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常識はずれの転校生

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――――常識はずれの転校生


 朝のニュースでは、今日の湿度は72%だと言っていた。外は曇り空である。今思えば朝方は多少カラッとしていたかもしれない。急な天候の変化だろうか、もはやこの教室の湿度は90%超だろってくらいじめじめしていた。72%じゃない。溺れるんじゃ無いだろうかってくらい、煎餅も封を開けた瞬間ふやふやに鳴るんじゃないの?ってくらい湿気に満ちている。
 ちなみに私の席は、窓際後ろから2番目と割と良いポジションを獲得しているのに、窓を開けても生暖かい風しか入ってこないわけで、ついでに言うと後ろの席の餅田君の荒い鼻息が、丁度私の位置でバギクロス。
 右隣の席が何故か空席という事だけが、救いなのである。もしグランドクロスが巻き起これば私のHP(ヒットポイント=体力)は途端にゼロになってしまうだろう。

「えーと、少し予定とズレてしまったが、転校生を紹介する」

 今は4時限目が始まる頃合い。もうこの授業が終わればお昼時である。そんな時間に国語教師および担任が、首席簿片手に教室のドアに向かって「ほら、入ってこい」と手招きする。
 既に担任が入ってきた時に空いていたドアは、演出上かまた閉まっていて、あざとくガラッと空いたかと思ったら。

「どーもどーも、天咲陣八です。あ、この犬は甘七って言います。あー大丈夫大丈夫、こいつ吠えないし噛まないし確りつないどきますん――メメタァッッッッッ!!!!」

 私は見ていた。一人の男が、いや、子犬を連れたもっさり天然パーマのネクタイも付けてないとてもだらしの無い男が、入ってきたかと思うと。自己紹介かと思わしき言葉をもらした途端、担任の出席簿による攻撃がそのもっさり天然パーマの男の顔面にヒットし、元来たドアに悲鳴を上げ頭からリバースしていった光景を。

「だからお前犬つれてくんなって言ったろうがアアアアアアアア!!! 学校まで連れてくるのは百歩譲ったとしても校門繋いどけっつったろうがボケエエエエエ!!」

 担任の怒声が響く。クラスのみんなはついて行けずに唖然としている。そんな空気を知って知らずか。もっさり天パ男は頭から血を流しながら平気な顔で教室に入ってくる。

「いやいや先生、犬が勝手についてくるんですよ。これは仕方ないでしょ、うん」

「いやいや、お前犬引きずってんじゃん!! 明らかにやる気ねーだろお前の犬!! 完璧に伏せの体制で固まってんじゃん逆にすげーよ!!」

「だろ!? すげーだろ家の犬!! いいからクラスの仲間入りさせろや差別か!!」

「いやいや、何その理屈? 差別ってのは人が人にする事なんですー。犬にしてもそれは差別と言わないんですー!」「んだお前!! 動物愛護団体に訴えるぞ! 今のバッチリ録音したかんな!! 証拠十分だからな!!」

 クラス中を置き去りにしたまま、担任と天パの言い合いは収まらない。収まらないのは私の心持ちもそうだった。この無駄な時間消費のお陰て、私の体感湿度は120%を超えた。そしてイライラも、限界を迎えていた。

「っるっせーんだよこの糞天パ!! おまえもさっさと授業始めろやアアアアア!!!」

 机を叩いた音に、そしてこの怒声にクラス中の視線が集まる。私の中ではとてつもないやってしまった感がひしめいていた。三つ右となりの親友の桜田さんはきっと(もうあの子と友達やめよう)なんて思ってるに違いないな。

(ええちょっと、何何何なの? あの子キャラあんなんだったっけ?)
 ちなみに、右隣三つ目の桜田さんはそう思っていた。

 このじめじめが、この湿度が、このイライラが私の中でイオナズンを起こしてしまっていた。

「ったくうっせーなイオナズンかよ。教室しけちまっただろうが、大体人の自己紹介邪魔しやがって。おかげで! 第一印象台無しでしょーが!!」

「あー絶対血だるま天パとか変なあだ名付けられたよ・・・。」とか呟く天パをしかとして、担任は授業を再開する。

「えーと、ハリーポッター189ページの・・・」

「教科書じゃないだろ!!」

「天咲陣八は天に咲くと書いて。あとは陣内の陣に八百屋の八です。えっと・・・あ、そのハリーポッターのしおり外さないでね先生、まだ読みかけだから」

「おまえややこしいからもうここ座れや!! ほら隣空いてるからー!!」

 そう捲し立てる様に話を進め、天パの転校生を席に座らせる事でようやくちゃんとした授業が再開される。




 これが、血だるま天パと私の出会い・・・。
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