「双子の恋」(シリアス系BL)


 僕ら兄弟は幼い頃、お互いの区別をしていなかった。先に母親の腹から取り出された僕が兄ではあったが、両親の呼びかけがどちらの名前であっても、僕らは同時に振り向いた。僕らの顔に違いはなく、僕らの成長速度に狂いはなく、僕らは鏡代わりにお互いを用いた。いつまでもそうして生きていくのだと思い込んでいた。
 だけどそれは無理な話だ。たとえ同じテレビアニメを好きになり、同じおかずを残し、同じ悪夢を見てうなされても、少しずつ差は出てくる。幼稚園や小学校に通うようになれば、いつでも同じ相手と話すわけではなく、全く一緒の行動を取れるわけではない。僕は兄としての立ち位置を求められ、弟は弟としての自由な振る舞いを身につける。始めはほんの些細な差であっても、それまでの二人があまりに均一であったがために、違っている部分が目につくようになった。1mmずれて離れていく平行線は二度と交わらない。端から見れば、相変わらずそっくりな双子の兄弟でしかなかっただろうけれど。
 中学一年の頃、僕らは同じ女の子に恋をした。初恋だった。僕は彼女の優しさに、弟は彼女の容姿に惚れていた。僕らはまだ同じ部屋で暮らしていたから、隠しきれない気持ちはすぐにバレた。
「恨みっこないよう、一緒に告白しよう」弟は性急だった。遠くから彼女を眺めているだけだった僕と違い、積極的に彼女に話しかけ、仲良くなっていたから、自分に自信があったのだろう。僕は了承した。同じ顔なのだから勝算は五分五分、といった計算があってのことではなく、振られた時の弟の悔しがる顔を見てみたかったのだ、と今になって思う。自分と同じ顔の人間の無様な姿を見たがるなんて、なんだか自傷行為みたいだ。
 結果、僕らは二人とも玉砕した。彼女には好きな男子がおり、僕らのことなんて眼中になかったのだ。そのKという男子がどれほど素敵かということを、彼女は僕らに語り続けた。運動神経が抜群で、ストイックなところが格好良くて、私なんかに目もくれず野球に打ち込んでいる姿を見ているだけで幸せなの、と。
 Kは僕と同じクラスだったので、振られた翌日から、彼のことを注意深く観察するようになった。確かに非の打ち所がなく、男である自分の目から見ても魅力的に映った。
 いや、正直に書こう、次第に僕はKに惹かれていったのだ。尊敬出来るとかそういったことではなく、恋愛対象として見えてきたのだ。失恋のショックで自棄になっていたとか、そういうことではない。自我が芽生え始めた幼年時代の終わり、僕と弟は自分達が違う人間であるということを確かめるために、お互いを触りあった。相手の唇が自分の唇ではないことを知り、相手のペニスが自分と違う挙動をすることを確認した。今では夢で見た記憶のようなそれらの行為の中で、既に男色の芽は育まれていたのだろう。
 ここでも弟の行動は素早かった。口にこそ出さなかったが、弟もKに惚れていたのは感じていた。野球部に入り、Kの隣で弟は汗を流し始めた。誰とでも気軽に打ち解ける弟は、あっという間にKの親友となり、Kに憧れる女子達の嫉妬さえ集めるようになっていた。僕は相変わらず遠くから眺めるだけで、Kに惚れていることも当然隠していた。弟は合宿で見たKの壮健な裸体について楽しそうに話し、いつの間にか真剣に取り組み始めていた野球で「Kと一緒に甲子園を目指すんだ」という夢を語っていた。
 でも、双子の兄弟だから分かる。才能の塊のようなKとは違い、弟は平均を微かに上回る程度の運動能力しか持ち合わせていなかった。Kの活躍により中学大会でそこそこの成績を残した野球部だったが、名門高校のスカウトから声をかけられたのはK一人だった。控え投手だった弟は肩を壊し、野球を続けることを諦めていた。
 僕もKも弟も、別々の高校へと進学を決め、三年間続いた奇妙な形の片思いも終止符を告げる、そう思われた。
 中学校の卒業式を終え、中学生でも高校生でもない宙ぶらりんな身を持て余す春休み、弟がKを連れて家へとやってきた。僕らは既に別々の部屋で生活していたので、弟はKを自分の部屋へと案内した。
「今、うち誰もいないから」弟の声が聞こえた。僕が隣の部屋にいることに気付かないはずがない。Kと自分との仲を見せつけようというのだ。僕は壁に耳を当て、二人の会話を盗み聞きした。
「俺、ずっとKのことが……」
「実は俺も……」
 聞きたくなかった声が聞こえてきた。一瞬の無言と、服を脱ぐ音、ベッドに倒れこむ音。僕は壁から耳を離すが、そんなことではもう防ぎきれない二人の喜びの声と、僕の心臓の鼓動が心を締め付けた。僕は音を立てないようにドアを開けて廊下を進み、玄関の傘立てに入っていた、弟の金属バットを手に取った。中学一年のあの時、僕も自分に素直になって野球部に入部していたなら、毎日振り続けていたかもしれないバット。こんなところで、弟と、好きな相手を殴るために使うことになるなんて、と僕は情けなくなった。だけど僕は弟が許せなかった。いや、それ以上に、Kが自分と同じ顔を持つ相手に抱かれていることが耐えられなかった。
 勢いよく弟の部屋のドアを開けると、驚きに打たれたKが僕を見上げる。しかしその上に乗っていた弟はゆっくりと僕を振り返り、笑顔さえ見せていた。
「一緒にやろうよ、兄さん!」
 その手があったか!

 その後は三人仲良く幸せに暮らしました。

(*3P*END*)








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