Neetel Inside 文芸新都
表紙

マンネリガール
第5話「ごめんなさい。今は、すごく不安だよ……」

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 加悦は就寝前、1人のときなら欠かさずに行っていることがある。
 シャワーを浴びたあとはすかさず化粧水で肌の手入れ。髪をドライヤーで乾かし、柔軟体操で体の代謝を促す。それらが終わると鏡の前で様々な角度から表情や仕草を確認し、自分の魅せ方を研究する。
 加悦は恵まれた外見もさることながら、それに甘えることなく日々努力のできる性格を持ち合わせていた。自分を良く魅せたいと思うのは当然だったが、結局のところ、隣にいてくれる愛する人、昴の為だった。
 自分磨きが終われば明日の予定を確認する。平日なら大学の講義の準備、人と会う約束があれば時間と場所を確認、特になにもなければ部屋の掃除や買い物などの予定を考える。
 これらすべてを終わらせて、戸締りを確認し、コップ1杯の水を飲む。これでようやく就寝前の習慣が終了する。あとは昴へ「おやすみ」のメールを送り、お気に入りの香りで満ちるベッドに沈み、眠りにつく。
 しかし、この夜。加悦はドアのカギがシリンダーの旋状だけで、チェーンロックをしなかった。
 
 かちり。ドアのカギが解錠された。1人の男が、静かに開かれたドアから侵入した。開いたときと同じようにドアを静かに閉めて、シリンダーとチェーンロックをかけた。
 ゆっくりと、足音を殺して進んでいく。テーブルに置かれたサイフ、どこかにあるだろう銀行通帳、保険証。それらにはまったく興味がないように、ただ1つだけを求めて進んでいく。
 目的に辿り着いた。そこはベッド。しかしベッドが目的ではない。男の目的は、そこに眠る、加悦。
 シングルサイズのベッド、白いシーツの上で横になる彼女。腰まで届く黒髪を撒き散らし、穏やかに寝息を立てている。小さな足、足首。きゅっと引き締まった脚。濃紺で白いレースが飾られているミニスカート。その奥には黒いショーツに、まだ見ることのできない、女性器。
 上半身は白いシャツで覆われてしまっているが、仰向けでもわかる胸の膨らみ。呼吸のたびに小高い丘は上下に動く。シャツの袖からは彼女の手。丁寧に磨かれた爪が白く光っている。
 時おり体をもそもそと動かし、か細い声で鳴いて寝苦しさを訴える。動きに合わせてシーツに波打つ髪と、ミニスカートから見え隠れする黒いショーツがひどく扇情的だった。
 男は性的興奮を覚えていた。性欲をぶつけ、快楽を貪り、濃密な本能を注ぎこむには十分すぎる女性。さらに、好きに蹂躙できるだろう状況。今すぐにでもいきり立つペニスをねじ込み、彼女が壊れるぐらい突き込みたい。しかし、男はぐっと我慢する。まだ、そのときではないからだ。
 静かにベッドに上がり、四つん這いになった。男のすぐ下には加悦。まだ異変に気づいていない深い眠りの中、夢の世界を楽しんでいるようだった。体温さえ伝わってくる、男はそんな距離で加悦を感じていた。シャンプーの甘い香りと生温かな寝息。男は一呼吸し、ズボンの後ろのポケットから銀色の2つの輪っか、手錠を取り出して、口に咥える。
 そして、加悦の両腕を、つかんだ。
「んん……え……?」
 ようやく異変に気づき、加悦は目を覚ました。が、遅すぎた。がしゃり。万歳をした状態で手錠をかけられた。
「え、うそ、うそうそうそっ」
 信じられない。そんな様子だった。まだ夢の中にいるような感覚は、手錠の硬さと冷たさ、そしてのしかかる男のずしりとした重さとじっとりと伝わる温かさであっさりと掻き消えた。
「やめて、やめてください……」
