Neetel Inside ニートノベル
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 大便か、それとも小便か。
「社会的動物である人間にとって、最も禁忌な行動。それが『うんこを漏らす』という事です。どんなに清潔で整った場面においても、ただこの行動をとるだけで全ての流れは断ち切れ、問題は一点に集中します」
「しかしそれはおしっこも同じではないですか? 国会での答弁中に首相がおしっこを盛大に漏らせば、明日の新聞の見出しは決まったようなものです」
「確かにその場合、漏らしたのがうんこでもおしっこでも、その行為自体が社会に与える影響はさして変わりはないかもしれません。しかしながら、大便の放つ存在感、臭い、物的証拠能力は尿のそれを遥かに凌駕するはずです」
「果たしてそうでしょうか? それはブツが固形状か液状かにもよるのでは? 仮に固形状、つまりソリッドだった場合、パンツの種類にもよりますが、その場を何とか誤魔化して逃げられる可能性もあります。もちろんリキッドだった場合は不可能ですが、でしたら最初からリキッドしかないおしっこを漏らす行為の方が、遥かに目立つはずです」
「そうとは限りません。その場合、首相が汗っかきならば汗として誤魔化せる可能性はあります」
「見た目は誤魔化せても、尿の香ばしい臭いまでは誤魔化せないはずです」
「ならば大便も臭いについては誤魔化しがきかないと指摘させていただきます」
「それは食生活にもよるでしょう」
「小便もそれは同じです」
「……ふむ。一旦落ち着きましょう」
「その必要があるようです」
「まず、大前提として、僕は何も人類全てのうんこ漏らしを肯定している訳ではなく、性的魅力に溢れた女子、いわゆる美少女の行為にこそ価値があると提唱する立場です」
「自分もそれは同じです。首相がどうだなどという例え話は正直どうでも良く、重要なのは女子が意図せずおしっこを漏らし、顔を赤らめるその仕草です」
「同意します。ただ、脱糞の場合はそこにカタルシスが伴うと付け加えます」
「カタルシス? 脱糞時の開放感ですか?」
「あなたも人間ならば味わった事があるはずです。我慢していた物を排泄した時のあの独特の快感。この事からも、脱糞は歴とした性行為であると捉えられ、放尿よりも上の立場をとります」
「異議を唱えます。確かに、脱糞はカタルシスを伴う行為ですが、放尿もそれは同じ。と主張すれば脱糞の方が遥かに快感が大きいと仰られると思われますが、あえてそれは肯定します。ただし、尿道口の物理的配置は、男女ともに肛門より性器に近く、どちらも排泄の最中は性器をより誇張する形で行為をします。よって、放尿の方が性行為に近い」
「確かに、それは一理ありますが、しかし肛門を性器として捉える事は可能です。同じく穴な訳ですし、挿入も不可能ではない訳です」
「おや? あなたはあくまでもおもらし脱糞フェチであり、肛門性交フェチではないのではないですか?」
「一般論を述べたまでです」
「アナルセックスを一般論と称するにはやや無理があると思われます」
「しかし現実に穴はありますし、そこからは大便が出てくる事もできれば、男性器やディルドを挿入する事が出来る。機能としての話をしているのです」
「ならば機能面においても尿の圧勝であると考えられます」
「何故?」
「先程、重要なのは美少女のおもらしであるというコンセンサスが出来上がりましたが、アナルから出る大便の場合、男でもその出現風景は変わらないはずです。まともな人間ならば大便は便器に座ってします。しかし小便の場合は、男は立って、女は座ってするのが一般的です。男女の差別化という意味では、アナルはその機能を果たしていません。それに何より、アナルセックスは元来ゲイの象徴です。そこから出る大便もまた、ゲイの象徴であると捉えて差し支えないのではないですか」
「拡大解釈が過ぎます。脱糞における魅力の根源は少女の美しさと大便の醜さのギャップにあるのです。脱糞とアナルセックスに対する価値観は別問題です」
「別問題であればあるほど、性的魅力の根源からはかけ離れていきますよ。性器との位置関係には側面的な意味合いも含まれるはずです」
「その理屈の到達地点はセックスです。ただ単に性行為がしたいのであれば放尿はむしろ反対の行為ではないですか? 尿と潮噴きは違うという見解が常識ですが」
「確かに、尿と潮噴きは別物です。自分はそういう事を言っている訳ではありません。しかし快感のあまりにおしっこを漏らす事は多々あります。他にも、恐怖や感動が度を過ぎると、おしっこが漏れるという結果を引き起こす場合があり、これは尿が感情と直結している事を示す事例で、つまりおもらしは人間の肉体的芸術。究極の感情表現と言い換える事が出来る、美しい行為です」
「脱糞も例外ではないのではないでしょうか?」
「いえ、感動での脱糞はその度合いを極端に薄くします。二次元ではこの限りではないかもしれませんが、現実的にはその後の処理、及び臭いのきつさ、ブツの内容が気にかかってそれどころではありません」
「しかしインパクトの大きさはこちらの方が上です」
「それを演出過剰と呼ばずして何と呼ぶのでしょうか。例えるならば、すれ違っていた想いがようやく通じ合って、夜景をバックに誓いのキスを交わす男女2人。が、脱糞。どう考えてもおかしいとは思いませんか。おもらしならば絵になるはずです」
「僕はそうは思いません。脱糞も失禁も、その場面で言えば台無しになる事は同じです。あとはどちらを美しいと捉えるか、価値観の問題です」
「やはり水掛け論になりますか」
「仕方のない事でしょう。再度別の角度からうんことおしっこについて考えていく必要があります」
「質問ですが、あなたはうんこは食べられるのですか?」
「難しい質問ですが、必要があれば食べます」
「必要とは?」
「美少女が自身のうんこを食べられて恥ずかしがるという事実です。タッパに詰めて受験勉強の間々にお夜食感覚でぺろりする気位はありませんが、プレイの一環としてならば、相手の性格も考慮にいれた上で許容する場合があるという事です」
「なるほど、それには自分も同感です。しかし尿と違って大便は健康面への配慮が必要なのではないでしょうか。深刻な感染症や寄生虫の可能性が大きく、一方で尿ならばその心配はほぼありません。ポカリ感覚でゴクゴクいけます」
「否定は出来ません。しかしながら、だからこそ行為に価値があり、辱めも強力であるとも言えます」
「重要なのは恥辱であると、その考えについては自分も心から同意します」
「ハードSMにおいても糞尿はほぼ一緒くたにされますし、どうも僕とあなたは似ているらしいですね」
「排泄という本来秘密である行為を暴露するその快感と」
「強烈な背徳心を持ちつつ支配から解き放たれる肉体が」
「幾重にも重なる下品な旋律を奏でつつ五感を刺激して」
「やがて美少女は卑猥の化身と化し脳下垂体を虜にする」
「くりちゃん」
「どうか1つ」
「「ここでおもらしをしてくれませんか?」」
『絶ッッッッッッッ対ヤダ!!!』


