Neetel Inside ニートノベル
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第五部 最終話「変態」


 あんまりベタな事をするのもどうかと思ったのですが、なるほど確かにこれは1番簡単に実行出来る方法であり、主義主張に反しているとしても、やっておいて別段損はなかったので、自分は今目の前にある物が夢かどうかという判定に、頬をつねるという愚行をあえて犯しました。
 見るに、それは学校の教室でした。と言っても自分の通っている高校ではなく、記憶にある景色でもなく、両隣の席の男子生徒の顔も見覚えはありませんでした。唯一、右前3つ先の席に座る女子生徒の後姿は長年見慣れた物であり、少しばかりの安心感を覚えましたが、今はどうやらホームルームの最中のようなので、声はかけられませんでした。ホームルームの議題は、「校内に露出狂が出没している件」についてで、黒板に出た目撃情報によると「黒髪ロングの女」「ナイスバディー」「仮面を被っている」との事で、教卓にてホームルームを取り仕切る三枝委員長が犯人を知っている事は明らかでした。
 さて、頬をつねった結果ですが、確かに痛みはありました。ですが、それでもなおこれが確固たる現在進行形不可逆性現実と称するにはいささかの迷いがあり、断言は出来ません。三枝委員長とホテルでセックスをしていて、気づいたらここにいた。事前の作戦通りに事が進んでいるとしたら、これは崇拝者が用意したステージである事は疑いようがありません。
 犯人を名乗り出る者がなく、三枝委員長も自白せず、行き詰まるホームルームに、ちょっとした変化が現れました。3つ先の席、金髪チビ女の肩が小刻みに震えているようです。
 自分も歴戦のHVDO戦士ですし、何より極東最高峰のピスマニアを自負するだけあって、すぐにその様子の原因に気づきました。この状況の意図は相変わらず不明ですが、女の子、ましてやベストオモラシスト4年連続受賞のくりちゃんがおもらしをするというのであれば、それを止める理由は全く有りえず、自分は腕を組んでその様子を眺めました。
「委員長すみません。木下さんが体調悪そうなので、保健室に連れて行っていいですか?」
 と、名乗りをあげたのはもちろん自分ではありません。ですが、自分にちょっと似た男でした。それが若かりし頃の崇拝者であると気づいたのは、本人の顔からではなくむしろくりちゃんの表情からでした。
「そうなの? 木下さん」
 三枝委員長が尋ね、くりちゃんが頷こうとする刹那、自分が席を立ち上がりました。
「その前に、木下さんは言いたい事があるみたいです。露出狂の正体を知っているとさっき言ってました」
 もちろんでっちあげでしたが、こうする他ありません。
「本当に? 立って」
 犯人が詰め寄ると、くりちゃんは怯えきった表情で立ち上がりました。
「し、知らない。あたしは何も知らないから、保健室に行かせて」
 この期に及んでトイレと言わないあたりに往生際の悪さが凝縮されています。
「木下さんは怪しいです。前に出て言いたい事をはっきりと言うべきだと思います」
 自分の鬼畜提案に、三枝委員長は同意しました。くりちゃんの手を引き、教壇に連行する道中、クラス全員の注目が集まる真っ最中、くりちゃんはついに決壊し、しぱぱぱとパンツを濡らし、床に水溜りを作ってしまいました。