 叫ぶことも睨むこともせず、ただ怯えているような目を向けていた。そして唯一できた、精一杯の抵抗。しかしそれで男が止まるはずもなく、大きく口を開けて加悦の首に貪りついた。
「あぅ、だめ、だめぇ……」
 べろべろと唾液を塗りつけていく。舌で柔らかい肌を味わい、目で怯える様子を楽しみ、鼻で香りを吸い込む。
 じゅぷ。男の唇が強く吸いつき、離れる。そこには赤い印。できたばかりのキスマークを、男は焼きつけるように何度も舌でなぞった。まるで所有物にされたような感覚が加悦の心に刻まれていく。
 ぎゅ。シャツ越しに胸を鷲づかみにされた。男の手にはシャツの感触、だけ。そこにブラジャーはなかった。
「あう、ああ、やだぁ」
 わしわしと揉まれる胸。加悦の心はずっと拒絶している。けれど自己防衛の本能なのか、それとも持ち合わせているマゾヒズムが刺激されつつあるのか。嫌悪感は少しずつ快楽に変換されつつあった。
 じわり。加悦の性器から雄を迎える体液が滲み出る。荒いだけの吐息に艶めかしい声が混じり始めている。加悦の心は男の手によって蝕まれていった。
 びっ。
「きゃぁっ」
 男はシャツを破いた。シャツのボタンが千切れ飛び、仰向けでも形を失わない張りのある胸が露出した。男はすかさず手を伸ばす。そして、まだ柔らかい乳首に吸いつき、ぐりぐりと舌で責め、かぷりと甘噛みをする。
「ん、ああ、あああっ」
 加悦の口から甘い声が漏れる。性感帯として十分過ぎるほどに開発された胸は快楽しか伝えなかった。少しずつ堅くなっていく乳首は、男の口の中で快楽の度合いを教えていた。レイプされているのに、すっかり感じてしまっている。男の心がざわめく。
 胸から顔を離し、脚をつかみ、乱暴に開いた。ショーツはわずかに濡れていた。また、男の心がざわめく。
「そ、そこ、そこは、だめっ」
 脚を閉じられないよう、加悦の深いところまで詰め寄った。どう足掻いても閉じれなくしたところで、ついに男は指で下着をずらした。しっとりと濡れる性器が晒された。淡い桃色のそこは男を知らないようで、しかし愛する人に捧げたことのある、加悦の性器。
 くちゅっ。指が秘所の入り口を上下に撫でる。小さくもいやらしい水気のある音が奏でられる。
「うあ、あ、やめ、やだぁっ」
 少しずつ指が埋まっていく。だが、まだ湿り気が少ない。やや強引に膣内に侵入し、ずりずりと引っ掻くように指が暴れる。
「う、やだぁ……昴、くん……昴くん……」
 男の動きが止まる。が、それも一瞬。空いた手でポケットから四角いものを取り出して、加悦に向けた。
 ピピピ、ばしゃり。閃光が走り、その眩しさに目を閉じてしまった。まぶたの向こうで何度もそれが繰り返される。
 加悦はこれを知っていた。デジカメで、この痴態を撮られている。手錠をかけられ、シャツは引き裂かれた。首にはキスマーク、胸は散々弄られ、あげく秘所には指まで入れられる。そんな姿を、撮影されている。
 この男のコレクションにされるのなら、それはまだ良かった。自分には無関係なところで自慰に使用されるのは、気分は悪いが最低ではない。しかし、それはあくまでまだマシな考え。脅迫。データを元に脅され、何度も交わることを強要される。ドラマやマンガにありがちな展開が容易に想像できた。
 男は何枚か撮ると、デジカメをポケットに戻した。そして、ついに。
「やだやだやだっ、それは、やだっ」
 チャックを開いてペニスを出した。それは凶悪なまでに屹立していて、あとは欲望の捌け口に精液を吐き出すだけ。最後の一線が越えられようとしていた。
 くちり。亀頭が彼女の性器に触れる。
「おねが、それ、やっ」
 ずっ。沈む。
「あ、ああっ、昴、くっ」
 ずぅ。一呼吸もなく、ペニスは根元まで加悦の中に入った。びくびくと震えるペニスが伝わってくる。
「昴くんっ……ごめん、なさい……」
 加悦と男は、1つになった。
 

