三度目のキス
初めてのキスは、タバコの味がした。
彼女は目を丸くして固まっている。
手にしていたタバコを、ぼろり、と指から滑らせ彼女は僕に向き直った。
小さく赤い光が橋の下の川へと落ちて、夜の闇にとけるように消える。
「なんで?」
「なんで、だろう」
自分がそうしてしまった理由を言葉にしようとしても、それは何故だかすべて後付のようになってしまう気がする。
当たり前のように体がそう動いてしまった。ただ、それだけ。
僕が言葉につまっていると、彼女はずい、と近寄ってくる。
「はっきりした理由じゃないってこと?」
彼女の眼は力強くまっすぐで、僕はそれをとても好ましく思う。
「そうじゃないよ」
僕はそう言って、少し言葉を選ぶ。
「タバコ、止めたほうがいいんじゃないかな、と思って」
「それで、なんでキス?」
「タバコを吸ってるとき、楽しくなさそうだったから?」
「キスは、楽しいの?」
楽しいか楽しくないかと言われたら、楽しいのだろうか。
「つまらなくは、ないと思って」
僕がそういうと、彼女は何がおかしかったのか、ふふ、と少し吹き出すように笑った。
「それは、そうかも」
彼女は僕の言葉に同意して、それから僕の手を取った。
「なら、もっとつまらなくないように、してよ」
「努力する」
僕はそう応えて、瞳を閉じる彼女に顔を近づける。
ちょっとだけ、唇からずれた位置にキス。緊張して、失敗。
彼女が、ぶは、と今度は大きく吹き出した。
「へたっぴ」
楽しそうにそう言われ、僕は少しだけへこむ。でも、彼女はもうつまらなそうな顔はしていない。
彼女が体を寄せてくる。
三度目のキスは、彼女から。