 また、場面が暗転しました。今度は電車内。それも中央線錦糸町から両国くらいの満員加減で、1歩の余裕すら無い酷い有様でした。自分の目の前には2人の女子。例のごとくくりちゃんと三枝委員長で、ドア際に陣取り、自分はそれを覆うような形で配置されていました。
「つ、強く押すな……!」
 と、顎下のくりちゃんから苦情が来ましたが、自分が反論する前に、
「この満員では無理な話でしょう」
 と、隣の三枝委員長が弁護してくれました。その豊満な胸がガラスに押し付けられている分、くりちゃんのような持たざる者よりも厳しい状況であるというのに、なんたる優しさかと軽く感動さえ覚えました。
 そして自己中のくりちゃんには当然天罰が下ります。
「で、でも……」
 上から覗きこむと、股間を押さえてもじもじとする様がよく見えました。第一回チキチキおしっこ我慢選手権を1人で勝手に行っているようです。
 この電車がどこに向かっているのかは分かりませんが、漏らすには十分な時間があるはずで、その様をこのアリーナ席で見られるのですから、自分は満足です。
 一方、三枝委員長の方にも変化が現れました。
「んっ……」
 息を漏らして我慢する仕草。選手権に2人目のエントリーかな? とも思ったのですが、どうやら違うようで、僅かに開いた隙間から見るに、痴漢の被害に合っているようでした。
 くれぐれも誤解しないで欲しいのは、自分は変態ではあるが痴漢ではないという事であり、現在三枝委員長におさわり行為をしているのも、決して自分ではないという事です。痴漢は憎むべき犯罪です。女性の権利を無視する、最低最悪の行為です。
 自分は気高い決意を胸に、三枝委員長のケツをさわさわしている手首を素早くぎゅっと掴みました。すぐに引っ込めようとしたその手を力で抑え込み、そのままくりちゃんの方の尻に誘導しました。ケツからケツへバトンを渡すように、痴漢の手はくりちゃんを触り始めました。
「ひゃぁっ……」
 くりちゃんの短い悲鳴に配慮する者は誰もおらず、見ず知らずの痴漢はそのジェントリータッチでくりちゃんの臀部を堪能していました。手が上下する度にくりちゃんの限界は確実に近づき、やがて崩れ落ちます。
 車両内おもらしには流石の痴漢もドン引きのようで、あっという間に手は引っ込み、周囲も異変に気づきました。一体今までどこにそんな余裕があったのかというくらいに、くりちゃんの周りがさっと開きました。必然的に注目されるくりちゃんは、次の駅で泣きながら降りていき、三枝委員長がその後を追っていました。
 2人分開いた車両内で、崇拝者の存在に気づき、痴漢の正体に合点がいくと、自分はくりちゃんの作った水溜りを眺めながら、電車に揺られました。


 大怪獣スリングショットは、怪獣と呼ぶにはあまりにも人間然とした見た目をしており、その名に冠されたいやらしいコスチュームも相まって、街に出現するとナイターを中止してテレビ中継がされ、お茶の間のお父さん達はそれでも文句を言わないほどの、目に優しいエロかわヴィランであるそうです。
 ボンッと張ったおっぱいに、くびれ、へそ、くびれ、ぷりんと丸いお尻を露にしながら森ビルを破壊する大怪獣スリングショットの正体はやはり三枝委員長であり、自分はその様を一般人として見上げ、傍観していました。
「行かなくちゃ」
 と、隣のくりちゃんが言いました。自分は「その前に喉が渇いてませんか? これをどうぞ」とペットボトルを手渡すと、何の疑いもなく利尿剤の入ったお茶を一気に飲み干して、くりちゃんが出動しました。
 やがて自衛隊もお手上げの所に、図ったように登場するくりトラマン。
 顔は大怪獣スリングショットと同じくマスクで隠していますが、その哀れな程のバストの無さは、ヒーロー側であるにも関わらずブーイングが飛んでくるレベルでした。
「今日も出てるな」
 と、崇拝者が自分に声をかけてきました。2人の戦いを見つつ、「そうですね」と自分は答えます。
「何にせよ、2人は戦う運命らしい」
「かもしれません。ところで、そろそろこれが一体何なのか教えて欲しいのですが」
 自分の頼みに、崇拝者は答えました。
「これはお前の欲望の具現化だ。もちろん、あの2人にも意識はあるが、この世界ではお前が絶対のルール。お前の作った流れには逆らえないし、俺も同じだ」
「……それをして、あなたに一体何の得が?」
「得などないさ。ただ単に、今はお前のターンという事だ。時間はまだたっぷりある。存分に全てをプレゼンテーションしてくれ」
 自分は崇拝者の股間をちらりと見ました。少しも勃起しておらず、戦況は絶望的です。
 一方で、大怪獣vsヒーローの戦いはとても好ましい状況でした。取っ組み合って街を巻き込みながら戦い、くりちゃんの膀胱は限界に近づいています。
「新しい湖でも出来るんじゃないか?」
「かもしれません」
 いよいよくりちゃんの膝がガクンと曲がりました。中腰の姿勢で、それでもファイティングポーズだけはかろうじて保ち、ぶるる、と身体を揺らしました。
「まだまだ自分の欲望はあります。ご覚悟を」
「それは楽しみだ。だが、全てが終わった時、ターンはこちらに回ってくる事を忘れるなよ」
 街を彩るイエローシャワー。巨大くりちゃんの股間が漏れ出した尿は、スクランブル交差点に局地的洪水をもたらし、その情けない姿は空撮ヘリによって全国へと生中継されていました。
 このまま自分のターンが無限に続けばいいのにと思いながら、終わりは着実に近づいていました。

       

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