A Happy Merry Marry Christmas

 ○1○
 
 今年のクリスマスは決めると心に決めていた。
 いい歳した齢三十の社会人男性ともなれば、それはもう、そうなのである。

 決めなければならないのである。

 薬の事ではない。

 プロポーズを、だ。
 
「……スター、マスター、ねぇマスター、聞いてます?」

 いつの間にかボーっとしていたらしい。僕の対面に座った女性は、不機嫌そうな顔で頬を膨らませていた。
 ここは街中にあるお洒落なカフェである。店内に緩やかなボサノバが流れた、いかにもカップルが好んで使いそうな店だ。
 
「何考えてたんですか? マスター」
「日本の経済事情について少々、ね」
「具体的には?」
「金が欲しい」

 そして僕の向かい側に座る、僕の事を何故か“マスター”などと呼ぶお姉さん系バストサイズCカップの女性は、奇妙な事に僕の恋人のようだった。美人だが好みではない。
 彼女は僕の恋人だと自称する、だが僕はそれを許可した覚えはない。

 彼女と出会ったのは今から約七年前。
 七年前のクリスマス、この世界に『クリスマスガール』と呼ばれる美女達が突如として出現すると言う、非常に奇妙な事件が起きた。

 それは、モテない男子達に渡された、まごう事なき神様からのクリスマスプレゼントだったのだ。
 そう、彼女は、僕に神様から贈られたクリスマスプレゼントだった。人の事をプレゼント扱いするのは流石にどうかとは思うが、そう説明しないと表現のしようがない。
 僕と彼女はどうやら奇妙な縁で結ばれているらしく、僕が大学生だったころも、就職をして新卒社会人になっても、そして今も、疎遠になる事なくこうして会っている。
 もうかれこれ七年だ。我ながら変な関係だ。
 
「ちょっとは人の話聞いてくださいよ」
「何の話してましたかな?」
「十二月二日ですよ。映画見に行こうって言ってたじゃないですか」
「そんな事言ってたのか」
「言ってたじゃないですか! ずーっと僕はあれが見たいこれが見たいって、何なら私より率先して話してたじゃないですか!」
 まるで記憶にない。ほとんど反射で喋っていた事は間違いないだろう。
「一応聞きますけど、どの辺りまで覚えてます?」
「『お待たせしました、マスター!』までかな」
「それ朝! 今日の朝!」

 いちいちうるさい女だ。今の僕はそれどこではないと言うのに。

「十二月二日は……無理だな」
「うえぇえー!? あれだけ話詰めといて!?」
「うむ、ちょっと用事があるのだよ」
「恋人である私を差し置いた用事って何なんですか!」
「買い物」
「連れてけよ! 一緒に行ったら良いでしょうが!」
「一人で買いたいデリケートな物なんだ」
「デリケートとか似合わないツラして何言ってんですか」
「言うねぇ……」

 まぁ、僕が無意識下で彼女と約束していたのだとすると、確かに訳が分からないだろう。致し方ない話である。
 しかし、今回の買い物は彼女と行くわけには行かなかった。

 何故なら、これは準備だからだ。
 今年の僕は、どうしても決めなければならないと自分に課していたのだ。

 この女に、プロポーズを。