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3『求めるはアナタ、寄り添うは影のみで』

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 これが自分の過去を追体験するという不思議な夢だと気付いたのは、早かった。
 まだ十歳にもなっていない小さな僕は、スラムで、盗みや殺しをしながら、生きてきた。両親は生まれた時にはいなくて、棒はどうやってこの時まで生きてこれたのか自分ではわかっていない。とにかく、物心ついたときには殺しを覚えていた。
 十代の半ばまで生きて、僕はマカベリにやってきた。優秀な成績を残せば、いかなる経歴でもかまわないという、荒くれ部隊の隊員募集の話を聞きつけたからだ。そこで優秀な成績を収めたはずの僕は、なぜか軍ではなく、怪しい男に呼び出され、そして暗殺者に仕立て上げられていた。
 名前もない、家族もいない、学校へ通ったこともない、一切の経歴が存在しない僕は、その部隊、闇色の瞳にとって都合がよかったのだ。部隊には僕と同じような仲間が少数だが確実にいて、血に塗れてはいたが部隊にいるあいだは間違いなく青春の日々だった。
 そして訪れる、フィネラルド暗殺任務。全てが失敗に終わり、僕は青春をともにした仲間たちと殺しあう。
 部隊の解散。全てを失った僕はマカベリでラナと出会う。
 やがて、レシオン国でのフィネラルドの暴動。
 二度目のフィネラルドとの対峙。

 殺して殺して殺す。それしかない人生だ。
 夢から覚めて、僕は虚しさに押しつぶされそうで、誰かにそばにいてほしかった。
 でも、僕の隣には誰もいない。家族はいないし、仲間は殺した、僕のそばにいてくれた少女は、殺された。
 あぁ、そうだ、彼女がいた。仕事のパートナーでしかないが、僕はラナに体内無線機を使い電話をかけてみた。出ない、時間はまだ深夜だ。寝ているのかもしれない。そもそも、僕はラナに何を期待して連絡したのだろう。彼女に、孤独で寂しいとでも伝えるつもりだったのだろうか。論外だ。人殺しの僕にはこれがお似合いなのだ。孤独の辛さに耐えることで、僕は自分の罪を償えているようなつもりになっている。どこまでも哀れで、先日の殺人者と大した違いはない。
 哀れな僕をどうか笑ってくれ、蔑んでくれ!
 しかし、僕の隣には誰もいない。



 薄暗い室内。筋骨隆々の大きな体をした男と、女が交わっている。
 女の身体は細く引き締まっているが起伏は激しく、大きな胸からくびれた腰のラインが美しかった。
 男はマカベリの黒社会の二大組織の一つのボス。完璧なスタイルをした女はラナ・イース、情報屋だ。
 全裸のラナは自ら尻をボスの股間に押し付け、激しく喘ぐ。挑発的な切れ長の目が歪む。
 やがて男の方がラナをベッドに押し倒し、激しく腰を打ち付け、ラナの体内へと存分に射精する。身体を震わし全てを出し切ると、自らを引き抜き今度はそれをラナに咥えさせる。ラナは舌を使いそれを丹念に舐め上げていく。
 やがて、男が口を開く。
「近々、でかい事件が起こる。黒社会の戦争は、マカベリを火の海にする」
 男のものを咥え、刺激を与えながらラナは続きを促した。
「このマカベリで、トリアゼ会の連中は大量の殺し屋を雇った。そして最近の大量の麻薬の密輸。間違いなくトリアゼ会はうちを潰し、マカベリを独占するつもりだ。もう戦争は決まりだ」
 一度萎えた男のものは刺激のためか、戦争への興奮のためか、すでにラナの口の中で勃起していた。
「もう一回する?」
 男は無言で、ふたたびラナの中をかき乱す。
 繰り返される射精でラナの膣が精子で溢れ出すころには、男は疲れ果て、同時に機密までを口にしてしまっていた。

