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説得

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 七月ももうすぐ終わり。
 本格的にやってくる夏の気配を感じながらアリスや宝樹といった面々は教室でたむろっていた。と言ってもアリスは早く帰りたいのだが、どういう訳か帰してくれない。渋々ながら机に拘束されているのだ。
 仏帳面で座っているアリスを美幸やフレイヤがなだめている。


 「ごめんね、ちょっと待っててね」
 「朱音が日直だって忘れてて今、日誌を職員室に出しに行ってるの。戻ってきたら話があるから」
 「…………へー」


 たいそうご立腹なよう。
 ちなみに達也は帰った。
 研究所に用があるとか言ってさっさと帰宅してしまい、捕まえることができなかったのだ。
 仮にいたとしても少し話をするだけなので別に問題はなかった。
 アリスは学校からすぐに帰ってゆっくり音楽を聴きたかったのだが、そういう訳にはいかないらしい。残念ながらこの中学校はウォークマンなどの持ち込みは禁止されている。聞くには家に帰らざるを得ないのだ。


 「…………」


 しょうがないので本を読み始める。
 と言っても既に一度読み終わっているのでそこまで面白くない。
 ただひたすら文字の羅列を眺めていると教室に来訪者があった。


 「お姉ちゃん!! 来たよ!!」
 「…………マリア?」
 「そうだよー」


 マリアとデルタ、それになんだか不満そうな顔をしたユウキの三人。
 どうやらユウキはアリス同様無理やり連れて来られたらしい。
 その死んだ目が全てを物語っていた。


 「来ましタ」
 「どうもー」
 「遅いですわ」
 「ユウキが渋ってテ」
 「なんで行きたくなかったのよ」
 「俺は興味ないからだよ……達也さんいないし女だらけの空間に居づらいんだよ」
 「えー、別にいいじゃん」
 「マリアには分からないんだろうな」
 「ま、そうだね」
 「……なんでそんな上機嫌何んだ?」
 「いやー、久しぶりにお姉ちゃんの教室に来たものだから」
 「あ、そう」


 興味なさそうなユウキ
 アリスもおおむね同じ気持ちだった。
 何となくどんよりした空気を纏う二人をほかの人たちが気遣う構図になっている。




 数分後、無事に朱音がやってきて、ようやく話を始めることができた。
 宝樹は真っ先にユウキのことを指さすと言った。


 「あなた、帰りなさい」
 「はぁ?」
 「女子だけで話したいの。わざわざ来てもらって悪いんだけど」
 「マリアー、聞いてた話と違うんだが」
 「そんなこと言っても私何も言ってないよ」
 「…………そういえばそうだな」
 「まぁ……でも。ごめん」
 「まぁ、いいよ」


 そう言ってユウキは不満顔で帰っていった。
 少し申し訳ない気分になったので、マリアはあとで謝っておくことにした。


 「さて、司会の美幸です」
 「どうしてお前が司会なんだよ」
 「そうだそうだー」
 「えぇ……どうしてそんなこと言うのー」
 「冗談だよ」
 「そうだそうだー」
 「え……えぇ」
 「朱音、蓮華意地悪しないの」
 「「はい」」


 フレイヤに止められる二人。
 それで安心したのか、美幸は話を再開した。


 「さてと、先日宝樹ちゃんから提案がありました」
 「…………」
 「はいアリス。ガン無視しない」
 「……なんで」
 「知らないのアリスだけだもん」
 「じゃあ知らないままでいい」
 「えぇ…………」


 困った顔をする美幸。
 助けを求めるように宝樹とフレイヤの方を見る。
 するとアイコンタクトで返事が返って来た。
 いいからはやくしろ、と。


 「え、ええ……」
 「…………」


 そんな美幸を見て、無言で帰宅の準備を始めるアリス。これまた非情なものだった。
 だが、おかげで危機感を抱いた美幸は話を続ける気になれた。

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 「えーとですね。この夏休みに魔法少女だけで海に行こうということになりましてね」
 「…………」
 「宝樹ちゃんの別荘をまるまる借りることになったのですよ」
 「…………」
 「という訳で次の休日に一緒に水着を買いに行きましょう!!」
 「断わる」
 「にべもない!?」 
 「帰る」
 「取り付く島もない!?」
 「うるさい」
 「おまけに駄目出し!?」


 美幸のライフはもうゼロだ!!
 何とか机に縋りついて立っていたのだが、ガクリと膝から崩れ落ちてしまった。そしてそのままピクリとも動かなくなった。どうやら思っていた以上にダメージが大きかったらしい。再起不能にまで追い込まれてしまった。
 そこでしょうがなしに宝樹が一歩前に出ると美幸に代わった。


 「と、いう訳なの」
 「帰る」
 「だから待ってって言っているでしょう」
 「…………」


 少し前のアリスならここで容赦なく帰宅しているのだが、逆にピクリとも動こうとしない。それはそれで不気味で何となく踏み込むことのできない全員。しかし、マリアだけは前に出るとアリスに話しかける。
 すごいと思う。
 マリアは懇願するような顔で話し始めた。


 「ねぇ、お姉ちゃん。一緒に行こうよー」
 「え、でも……」
 「いいじゃん!! きっと楽しいよ」
 「お金が」
 「宝樹さんがつけてくれるって」
 「後で払ってくださいましよ」
 「…………」


 逃げ場はない。
 アリスはマリアにめっぽう弱い。
 こんな目で見られては行かないわけにはいかない。
 アリスは、小さな声で「ハァ……」と深い深いため息を吐くと答えた。


 「早く帰らせてよね」
 「「「「「……!!」」」」」


 アリス以外の(ほとんど)全員が明るい顔をする。
 こうして休日に全員で出かけることが決定した。

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