トップに戻る

<< 前 次 >>

第三十九章『藍戦士』

単ページ   最大化   

 戦闘後、数日してレムレース戦勝利国民大集会が開かれた。
「勲章伝達式を終え諸将、勇士達は続々と主会場であるトラブルシューターの間へ向かい
ます。司令官、ヴィクトリア中将です。まさしく、威風、辺りを払うの感があります」
 メディアによって、この模様は国内外に中継されていた。
「お手柄の魔法学園の生徒。若葉大尉、雷暗中尉、ルリタニア中尉。そして――」
フラッシュが光る。
「エース中のエース、伝承の魔導士の血を引く不知火大尉、いや、さっそうと佐官マント
を翻す、不知火=・R・スカーレッド少佐です」
全員が入場を終え普岳プリシラ姫の演説が始まった。
「我が戦士達は輝けるこの緒戦の勝利によって、ダイクンの偉大な教えを証明した! エ
クソシストは世界に冠たるであろうと言う、教えや! だが、諸君。まだ、気を緩めては
アカン。戦いは、まだ、始まったばかりや……現に、まだ、レムレース・コロニーの一部
は、我が王国に服せず空しく教皇庁の援軍を待って抵抗を続けている! こうした輩は、
直ちに、一掃されなければならへん!」
演説後――
「不知火、アンタの働き、見させてもろうたで」
「姫様。貴女も、随分、立派になられたのではなくって?」
不知火はマイペースでニコニコしながら歓談ムードだった。
「最精鋭の一〇一空挺師団付き少佐や。今日、配属になった」
「それは愛でたいですわ。それこそ、貴女に似合いの部署ではなくって?」
(不本意ですわ……)
「艦隊戦と違って、地上部隊での制圧は難儀や。泥と血に塗れる」
勝ち気な普岳プリシラは生徒会長を引き継いだ故に、不知火には負けたくないというコン
プレックスを持っていた。一方の不知火にもプライドがある。魔法学園が軍内部での主導
権を拡大させなければ、空戦機甲の有効利用と搭乗員含む、全てのフリートエルケレスの
クルーの士気に関わる。想定されるケースを予測すれば、王族の沽券よりプライオリティ
が高い。戦いは、本当に、まだ、始まったばかりだ。
「……ですわね」
「階級は少佐やけど、ウチの下には、ほぼ、一機甲連隊がおる。それを率いて、近々、レ
ムレースの残敵を掃討するつもりや」
(……ふっ、よくってよ)
思う所があったが、不知火は相槌を打つ事にした。
「何も、自ら御出陣なされなくても――」
「今、ウチには無理や!? と、そう思ったな、不知火」
(まぁ! 鋭いですこと――)
「いえ、そんなことはなくってよ。唯……危険な任務ですわ。追い詰められた敵は、どう
出るか分かりませんことよ。姫には似合わない汚れ役、陛下やヴィクトリア閣下がよくそ
れを――」
「関係ない、ウチはウチやっ! 見縊らんで欲しい。ウチだって、いつまでも、平穏な宮
城でぬくぬくとはしておられへん。いつまでも、生徒会長代理とは呼ばせヘンで」
135, 134

  

 そして、また後日――
「敵に勝つことが重要ではなくって? クックルーン大聖堂が、尚、存在し、教皇庁が抗
戦の意思を明確にしている以上っ!」
「それは、我が方の計画の失敗によるものじゃ。そうじゃな?」
不知火は国王に言葉を返さなかった。少し、頭を下げ前髪で目線を半分ほど隠し、疎まし
そうに国王の方を見た。現に、帝国の撤退と共にミリタリーバランスが均一になり、軍事
的均衡が生まれ、戦況が一段落した為か、再び、世論は反戦に傾きつつあった。よって、
作戦の変更は余儀なくされるのは、一応、彼女も承知はしていた。
「勝つ事に劣らず重要な事は収める事じゃ。求めるべきは早期講和。この勝利を好材料と
して教皇庁を交渉の場に引き出すのが賢明と思うのじゃが――」
「弱気すぎる、父上。あまりにも」
普岳プリシラはラティエナ王を非難した。自身のカリスマに絶対の自信を持っているから
こそ、ここで引く事を彼女は由としない――と、言った所だろう。それぞれの立場を超え
て合意を、という声が聞こえる。立場どころか主張が全く異なっているにも関わらず、不
知火と普岳プリシラは同意見だった。不知火からすれば利害の一致であり、普岳プリシラ
からすれば、主観論を述べただけ。しかし、王族の主観は『天命』とも呼べる。このケー
ス、偶然ではあったが、歴史の歯車を軍艦校舎が動かす、キッカケとなる。
「古来、それに意を尽くさなかったが為に、勝利の果実のみが全てを失った例は数多くあ
るのじゃ……部屋に帰る。金剛吹雪、少し……肩を貸さぬか?」
こうして、朝礼を終えて――
「やれやれや、歳をとったな、父上も……一国を束ね軍を統括し、非常時を乗り切ってい
けると思えへんわ」
鈍感な普岳プリシラは素で溜息をついた。
「さあ? お歳の所為だけでありましょうや」
「どういうことや、それは。ヴィクトリア」
疑問に感じた普岳プリシラに、ヴィクトリアは、こう、答えた。
「どういう、と言う程のことではありませんが、陛下はああして修羅場をくぐり抜けてこ
られた、お利口な方っスよ」
ヴィクトリアの眼中に不知火の内政干渉は、憂慮すべき事態と映っていなかった。王制の
維持が第一であり、その危機的状況には、まだ、直面してはいない。
136

片瀬拓也 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る