Neetel Inside ニートノベル
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電波ジャッカーBLUE 【完結】
第五話【修学旅行】

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高校3年の頃、志村に、今後の人生観を変えるようなものすごい出来事があったのだが、まぁなんというか、省略する。

なぜ省略するかといわれると、何とも説明が難しい。
二重表現というか、既に情報は渡したと言うか、もう皆さんご存知ですよねと言うか。とにかく「本編を見てね」的なそういうことなのだ。「本編の第3部、第18話を見ようね」的なそういう話なのだ。


さて。

志村は完全に孤立してしまったわけだ。
しかもたちが悪く、「めっちゃわるいやつ」として孤立してしまった志村は、中学の頃のかの状況に逆戻りした。

ただ、あの時の状況と違って今回は、頭の固い、学校の帰りに道コロッケを買う事すら許さないようなキリッとしたフォーマルタイプの先生に、必要以上の重圧を受けなかったことだろうか。
高校というのはある意味、「お客様と従業員」のようなドライな関係であるので、余計なトラブルに教師たちは首を突っ込まないのだ。幸いにもそのドライさ、無関心さが志村にとって逆に息抜きとなりえた。

更にさらに、志村は、中学時代の経験によって、どこか、未成熟ながら「達観」したような精神状態を持つようになった。
(それは、高校生特有の「みんな馬鹿に見える」「孤独な自分に酔う」そういう感情と紙一重だったかもしれないが……。)

とにかく。
以上の事から志村は、「学校辛すぎて泣いちゃう」的なウェットなメンタルに陥る事は無かった。
ただただ、本当にただただ、「これからの努力次第でリア充になれるかもしれないクソボッチ陰キャラ」から「高校3年間クソボッチ陰キャラ確定状態」になっただけなのだ。

分かり易く言うなら、「アナタはこれからの人生で宝くじ3億円当たる事は絶対に無い!」と言われた時の気持ち。
もともと陰キャラである志村に、そして今までずっと陰キャラで会った志村にとって、「残りの数カ月も陰キャラ決定」と言われる事はたいして苦痛ではなかったのだ。

     

着々と身支度をする志村。
普段の生活では使い時が分からないような、大きなカバンに、爪切りだの、リップクリームだの、代えの服だのを詰め込む。

志村の学校では、3年の夏に修学旅行が行われる。
受験に対して危機感の無い(ある意味感じる必要もない)志村の高校では、他の高校とのトラブルを避けるために、他の高校とはズレて修学旅行に行くのだ。
(案外、志村の学区では、1年と2年。2年と3年同士でのトラブルは少なかったりする。)

中学の時修学旅行に行き損ねた志村にとって、ほぼ初の体験である。
ただ、志村にわくわくは無い。
「どうやって向こうで時間をつぶすか」が、志村にとっての課題だった。


志村の学年は、比較的おとなしかったので、絶海の孤島とかではなく、都会に行かせてもらえた。
それは志村にとって好都合だった。町並みに溶け込んでしまえば。「地元の学生でござい」と言ったたたずまいでいれるからだ。

     

修学旅行の自由行動中、志村は
「受験勉強で集中するためにファーストフード店で一人で単語帳を読んでいる地元学生」
に擬態していた。

基本的に修学旅行は班行動なのだが、もはやそのあたりはなぁなぁになっている。
集合時間さえ守れば無問題なのだ。


15時ごろ。
集合時間まで後2時間を切った頃、志村はふと、どこかに行ってみたくなった。

別段意味は無かった。

気まぐれだった。


街からは少しはぐれた郊外に、公園があった。
志村はそこのベンチで(別に黄昏時ではないが)たそがれることにした。

静かな公園。
涼しく、風の音が聞こえる。
なかなか近くで見るとグロテスクな顔をしたハトたちが、首を前後にさせながら、落ちている木の実を拾ったり捨てたり、また拾ったりしている。
触っただけで茶色い汚れがつきそうな、錆びた遊具が、たたずんでいる。
小学校の中学年くらいの少年が、今にも死んでやろうかというようなたたずまいでうなだれている。
蛇口を閉めているにもかかわらず、ちょろちょろと水が流れ続けている水道がある。
公衆トイレの落書きは…



…あ…。小学校の中学年くらいの少年が、今にも死んでやろうかというようなたたずまいでうなだれてるやん。
志村はそう思った。

そしてなぜか、彼のほうに近づいて行って、隣に座った。


日に二度気まぐれ。

修学旅行、知らない街、変な興奮状態か、パニック状態なのか、そのあたりは分からないがとにかく志村は、後のエンリケ、桂木薫の隣に座った。

「俺のことどう見える…。」

桂木薫は、近寄ってきた不審な女子高校生に、そう尋ねた。

「俺は惨めな奴に見えるか。」

「わりと…」

お互い、何かシンパシーを感じたのだろうか。
初対面の二人は静かに、どちらからともなく喋り始めた。

「わりと惨めな雰囲気に、見えるかも。」

「……そうか」

志村は、桂木薫のこれまでの人生など知るよりも無いし、これからも知る事は無いだろう。


「何というか、自分の事を大事にしてくれる奴だけ大事にしたら?」


分かったような口で、それでいて遠慮がちに、志村は呟いた。
桂木薫の何が分かったわけでもないし、何をアドバイスしようと思ったわけでもないが。志村はそう呟いた。

多分、志村は、自分自身に向かってつぶやいたのかもしれない。


17時、集合時間。志村は、旅館(というか民宿)行きのバスに揺られていた。
桂木薫とは他に何か喋ったかもしれないし、喋ってないかもしれない。

そして、きっと忘れるだろう。

お互い、忘れているだろう。

ただ、確かにその時喋ったのだ。
それから10数年後、世界を滅亡の危機から救うことになる6人の駄目人間。
その中の二人はその時喋ったのだ。


ただ。

ただ、だからと言って、その後の何かにこの出来事が影響してくるかと言われれば。


それは確実に無い。

       

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