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 マカベリから離れた大陸の南、略奪、強姦、殺戮が日常の、絶えず内紛が続く現世の地獄、ソルマリア。多くの善意団体や聖者たちが復興に尽くしたが、屍を増やすことにしかならず、やがて世界から隔離され人々の関心からこぼれた地域。まともな資源が得られず、労働環境の存在しないこの国では、子供は幼い内から体を売られるか、殺されるか、殺して生きていくしかない。
 レシオンという国も凶悪犯罪は起こるし、死の危険は溢れている。だが、トランはそんなマカベリを天国だと思った。

 マカベリ市内のとあるビルの一角にある地上12階の一室、そこで柔らかいソファに佇むトランは、まだ少年と言っても良い年齢だった。幼い顔立ち、小さく細い身体。だがその瞳に子供特有の無邪気さや光はなく、ただただ暗い闇を映している。
 トラン、という名前は本当の名前ではなかった。生まれた時はゴミ捨て場にいて、両親の顔など見たこともなかった。強姦されて身ごもった女が出来た子供をすぐに捨てることはソルマリアでは当たり前の光景だった。生まれた瞬間から死んでいるような、そんな残酷に不思議な出生だったが、いくつかの偶然が重なりトランは大きくなることが出来た。
 ソルマリアで子供が生き残る方法は一つしかない。要するに、自分よりも弱い物を狙って殺すのだ。殺しの方法は簡単に教わることが出来た。内紛地域でよく見る幼年兵、ソルマリアには大人から逃れた幼年兵の集団がいくつもあって、彼らは幼いながらに生き延びる術を知っていた。仲間を増やしていくことで、他者から身を守る。幼年兵の集団に拾われたトランは、5歳になるまで食事を世話され、それからは殺しを教わり狩りを手伝うようになった。
 初めて一人で人を殺したのは、6歳の時。ある日ソルマリアに平和を打ち立てようとしたボランティア団体がトラン達のグループがいる地域を訪れた。外国から来た大人たちはトラン達を見るなり、同情や憐憫の視線を浴びせると、用意していた支援物資を与えようとした。ボランティア団体の青年の一人がトランに近づき、水と食料を渡すと、トランはお返しに刃を青年の喉元に突き立てた。それを皮切りに幼年兵たちは一斉に暴れだし、ボランティア団体を虐殺し、全ての食料を奪いさり、リーダー格の16歳ほどの少年は女性ボランティアを強姦した。
 そのときに殺した男の名前が、トランだった。殺した人間のものは奪ってもいい。それが幼いトランの倫理だった。だから、名前をいただいた。
 それから七年間、毎日毎日殺す日々を送ってきたトランは、グループのリーダーになっていた。トランには、才能があった。殺戮の才能。ソルマリアでのトランの行動は裏社会では外国にも知れ渡り、ついにはスカウトまできた。
 トランの前に現れた裏社会の人間は。トリアゼ会という組織の人間だった。トランにとっては多額の報酬を貰っての殺人。断る理由はなにもなかった。

 そして、トランはマカベリまで連れてこられた。室内には、ソルマリアでの仲間たちもいる。トランを含めて10人、皆幼い子供たちだ。
 扉が開き、男が入ってくる。トランをスカウトした男だ。トリアゼ会の二番手、ヴィトスラ。黒いスーツにフレームの無い眼鏡をかけた一見俳優のようにも見える男。ヴィトスラは部屋に入るなり、トランの向かいのソファに座り口を開く。
「近いうちトリアゼ会はマカベリで縄張り争いを続ける蘭星会と大きな抗争を始める。お前たちには蘭星会の人間を片っ端から殺していってほしい。報酬は殺した数、殺した人物の重要度で決める」
「わかりやすくていいや。俺たちのほとんどはまともな教育を受けてないから、文字を読めない奴が多いし、言葉すら危うい奴がいる。だからまともな仕事なんて出来ない。ただ殺すだけでお金がもらえるなんて、楽なもんだ」
「油断するなよ、蘭星会はうちとずっと争ってきた武闘派の組織だ。それに向こうも大量の殺し屋を雇ってくるだろう」
「ここがソルマリア以上の地獄でないなら、俺たちは死なないよ」
 それを聞いて、ヴィトスラは笑みを浮かべる。目の前の自分の年齢の半分にも及ばない少年から、揺るぎない自信を感じた。殺しあうことにここまで慣れた少年がいることが嬉しかった。
6, 5