     

 
 男のペニスは普段よりも太く、そして硬く勃起し、みっちりと膣内に埋まっていた。ようやく加悦の体を味わえたことで、熱くたぎっていた男の思考に少し余裕が生まれた。
「抜いて……はな、れて……」
 じぃっと、加悦を観察した。顔はこちらに向けているものの、睨むわけでもなく怯えているような表情。首にはキスマーク。シャツは破れ、胸は自分の唾液でべたべたになっている。無理やり開いた両脚、その中央では結合している互いの性器。
 もう問題はない。あとは股間から子種を排出する、だけ。男はゆっくりと動き始めた。
「い……いたっ……!」
 加悦は皮膚を裂かれるような痛みに声を上げた。あきらかに準備が整っていない膣内は拒むようにペニスを締めつけていた。ぐ、ぐっ。数度動いてみるものの、男にも痛覚しか伝わってこなかった。
 快楽のため、昇り詰めるため、男は胸をぐにぐにと揉みしだいた。同時に指の腹で乳首を擦り、とにかく加悦に快楽を与えようとする。
「ん、んん、あっ」
 あまりにも乱暴な愛撫。しかし、それでも生まれる快感。ペニスを拒む膣内は、少しずつ、ほんの少しずつ湿り始めていた。それでも男は待てず、親指を舐めて結合部のすぐ上、クリトリスに指を置き、こりこりと擦り始めた。
「あう、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あっ」
 唾液が潤滑油となり、指はなめらかに動く。加悦はクリトリスが擦られるたび、動きに合わせるように声を出してしまう。
「あつ、あつい、ああ、ああ」
 クリトリスを中心に、まるで火であぶられているような熱みが広がっていく。その露出したウィークポイントは、相手や雰囲気などお構いなしに加悦の準備を進めていく。
 ぬるり。ペニスが動いた。痛みはない。準備が、整ってしまった。
「あっ、ああ、いや、いや、だぁ」
 ぬる、ぬる、ぬるり。首を振って拒絶するが、その姿は男の本能を燃え上がらせる要素にしかならなかった。興奮のあまり、男は加悦にキスをした。口内に溜りに溜まった生唾を加悦の口へ流しこんでいく。
「うう、ふぅ……!」
 ぐちゃぐちゃと暴れ回る舌から逃れようとするものの、あっさりと捕らえられてしまう。男は加悦の舌を堪能し、吸い上げた唾液で喉を潤していく。
 男は腰を止めてキスに専念していた。柔らかな内頬をつつき、歯の表面をなぞる。男の額から汗がしたたり、加悦に落ちる。その野性的なキスに心が折れてしまったのか、加悦は暴れ回る舌に抵抗しなかった。
 男が離れると唾液の滝が降り注いだ。加悦はそれを口内に受け止める。腰の動きが再開した。ぐちゃぐちゃと結合部から音が鳴る。
 意識から、昴の姿が薄らいでいく。
「う……くっ」
 男は初めて声を漏らした。息は荒く、動きも早くなっていく。この様子は知っている。限界が近い。男性の限界、すなわち、射精。
「だめ、中は、中は、だめぇ」
 もちろん男はそんな言葉に耳を貸さない。裏切るように動きを早めていく。
「く、うぅ」
 男は苦しそうに声を出す。もう、その瞬間は近かった。
「やだ、抜いて、抜いてぇぇぇぇっ」
 必死に体を動かしてペニスを抜こうとする。が、無駄な抵抗だった。
 その瞬間が、訪れた。
 どくんっ。
「あっ」
 どく、どくっ、どく。
「ああっ、あああ」
 ペニスが大きく震える。
「あ、やだ、いや、だ」
 首を大きく振る。しかし現実は変わらない。男はペニスを膣の最奥まで挿し込み、射精の余韻に浸っていた。
 絶頂を迎えた男は、加悦からペニスを抜かずに手を腰から胸へと移動させた。そして、愛撫が始まった。これだけでは終わらない、そう言わんばかりに手が忙しなく動き始める。
 ついに意識から、昴の姿が、消えた。
 それが、加悦の限界だった。
「ふぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇんっ」
 子供のように声を出し、泣き始めた。
 
「あ、う、ごめんっ」
 昴は胸から手を離し、ペニスを引き抜いた。それには避妊具がつけられていて、当然、精液はその中に溜まっている。
「だから、本当にするの、て訊いたのに」
 拘束する手錠を外し、赤く痕ができているところを何度も撫でた。呆れた表情を浮かべる昴。加悦はただ泣いていた。
 全容を述べてしまうと、一連の出来事はすべて加悦が考えた趣向、演出の性交渉だったのだ。『侵入者に強姦されるというシチュエーション』を提案し、わざわざ侵入するところから開始した。加悦は破かれても問題のない服と下着、手錠やデジカメを用意し、昴はあらかじめ避妊具をつけていた。口を塞ぐための粘着テープも用意していたが、安全面を考えて使用しなかった。
 よりリアルにするために照明も消す予定だったが、昴が「ちゃんと加悦を見たい」という一言で却下となった。すべてが同意の上での出来事だった。
「どこか痛かった?」
「うわぁぁぁぁぁぁん」
 提案を持ちかけたのも、演出を考えたのも加悦。だが、以前のメイドを演じていたときと同様に、演技に深入りし過ぎてしまった。本当に見知らぬ誰かに強姦されているような錯覚に陥ってしまった。
 昴はそんな加悦を呆れもせず、頭を撫でた。撫で続けた。隣に寝て、ぎゅっと抱き締めた。
「……ごめんね、昴くん」
「ううん。それより大丈夫?」
「うん……昴くん、いや、だった?」
 加悦は覚えていた。事の途中に『昴』の名前を出したとき、昴が悲しんでように見えた。それと、感じている様子を見られたとき、怒っているようにも見えた。
「演技とはいえ、あんまりいい気分じゃなかったよ……興奮はしたけど」
「ごめんね、ごめんね……」
 謝りながら泣き続けた。昴はずっと抱き締めて、ずっと背中をさすっていた。加悦は次第に落ち着き、泣き疲れたのか眠気が押し寄せてきた。最後に1回「ごめんなさい」と謝り、軽く触れ合うだけのキスをして「おやすみ」と囁いた。
 隣にいて、手も繋いでいる。それなのに、昴がすごく、遠く感じた。
 考えて、がんばった結果、悲しい想いをするだけではなく、相手を不快にさせて迷惑までかけてしまった。自分の不甲斐なさと、相手への申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 隣で眠る彼、繋いでいる手。とにかく遠い。体温さえどこか別のところにある、そんな気がした。
 
 ごめんなさい。今は、すごく不安だよ……
 
 加悦は繋いだ手を離して、目を閉じた。
 
 

       

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Neetsha