中途半端に下品な住宅街。
襟のゴムは完全に伸びきっていて、袖の部分は黄色く変色したような、
そんな子供たちが、交通の安全など考えず、自転車を蛇行運転させる。
親たちは子供たちに目もくれず、門前でタバコを吸いながら、世間話をする。
そんな住宅街に、春子の実家はあった。
春子はそこから、徒歩で駅まで向かい、電車で三十分ほど揺られる。
そこからはバスだ。
バスの中では、同じように着崩した制服の学生が、立ったり、座ったりしている。
横に置いてあるカバンをどければ、あるいはもう少し一人ひとりがつめれば、
もっとたくさんの人が座れるだろう。
春子はそのバスで座った事は無い。
たとえ、座れるスペースがあったとしても、座らないのだ。
そうして、十分ほどバスに乗っていると、春子が通っている「高校」が見えてくる。
春子は、高校生になったのだ。
決して、その高校が家から最も近い高校というわけではない。
ではなぜ、春子は近所の高校に通わなかったのか。
学力的な面もあったが、「知ってる人がいない」というのが、最も大きな点だろう。
春子は「中学時代の自分」を知らない世界へ行きたかったのである。