笹船 / 負け犬わんわん
彼女が彼女の持ちうるすべての愛を俺に捧げてくれるのならともかく、そんなことはありえないし、俺の持ちうるすべての愛を彼女に捧げるなんて、そもそも無理な話ですし、想像もできない時点で、「いつかこの恋愛も終わってしまうかもしれないな」なんて気がうすうすしていたけど、「実は既に終わっていました」という結論で締めくくられる。
俺が毎週水曜日に通う「ナンダム進学塾」から家に帰る途中にある「緑が丘2丁目公園」で、俺の彼女が知らないスーツのオッサンとディープキスしているのを目撃してしまう。
ん……ちゅ……んん……ちゅっ……
なんて音が聞こえそうなくらいの濃厚なキッス。
俺なんてまだ唇を触れ合わすくらいのチューしかしてないのに!
俺の活動範囲内での堂々としたハレンチ極まりない行動に俺は我を忘れて激昂……してしまうどころか放心してしまうも、すぐに冷たく静かに俺の魂は帰ってくる。
そもそも終わりが見えていた関係だったし
俺は何も見なかったことにして家路を急ぐ。
なにも見なかったことにして全てを忘れよう。冷蔵庫に入ったオヤジのビールをグッと飲んで、カーッと酔って、なにもなかったことにして明日彼女と別れよう。
なんて頭では考えているものの、胸の動悸は収まらないし、肺の下らへんに黒くて重くて苦い毒のようなものが居座っているし、気がついたら自分ん家を通り越して千代川まできている。
普段なら春の瑞々しい黄緑色の雑草が目に痛いくらいの千代川の河川敷も、俺の目には灰色にしか映らない(もう夜だからかもしれないけど)
なんか昔に「携帯電話を川に落としたよ笹舟の様に流れていったよアーアァー」なんて歌があったなーとふと思い出すと同時に、俺の携帯電話は宙を舞っていて、ボチャッと魚が跳ねるような音がして俺のポケットの友は姿を消してしまう。
笹舟の様に携帯は流れていかなかったけど、俺の薄っぺらなアドレス帳と思い出の画像は0と1の笹舟になって日本海に流れていくのだろう。
とりあえず明日彼女と別れるのはやめにして、あのスーツのオッサンと彼女に盛大な復讐を計画しよう。と心に誓った途端……胸の動悸は収まって、肺の下らへんの黒くて重くて苦い毒のようなものがニヤリと笑うのを感じる。
人間1人に与えられた愛の容量はグラハム数やふぃっしゅ数なんて比べ物にならないくらいの大きさで、それは純粋なキスによって無限に近い有限の愛を捧げたり、捧げられたりできるのだ。
嘘のキスは無限に近い有限の愛を奪い、奪われるものだ。と思うからこそ、奪われたものは取り返さないといけない。笹舟の様に流されて失うわけにはいかない。
だって結局のところ、俺の愛も有限なのだ。
FAならぬFS
負け犬わんわん先生からの寄稿です。
悔しい。面白い。
なんなのこの人!!
こんなの僕書けません!!!
ありがとうございます!!!(半ギレ
悔しい。面白い。
なんなのこの人!!
こんなの僕書けません!!!
ありがとうございます!!!(半ギレ