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春先の死

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このあいだの春先に
私の中の少女が死んだ
正確には叩きのめして殺した
享年二十X歳
思いのほか長生きなようで
彼女はぜんぜん不遇だった

強い風の吹く場所で
生成りの薄いキャミソールワンピースを着て
二本の足を足首まで泥につっこんで立っていて
黒くて長くてうんざりするほど多い髪は
風であおられてもつれていたし
憎らしげに振りしぼった目と丸い鼻先で
いつもどこかを睨んでた
子宮からは新鮮で生臭い血が流れ続けていて
発情するたび卵子をひとつずつ
殺してしまいたい気分になっていた
そのくせ抱きしめられればいつでも泣いてしまうくらい
人の体温に飢えていた。

死ぬ直前
二十個分のオレンジを搾って大さじ一杯に煮詰めたような濃さで
一瞬彼女は発光した
でもそれは本当にわずかで
誰の網膜もそれを捕らえることはなくて。

そして私は
錆びた金属バットで少女を打ちのめした
皮膚に痣ができてもやめなかった
痣が破れて血が出てもやめなかった
血に塗れた肉が現れてもやめなかった
肉が削げて骨が見えてもやめなかった
それが人間の形をなくしてしまうくらい
毎日休まず叩きのめした
もう二度と
彼女を見たくなかったから
それに彼女は
まるで抵抗しなかった

そうやって彼女は死んだ
血と骨の塊になった
それは私の望み通りの
誰も痛くない惨めな死だった
せめて私だけは彼女を弔ってあげようと
ぴったりの餞の詩を探しているのだけど
まだ見つからないのだ
まだ見つからないのだ
血と骨はまだそこにあって
静かに黙っているのだけど。


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