 もしも違う出会い方をしていらのならば、唯一無二の親友になれたのではないだろうかというほどに、自分と彼はよく似ています。どこかで袂を分かてども、生理現象を祖にする2人の性癖は、白熱する議論の果てにやがては同じ結論に辿り着くのです。
 実際におもらしを見るしかない。
 それでも尚、断固として断るくりちゃん。無理やりに能力を発動すれば絶対自殺すると断言してからというもの状況は硬化し、HVDO能力を封印しての討論会は不毛なまま何時間も経過していました。外は既に真っ暗で、おそらく校舎にも一般生徒は残されておらず、深夜の学校、生徒会室にて、ボケ2人処女1人の斬新な漫才ユニットによる消耗戦は続きます。
 そのおおよその流れは上に挙げた通りであり、相手の揚げ足をとっての理論展開の後、新たな角度からの大便と小便の比較というほとんど同じ会話のループを行い、最終的な着地点はくりちゃんの尿道と肛門という救いようのない会話を自分達は繰り返しました。
 不思議と、相手の隙を突いて能力を発動させるという野暮な抜け駆けは2人ともしませんでした。いつからか、それは男気に欠ける行為であるという共有認識が生まれ、くりちゃん自身の自然な新陳代謝に任せる雰囲気になったのですが、くりちゃんもそれを察してか、頑なに飲み物も食べ物も口にせず、どこから聞きつけたのか等々力氏による差し入れであるカレーとレモンティーにも一切手をつけないまま、じっと座っていました。
 そしてこの勝負は、実に意外な形で、それこそ肩透かしのような不本意な形で、しかしある意味おもらしの根源たる形で決着がついたのでした。
 申し訳ない事に、自分には深夜2時を回った頃からの記憶がありません。こんなに熱い議論の最中に寝てしまうなど、しかもくりちゃんの尿意も便意もピークに差し迫っていた頃に落ちてしまうなど、はっきり言ってHVDO能力者失格とも言うべき失態なのですが、とにかく自分はぷつりと意識が途切れるように爆睡してしまったのです。
 次の日の朝の目覚めは、彼の股間の爆発音でした。慌てて目覚めると、彼が股間を庇うようにして蹲り、くりちゃんが机の上で仰向けにひっくり返りながら股間をびしょびしょにしていたのです。平和そうな顔でぽけーっと口をあけながらの放尿。これはいわゆる、オモラシーオブチルドレンスタイル。つまるところ、「おねしょ」という奴です。自分よりも早く起きた彼はきっと、このくりちゃんのマヌケながらもエロい姿を見て暴発してしまったのでしょう。
 うずくまったまま無言で痛みに耐える姿を見ると、自分はどう声をかけていいやら分かりませんでしたが、彼は顔をあげないまま、苦しそうに言いました。
「……こんな風に終わってしまって、謝罪の言葉もありません。……だけど、これで良かったのかもしれないとも思います。……あなたの、というより、あなたと彼女の勝ちです」
「いえ、もしも自分の方が起きるのが早くて、くりちゃんがパンツをこんもりさせていたら自分の方が負けていた事でしょう」
 彼は脂汗の滲む顔をあげ、無理に笑顔を作りました。
「とにかく……これであなたは第七能力を手に入れた」
 自分は頷きます。まだ第五も第六も処理してないというのに、この能力は……。
「おそらく次に戦うであろう相手の事を僕は知っています。これはあなたを友と認めての忠告です。次の試合、もしもあなたが後手になって素材を選ぶ場合、彼女だけは選ばない方が得策だと思われます。なぜなら……」
「そこまで」
 彼の言葉を遮って、ふわりと良い匂いがしました。
「そこからの発言は、大会の運営を妨害する行為と見なします」
 久々に間近に見る三枝委員長の姿は、誇張なしに光を纏っているように見え、会ったらすぐに言いたかったはずの沢山の言葉は、途端にぼろぼろと崩れて形を無くしました。

       

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