  

                3


 マカベリの裏社会を支配する二つの巨大組織、蘭星会とトリアゼ会が長年続いた縄張り争いに終止符を打つため近々大規模な抗争を始める。両組織とも内部の裏社会の武闘派たちの他に外部から強力かつ凶悪な兵士、殺し屋や兵隊くずれなどの裏社会に生きる人の道を踏み外した者たちを大量に雇っている。
 という話を僕は目の前にいるラナから聞かされる。
 ラナが僕の部屋を訪ねてきたのは午前8時くらいだった。部屋にあがるなりラナはシャワーを借りていい?と尋ね僕が了承すると仮にも男の僕がいるのに気にもせずシャワーを浴び始めた。
 部屋を訪ねてきたときのラナからは、とても性的なにおいがした。男女が交わった後の生臭さが染みついていた。たまに風俗で性欲を発散するしかない僕はラナのにおいに欲情しかけるところだった。
 風呂上がりのラナはバスタオルで体を拭きながら一糸まとわぬ姿で僕の前に現れた。僕は過敏な反応をしないよう気を付けて、さりげなく視線を伏せた。
「あら、気になる?」
「そりゃあね」
「かわいい反応するのね」
「誘ってるの?」
「私はお風呂上りはしばらく裸でいて体を冷まさなきゃ嫌なの。しばらくこのままでいいかしら」
「ダメとは言わないよ」
 濡れた髪から垂れる雫が、絹のような肌をすべり落ちる。初めて裸を見たけれど、まるで芸術だと思う。大きな胸、くびれた腰、処理された陰毛は美しく生い茂っている。
 椅子に座って髪を乾かすラナ。大きな胸の先端、二つの小豆色の突起が僕を吸い込もうとしているような気がした。
 仕事の話をしましょ。
 裸のまま、ラナはそう切り出した。
 一通り話が終わると、ラナは服を着ようと床に散乱している下着に手をかける。
「ところで、肝心のところが抜けてるよ。その話を聞かせて、僕に何をさせたいんだ?」
「あら、そうだったわね」
 下着を履きかけた体制のままで、ラナは反応する。未だ鬱蒼とした美しき三角の地帯は外気にさらされたままだ。
「あなたにはトリアゼ会の雇った兵士たちをころしてもらいたいの」
「それは蘭星会の味方をしろってこと?」
「そうなるわね」
「なぜ?どちらも黒社会の人間だろう」
「蘭星会の方が生き残ってくれた方がメリットが多いのよ」
「そういうことなら、断りたいな」
 そういえば、僕が仕事を断ったのは今のが初めてだ。ラナも少しだけ驚いている。
「僕は悪人しか殺さない、なんてフィクションの主人公みたいなことは言わない。仕事であれば女子供でも殺してきた人間のクズだ。でも、殺すときは必ず自らの意志で殺してきた。世界の為に、殺しの先に、一縷の希望があると信じて。僕の殺しの力は本来そのために授けられたものだ。金のために裏社会の片棒を担ぐようなことはしたくない」
「そういえば、この手の依頼をあなたにしたことはなかったわね」
「悪いけど、今回は他をあたってくれ」
「一つ誤解してるようだけど、私がいったメリットってのはなにも私が利益を得られるからとかそういう話じゃないわ。マカベリにとって、て意味なのよ」
「どういうこと?」
「今のマカベリは二つの組織の均等で平和が守られている、それも危ういぎりぎりのラインでだけどね。バランスが崩壊すれば、一気にマカベリは混沌に飲まれることになる」
「なら、トリアゼ会の兵士だけを狙えというのはなんでだ」
「切望の翼ガウエン、て聞いたことある?」
「知ってる。どこの組織にも属さない戦闘狂だとか」
 切望の翼・ガウエン。昔、皇国独立暗殺部隊闇色の瞳がまだ存在していた頃、一度暗殺指令が出た男だ。結局、戦場から戦場を渡り歩くガウエンに出くわすことはなく、居場所も判明できず、うやむやになっていたまま組織が壊滅してしまったので直接あったことはのいのだが、とにかく圧倒的に強い魔法士だという噂は耐えない。
