Neetel Inside ニートノベル
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 決戦の当日2月13日、犯人からの書きこみはまだない。
「それで駒の動きは覚えたんですか、内藤さん。」
柳田が捜査本部から待機中の内藤に無線をいれる。
「いや、まだ。だが盤面の下見は完璧だぞ。
 昨日倉木警部補たちに案内してもらったからな。」
「ほう。どこにいかれました。」
「まず金閣寺に行って、龍安寺、嵐山、北野天満宮、途中一度京都府警察本部に戻って
 銀閣寺でシメた。」
どうだと言わんばかりの内藤の顔に、冷や水を浴びせるように柳田は言い放った。
「全部、犯人が指定した盤面の外じゃないですか。
 あなたは観光するために来たわけではないでしょう。」
内藤は墓穴を掘ったことと昨日の一日が無駄だったことを後悔した。
「まぁ、いいじゃないか。駒の動きは覚えなくても。
 俺らは君の指示に従うだけだ。」
「岡目八目という言葉があります。
 ゲームをしている当事者よりも第三者のほうが冷静に見れるものです。
 何か気付いたことがあれば連絡してください。」
どうやら口では柳田にはかないそうもない。
 ゲームが始まるまでまだ時間があるので、
内藤はその間に素直に教えてもらうことにした。
「チェスにはキング、クィーン、ビショップ、ナイト、ルック、
 ポーンの6種類しか駒がないので覚えるのは難しくないですよ。
 まず、キングの動きは前、右前、右、右後、後、左後、左、
 左前の周囲8マスに動けます。」
「将棋の王将と同じ動きだな。」
「クィーンは前、右前、右、右後、後、左後、左、左前ならば
 どこまででも進めます。」
「飛車と角行を足したような動きと。」
内藤は自分の言葉にして、警察手帳にメモをする。
「ビショップは右前、右後、左前、左後、左前、斜めならばどこまででも進めます。」
「角行と同じ動きか。」
「ナイトは前に動いた後、右前、左前、右に動いた後、右前、右後、
後に動いた後、右後、左後、左に動いた後、左前、左後と動け、
 4方8ケ所同じように他の駒を飛び越していくことができます。」
「これは難しいな。4方に桂馬の動きってところか?」
「ルックは前、右、後、左、まっすぐならばどこまでも進めます。」
「これは分かりやすいな。飛車の動きだな。」
「ポーンは前に一歩だけ進めますが、
 相手の駒を取るときだけ右前、左前と動けます。」
「動きは歩兵といっしょだが、前にある駒は取れないんだな。
 しかし何で犯人はチェスを選んだんだろうな。
 囲碁とか将棋のほうが一般的だろ。」
「犯人が他のゲームを選んでいたら……ちょっと待ってください。
 書き込みがあります。犯人からのようです。」
 たった二文字書き込まれている。
  "e4"

       

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