Neetel Inside ニートノベル
表紙

わが地獄(仮)
うつ病になった

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 うつ病になってしまったが、俺が思っている以上に重症のようだった。毎日ベッドに横たわりほとんどの時間を寝て過ごしている。何もやる気がせず、食事とトイレのとき以外はほとんど起き上がらない。なぜこうなってしまったのか、俺にもわからない。だが重症だ。どうすればいいのだろう。
 俺はとても疲れていて、それは社会に起因するものだった。社会というものが俺に過大なストレスを与えるのだ。だから俺は社会なんていらなかった。社会なんていうものは俺を傷つけるだけだ。助けてはくれないのだ。だから破壊されたほうがよかった。
 アパートで寝ている間にリディアが尋ねてきた。元の世界に帰れなくなったらしい。とりあえず部屋にあげた。リディアは働くつもりだと言っていた。俺は彼女に部屋を貸し分ける代わりに家賃をもらうことになった。俺はそれでよかった。
 彼女のおかげで生活は楽になった。働いていた頃の貯金は尽きかけていた。
 俺には金が必要だった。金だけが人生だった。
 食べても食欲がないからおいしくない。
 薬のせいで性欲もない。
 俺は何がしたかったんだろう。
 まあいいか。べつに。
 俺はとりあえず寝ることにした。



 寝て起きるとリディアがいた。優しく微笑みかけてくれる。俺には彼女がいればそれでいい。何年か前に異世界転生した際に知り合ったのだ。彼女はエルフだった。俺たちは世界を小さく細やかに救って、俺はこの世界に戻された。ずっと向こうにいたかったのに。
 この世界はとても冷たい。リディアにもその寒風は吹きすさんでいる。夜の店で働くのは大変だろう。俺のことも養わないといけない。だがリディアは笑顔を絶やさなかった。それが俺の救いだった。笑顔のない家庭なんてとんでもないことだ。壊してしまわないと。

 追手がかかった。俺は危ないと思った。リディアを守らないと。俺は追跡者を何人か始末した。秘密裏に。俺は迅速だった。俺は優秀だった。この社会でさえなければ。
 俺は眠りが欲しかった。いくら寝ても寝たりなかった。疲れていた。どうすればいいんだろう。
 アタマがしゅわしゅわする。


 リディアが死んだ。飛び降りたのだ。なんで飛び降りたのだろう? そんなに辛かったのだろうか。だが俺はそれを承認できなかったからリディアが生きていることにした。貯金は彼女からせびった分がまだあった。お金がある限り彼女は生きているのだ。俺が生きているのだから。


 生活保護の申請を拒否された。まだ若いからハローワークでいくらでも仕事はあると追い返されてしまった。俺は火炎放射器で役所を焼きたくなったが、手ぶらだった。俺は異世界にいきたいと思った。リディアの死体は腐り始めている。


 東京に核が落ちた。俺はこれでコロナが浄化されると思った。みんな放射能に苦しんでいたが俺だけが平気だった。きっと異世界転移者だったからだ。俺は特別なんだ。俺は崩壊した東京をさまよい、弱者を苛んで生き延びた。俺のために死ね。


 リディアの墓をつくった。人間がいなくなって正常になった世界で、俺はリディアの墓をつくった。彼女はどうして死んだのだろう? 暗殺されたのだろうか? そうかもしれない。だとしても犯人は核で死んだろう。コロナは終わった。人々は少しずつ平穏を取り戻している。西部劇の世界だ。



 俺は人間の肉を食った罪で投獄された。とんでもないことだ。俺は人間を純粋なエネルギーに変換できる魔法をエルフから授かっていた。だから食ってない。エネルギーにしただけだ。純粋なカロリーに。それで生命活動を維持した。それは食ったことになるのか? 味も知らないのに。味もわからないのに。俺の抗うつ薬はまだ残っていた。たくさん飲まなきゃ。




 牢屋の中には前の罪人が置いていったメモ帳があった。俺はそれに気持ちを書き連ねた。すると気持ちが少しだけラクになった。俺はメモ帳に依存した。書いて書いて書き連ねた。新しい文字も考えた。発達障害でほとんどのことが覚えていられないのに、自分でつくった文字のことは簡単に覚えられた。それを書いた日のことも。記憶にはセーブポイントがある。俺にとってはそれが文章だった。書いた日のことは覚えている。それ以外の日はなかったことになる。リディアに会いたい。



 牢屋が火事になったどさくさで脱獄した。俺はどこまでも走った。看守もそんなに努力しては追いかけてこなかった。夜空は星でいっぱいだった。人間の死が空を瞬かせる。とても綺麗だ。たくさん死ね。ゴミども。俺を癒やす美しさのために。それだけのために。


 人間が絶滅した。俺は社会復帰したいと考え始めている。





       

表紙

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