって起こせる。そんなソフトBLの未来は、きっと明るいものでしょう。


(Special Thanks:新都社モラトリアム新書先生、『シュレンディンガーのパンツ』に出てくる教授のモデルとなったB・L教授、加奈子先輩、ボブ、ジョージ、and you)

       

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