その言葉を唱えた瞬間、キョウコが顔を赤らめるよりもはやく、白い光が全身を包んだ。
どこかほんのり温かいその白い光はキョウコの身体にぴったりとくっつき、いつのまにやらその凹凸のない身体のラインをはっきりとさせた。
(服が、消えた!)
信じられない出来事だったが、それは記憶の片隅にある現象だった。
幼い頃に観て、憧れた、魔法少女。まさしくあの変身シーンのようじゃないか。
白い光が形を整え、変化していく。
――リボンのついた可愛らしく、動きやすい靴がパッと現れ、
――紅い麻紐がキョウコのセミロングの髪をふたつに結い、
――なんと、平だったあの胸が膨らみはじめた。
「嘘ッ!?」
この上ない歓喜の叫びがキョウコの脳内で響いた。
やっと、やっと私の胸にも山ができたよぉおおおおおおおおおお!!!! 下をみてもおヘソがみえないよおおおおおおおおおおおおお!!!!! 肩が重いよおおおおおおおおお!!!!!!!!!!! うわあああああああああnN!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
それはまさしくキョウコが口にした「Hカップ」はあるだろう胸にまで膨らんだ。
そして、変身シーンの仕上げだ。
――ひとつづきの長い白い布が何枚かキョウコの周りに現れ、裸だった身を包んだ。
異常な現象が一段落し、キョウコはさっき受け取ったネックレスを首にぶら下げる。なんだか一仕事終えたような気分だ。
「って、変身終わり?」
「よかったじゃないか、夢のHカップだぞ」
「いやぁ~、あはは、巨乳は肩が凝ってたいへんですね」
一度言ってみたかったこのセリフ! あぁ、なんて心地良い言葉なのだろうか。
しかし、そんな風に浮かれてばかりにもいかなかった。たしかに変身のようなことはしたものの明らかに足りないものがあるのだ。
「なんで服はないんですか?」
「布があるじゃないか」
「この布だけって……」
「まぁ変身する際に衣装をイメージをすれば具現化できたかもしれないが」
「それを先に言いなさいよ!」
今度する時は絶対可愛い衣装になってやろう。今度があるかは知らないが。
キョウコを包むのはたしかに白い布だけだったが、露出度がひどく高いものの不思議と寒くはなかった。それに長い白い布の端はふわふわとやわらかく宙に浮いている。これもなにか特別なチカラが働いているのだろうか。
「まぁこまけぇことはいいんだよ。大事なところは隠れてるだろ」
「ほんとに大事なところしか隠れてないわよ」
多少恥ずかしさがあるものの、やはり喜びの気持ちがキョウコの中に溢れていた。憧れの巨乳、それに今の変身まるで――。
「魔法少女……」
女の子なら誰もが憧れてたことがあるであろうそれに、私はなっているのだ。
「うーん、いちおう魔法少女と呼べるものだが、他と比べて魔力が少ないから私はおっぱい少女と呼んでいる」
他って、魔法少女なんて存在が何人もこの世界にいるというのだろうか。
キョウコはそれ以外にも訊ねたいことが、いまの胸の山のようにたくさんあったが、それをチチボンが制した。
「質問はあとでいくらでも聞こう。いま、先決するべきはあれだろ」
チチボンの目線の先には暴れる化物のような“なにか”。
さきほどまでは砂煙と遠くてよく見えなかったが、なぜかいまは遠くのものまではっきり見ることができた。
車を片手で持ち上げ、銃も効かず、警官を倒した化物。その正体は……。
「人間!? いや……」
ただの人の容姿ではない。その頭部からは動物のような逞しい太い角が一本生えていた。
「鬼?」
「いや、人型のサイとかじゃないか」
そんな二人の疑問を解消するかのように、化物が叫んだ。
ユニコォオオオオオオオオオオン!!!!
耳に響く雄叫び。ご丁寧な自己紹介。なんと化物の正体は伝説の生き物、ユニコーンだったのだ。
「いやユニコーンはないわ」
「身体が人だしねぇ」
そんな文句を言ってるのが聞こえたのが、自称・ユニコーンがこちらを一度睨み、そのまま角をこちらに向けて突進してくるではないか。
「え、ちょっと!? 変身したものはいいものも、どうすればいいの!?」
「かんたんな武器をイメージしろ、それを具現化して使って戦うんだ」
「他に魔法とかはないの?」
「特には」
うぅ、やっぱり魔法少女ではないのだろうか。
しかし、いたずらにおっぱいがでかくなっただけでもないようだ。キョウコはいわれた通り簡単な武器を思い浮かべる。少し似合わないかもしれないが、咄嗟に日本刀のような長剣を浮かべた。
「出てこい!」
すると変身した時と同じような白い光が現れ始め、だんだんと形をつくっていく。
――鋭利な刃先、日本人の手に収まる柄。
――まさしくイメージした通りの刀剣が、鞘に収まってない状態で現れた。
「出てきたはいいものも、なんで胸の間にはさまってるわけ?」
「そこは四次元ポケットみたいなところだから」
取り出しにくいじゃないと文句を言いながらも、自分を斬らないように慎重に刀剣を取り出す。同時に鞘でもイメージしとけばよかった。
こいつであいつを倒してやる。
そう思い、キョウコが前方を確認したときだった。
ユニコォオオオオオオオオオオン!!!!
すでに自称・ユニコーン男との距離は目と鼻の先であった。しかも信じられないようなスピードで突っ込んでくる。
「うそ……」
キョウコは刀剣を両手に握ったものの、突進を抑えられることも、避けることも出来ず、数十メートル先の壁へと吹っ飛ばされてしまった。