「今までどの組織にも属さなかったガウエンがトリアゼ会についたのよ。トリアゼ会は他にも黎明の調整者(イルギギス)の信者、死薔薇のアーセス、マカベリ最高の剣士ゼンセイ、他にも有名な凶悪犯を雇うことに成功してる。明らかに、蘭星会との戦力バランスが保てていない」
「だから、僕にそいつらを殺させてバランスを取らせようってことか」
「そういうこと」
「簡単に言ってくれるね。どいつもこいつも破格の懸賞金がかけられた一級の魔法士たちだ。ゼンセイだけは、裏社会の住人ではないが」
「ゼンセイがトリアゼ会についた経緯までは知らないけれど、とにかく血に飢えた男らしいから」
「ガウエンに至っては、正直勝てる自信がない。確実にアイツを倒したければ皇国の四騎士にでも頼むべきだろう。下手すれば一人で蘭星会を潰しかねない」
「いつもは二つ返事で了解、しか言わないのに今回はつっかかるわね」
「いや、骨の折れる仕事だなと思うと気乗りはしないね」
 僕はそういって未だ下着すら履いていないラナに近寄る。
「なに?」
「そろそろ限界だよ」
 僕はラナの後ろの回り込み、腕を回す。右手をラナの下腹部に這わす。
「したいの?」
「この身体を見てなにもしないのは無理だよ」
「昨日からずっと抱かれてて、もうくたくたなんだけど」
「こいつを収めてくれたらすぐ休んでいいよ」
 そう言って僕はラナの腕を掴み自分の股間へと移動させる。ラナは僕のズボンのファスナーを下すと、中からそそり立った僕自身を取り出し摩擦をはじめる。柔らかい手の感触が心地いい。僕はラナの大きな胸を揉んだりつまんだりして愛撫する。やがて股間が濡れてくるのがわかる。
「早く済ませましょ」
 ラナは作業的に僕のものを銜え込み、顔を前後して刺激する。口内で舌が僕の先端を刺激して、はやくも射精感がこみあげてくる。しばらくして、僕はラナの口内に射精する。ラナはティッシュを見つけると一枚引き抜きそこに僕の精液を吐き出す。
「これで満足した?」
「いや、まだ」
 僕は萎んだものをラナの豊満な胸に押し付け刺激し、再び血を巡らせる。ラナの胸に挟まれてる間に僕のものはすぐに復活し、今度はラナを四つん這いにさせる。形のいい尻の間から顔をのぞかせる女性器に僕自身を挿入。何度もピストンしていく。時折漏れるラナの嬌声が僕を満たしてくれる。ふラナが手をついているテーブルの上に愛用のナイフがある。ふとそれが目につくと、僕はそれでラナを串刺しにしてみたい衝動に駆られる。残酷な願望を振り払うかのようにラナの内部をえぐり、やがて二回目の射精。たっぷりと、内部に全てを出し尽くす。
「下手なのね」
 ラナは息を切らしながら、いきなり犯されたことへの怒りを込めた言葉を投げてくる。
「汚れたから舐めてよ」
 僕は無視してラナの体液にまみれた僕のモノを突き出す。ラナは片手で自分の膣をいじり僕の精液を掻き出しながら、僕の汚れたアソコを舐め始める。
 まぁ、妊娠する心配はないだろうし妊娠しても特に気にすることはない。下せばいいだけだ。人口増加が問題になっている現代では、避妊技術の進歩は凄まじいものがある。
 ふと思う。
 もし、僕に子供が出来たら、僕は自分の子供を殺せるのだろうか。
 考えただけでも背筋が凍るのでラナの口戯に集中して忘れ去ることにする。
「終わったらもう一度シャワーを貸してね」
 そういって、ラナは僕自身を舌で綺麗に舐め上げてくれる。まるで動物みたいだ、と思った。
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