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零れた水のすくい方

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幼い頃、何度も何度も
水を手のひらにすくっていた。
たくさんあると思った水は
指の間を抜けて
すぐに消えてしまう

それが嫌で、母に何度も質問した覚えがある

母は困った顔で。

仕方ないわよ。とだけ言った

段々と大人になり、社会に出てからも
時々、手のひら一杯に水を貯めてみる
やはり水は、どうがんばっても流れ落ちてしまう

濡れた手が、たしかに水を貯めていたという証拠を残す

時間が経てば、それも無くなる。

「思い出も、水みたいなものだよ。」

あの日の君の声がフラッシュバックする

僕らは確かに、恋をしていた。

思い出は、いつも甘く切ない
あの日、僕は、君は泣いていたのに
今は笑っていた頃しか思い出せない

色づいた世界はセピア色になり
そして、ついには白黒になった。
きっと、決して忘れまいと誓った
あの日の強い気持ちも
近いうちに失ってしまうんだろう

そのことを思うと、不思議と涙が溢れた



大学2年生の時、僕と君は出会った。
いや、正確に言えば。
僕は君をずっと見ていた。
二人が存在を認め合ったのが、そのときだっただけだ。

僕らの恋は、三文小説よりも拙く
なんの起伏もなく、終わりを告げた

雪のちらつく公園で。
一人、小さく歌を歌いながら帰った。
最後まで、僕は君の力にはなれなかった。

家へ帰って、一人何もせずにただ。
窓から外を眺めていると
不意に家の電話が鳴った。

友達からだった。

少し、震えた声で応対したことだけは覚えている
軽い言葉で、ふられたんだ。と切り出そうとすると

それどころじゃないと言われ

彼女が、死んだことを聞かされた。

家へ帰る途中に、信号無視のトラックに轢かれた
即死だったらしい。

葬式には、結局行かなかった。
彼女の死に顔は見たくなかった

僕は、気づかないうちに大切なものを失っていた
気づいたときには、もう。水は指から零れていた

「私一人でも平気だから。」

「最後に、甘えさせて?」

「ありがとう、ばいばい。」


流れた水は。
ただ、消えてゆくだけ。
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