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手紙

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 「秀雄。お前から手紙なんてもんを貰うとは、何か体がむず痒くてしょうがねえや。まさかお前からの手紙だとは思わなかったから読まず終いで一ヶ月も返事遅れちまってすまん。だからすまんって。申し訳ないと思ってるし後悔もしてるから。確かにすまないが、差出人の名前くらい書こうぜ。どうせあれだろ?宛名の字体で分かるだろうとか思ってたんだろ。お前の字体なんて知るかっての。昔っからそういうとこあるよな。自分のことおれが何でも知ってると思ってやがる。
 お前が手紙よこした理由だってそういうことだろ。自分の状況をおれに知らせることで常に気に掛けてて欲しいんだろ。いくらガキの頃からの付き合いでもそりゃあねえぜ。まあ、でも切羽詰まったお前の身からしたら、分からなくもないが。

 で、なんだ。とうとうつぶれたのかと思ったら自分で店畳んだのかよ。そんで、やったのがこれ。こんな勇気あるなんて長い付き合いのくせに知らなかったよ。本当に突然でかいことやるんだからなお前は。誰も入らねえ廃れた鮨屋の亭主が一躍地元の有名人って、まったくお前ってやつはつくづく面白い奴だよ。
 ほら、あれ覚えてるか?中学の時近所の公園で花火したときのこと。おれが打ち上げ花火の打ち上がる方向を自在に操れるようにって作った、丸めて筒状にした段ボール。あん中に打ち上げ花火入れて肩に担いで、ロケットランチャーっつってお前を恐怖のどん底に陥れたわな。そしたらお前が対抗して、手は怖いからって尻に打ち上げ花火挟んで、後ろ向きになっておれに発射しようとしたよな。でも打ち上がんねえの。尻のとこですげえ火花散ってさ。お前の尻、焦げてんの。んで翌日の授業お前ずっと立って受けてんのね。あれは本当に笑ったわ。本当に笑うとさ、声って出ないのね。まず呼吸が出来ねえの。あんな風に笑うなんて、最近ねえな。

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 何であの花火の話になったかってえと、まあお前が面白い奴って思い返してるのと、あと、もう夏だしな、花火の季節ってことで、おれの住んでる近所じゃあ花火大会なんてのもないしな、その分お前はいいよ、ずっと地元でさ、ほら、花火大会もあるし、店は畳んだし、でっかい打ち上げ花火をさ、お前なら近くで見れんだろ、まあおれも仕事やら家族やらのことがあるからさ、すぐには無理だけど、そっちいくからさ、そんときゃ一緒に酒でも飲みながら、見ようぜ、なんかこんな手紙書くの初めてだから終わり方がわかんねえんだけど、まあ、とにかく、本当に心から、ありがとう。
                     合掌。

                            弔辞 佐藤謙作」
        
                             了

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