Neetel Inside 文芸新都
表紙

文芸作家解体新書
橘圭郎

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新都社は金鉱脈に例える事が出来る。
月刊誌デビューや漫画賞の受賞を果たした漫画作家を数多く輩出し、商業化に至らずとも美麗な画力や濃厚な話力、またはその両方を兼ね備え読者の心を掴んで離さない漫画家は数えきれない。
その金鉱脈のすぐそばに流れているのが、文芸新都という名の鉱脈川だ。
川底をすくってみれば、何の価値もない泥や石ばかりが現れる。毎日毎日、嫌になるほどゴミのような廃棄物も流れ出す。いいものがあれば儲けものな一般者はまずここで諦める。しかし、ごく稀に純度の高い金の粒を発見する事ができる。
オナニーマスター黒沢という巨大な原石はあらゆるところで加工され、最終的には誰もが欲しがる宝石となって商品化された。まさにその石は金になった。
コ・リズムという原鉱は発見された時点で大変純度が高かったが加工が難しいとされ、ある宝石工に磨かれることにより再びその価値を高めた。
今日もまた川底をすくってみると、泥や石の中にわずかながら輝く石を見つける事ができる。
橘圭郎による良い子と悪い大人のための平成夜伽話だ。
彼はこれが二作目であり、一作目のフロッピー・パーソナリティーはいまいちパッとしなかった印象がある。
処女作でいきなりブレイクすると噂される希少な王族系の血筋ではなく、彼は二作目を書く事により人気を得た文芸作家だ。
さて、そんな橘の二作目を本日は紐解いてみよう。
物語の読み聞かせ、とでも言うのだろうか。ページを開いてみると、流暢な語り口のストーリーテラーが不思議で温かい小さな世界へと招待してくれる。
三人称のやや古風な語り口でどことなく古典文学のような難解さを感じるが、ところがどっこい読みやすい。一文が短く、セリフが非常に多い。また、セリフ回しもライトで親しみやすく、オチもぴりりと舌に効く。
読み物としての完成度は高く、全体を通して読み終えた時あちこちに散りばめられた橘の遊びともサービスとも受け取れる仕掛けも面白い。
オナマスのように話数も多くなく、コ・リズムのように圧倒的な文章量でもなく、これらの超大作に比べればまさにサクッ読めちゃう良短編集と位置付けられるだろう。
だが、文学的要素に視点を置けば少々物足りない。どちらかと言えばライトノベルに定義される作品だと著者は捉えている。
一貫した“奥深い”テーマが見当たらず、登場するヒロインキャラクターがどことなく薄っぺらい。世にこれでもかと出回る、インプットされたヒロインのアウトプットに近しい。
読み終えた後の満腹感は確かにあるが、やはり軽さが印象に残るためか物足りなさを感じてしまった。
ファーストフードによく似ている。
途中でいくつか食傷気味な表現も気になり、作者には申し訳ないが一番悪い表現をすればライトノベルに影響を受けたライトノベルになっていた可能性も否定できないと思った。
だが前にも述べたように、作品としての完成度は高く古典小説をいい意味で現代化できたとも言える。
完璧な小説は存在するわけがなく、完璧なレビューも存在しない。どの作品も一長一短があり、レビューも書き方一つでよくも悪くもなる。そこに文章の醍醐味を見いだせる。
だからこそ文芸で筆をとり続ける猛者達はコメントをもらえず、誰からも読まれなくても何かを書き続けているのかもしれない。
これは余談だが、著者が一番好きな話は南国のスイートハニーだったりする。

文芸ストーリーテラー 橘圭郎

話力     ★★★★☆
文章力    ★★★★☆
キャラクター ★★★☆☆
知名度    ★★☆☆☆

       

表紙

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