彼女のパンツが見たい訳
付き合い始めて一年、キスだってセックスだって済ませたにも関わらず、僕は彼女のパンツを見たことがない。
いや、あるにはあるが、それはあくまでチラリズムの範疇であって、目の前でまじまじと見れたものではない。
僕は触れられる距離で、彼女のパンツとそれに身を包んだ彼女の肌を見つめたいだけなのだけれど。
彼女は裸になることは特別気にしないくせに、下着姿は恥ずかしいなどと言う。
何を言っているのだ、と僕は思うけれど、まあそれは彼女の中でそういうものなのだろう。
だからと言って僕は、それを見ないままに死ぬなどということは到底許容できるわけもなく、彼女のスカートの中を毎日のように夢想し続けた。
そんな風に悶々としていたところ、僕は彼女の夢を見る。
夢の中の彼女は大胆で、僕好みのパンツを履いていて、嬉しそうに僕に身を寄せてきた。柔らかい感触と甘い匂いが僕を酔わせ、僕は夢の中で涙を流しながら嘔吐する。
気持ちよさと不快感がない交ぜになる中で彼女は笑って僕の髪を撫でた。
そうして目を覚ました僕の目の前には寝ゲロと涙でぐちゃぐちゃの枕と、それを見て爆笑する彼女がいて、僕は情けなさと悲しさに包まれながら夢の中の彼女の姿を思い出して少しだけ勃起する。
できればあれを現実で。
そうして僕は通販サイトで夢で見たものに近いパンツを購入する。
それを着た彼女を見られたなら、それはどんなにか。そしてそれに触れることができたなら、僕はもう何も思い残すことはないだろう。
作戦決行は深夜。彼女が深い眠りについたころ。
僕は暗闇の中で、ポケットに忍ばせておいたパンツを取り出し、寝息を立てる彼女の寝巻をゆっくりと脱がせようと手をかけた。
「なにしてんの?」
普通に彼女は目を覚まし、僕は死を覚悟する。
「何持ってんの?」
彼女は僕が握りしめていたパンツを僕からひったくり、目の前で広げ、笑う。
「そんなに、私のパンツ見たいんだ」
「はい」
「それで、寝こみを襲ったと」
「はい」
「バカすぎるでしょ」
彼女は堪えきれないという表情で腹を抱え、ベッドの上で転げまわる。
まったく、返す言葉もない。それでも、パンツが見たかったんだ、僕は。
「君のそういうバカなところ、嫌いじゃないけどね」
彼女は少し落ち着いたのか、ふう、と息を吐いてそう言いながら、パンツを自分の衣装ケースに仕舞う。
「あの、それは」
「君に、見てほしい、って思ったらこのパンツを着てあげる」
彼女はそういって僕に顔を寄せる。
「今日は、普通のパンツで我慢なさい」
「うん?」
「夜這いするほど見たいなら、見せてあげるってば」
なんてこった。深夜の魔法か。彼女はゆっくりと立ち上がり、寝巻をゆっくりと脱いでいく。
月明かりに照らされる部屋で、彼女の肌が輝いて、その先に僕の求めた景色が。
「……うん」
そこにはいわゆるトランクス型の下着が。
彼女はにやりと意地悪な笑みを浮かべている。
「最近は女物でいろいろ出てるんだよね。これなら恥ずかしくないし、見せてあげてもいいよ」
その姿は下着姿、というよりもラフな部屋着、という風貌だ。少なくとも今まで僕が求めてきたパンツ像ではない。
彼女は僕の期待を裏切り、落胆する僕の顔が見たかったのだろう。
しかしながら、
「これはこれで」
アリだ。
「へ?」
彼女が僕の予想外の反応に、きょとん、と目を丸くする。
僕が彼女を押し倒す。
「ちょ、ちょ、っと」
簡単に彼女の体はベッドに倒れこみ、僕はそれに覆いかぶさる。
「見せてくれるんでしょう?」
僕がそういうと、う、と彼女は小さく呻いた。
「こんなので、いいの」
突然しおらしくなる彼女がおかしくて、僕は少し笑う。
「君だから、どんなの履いてても、可愛いよ」
僕の言葉に、また彼女は驚いたような表情を見せ、それから少し困ったように微笑んだ。
「へんたい」