お買い物 その①
「一ついい?、宝樹ちゃん」
「何かしら美幸」
「宝樹ちゃんって本当にお金持ちなんだね」
「いまさら何を言っているの?」
「いや、本当にすごいなーって」
柳葉町で一番大きなデパート。
そこに全員は集っていた。
と言っても先に二年生組と三年生組の一部は入店しているので、今ここにいるのは美幸と宝樹、アリスにマリア、デルタとユウキ&達也だ。と言ってもこのうちの二人はすぐに別行動となるので買い物にはついてこない。
ちなみにほかに遥香もいるはずなのだが、顔が見えない。
また、どういう訳か達也は何が入っているか分からないが、スーツケースのようなものを手にしていた。
不思議に思った宝樹は美幸に尋ねてみる。
「美幸、遥香はどこに行ったの?」
「えーとね「彼方とスーパーにお使い行って来るって」」
「あのブラコンが」
「ちなみに照ちゃんもいないよ。理由は聞いてないけど」
「あのマザコンが」
「帰りたい」
「そう言わないでよーアリスー」
そう言ってたから気が縋りついてくる。
鬱陶しいが面倒なので黙っていることにした。
「じゃ、俺とユウキはお茶でも飲んでるわ。お昼過ぎに集合でいいのか?」
「いい」
「じゃあ、アリス楽しんできて」
「ん」
「じゃ」
そう言って二人は一足先に動くと店内へと入っていった。その背中をどことなく未練気に見送ってから、彼女たちも動くことにした。宝樹を先頭にアリスを逃がさないように囲い込んでいる。対策はばっちりだ。
それが分かっているのか、アリスはもうドタバタしないことにした。
「さて、とうちゃーく」
「…………」
水着売り場。
一応普通に営業してはいるので、一般の客はいる。
やはり若い女性が圧倒的に多い。自分たちと同じく、夏休みに向けて買いに来ているのだろう。人が多いところがあまり好かないアリスにとっては、それは地獄と言っても過言ではなかった。キャッキャッと訳の分からないことをのたまいながら盛り上がっている。
正直うざいし、うっとうしい。
だが、こちらも似たようなものだった。
「わー可愛いー」
「そうですわね」
「お姉ちゃんはどれがいいと思う?」
「…………」
宝樹に聞かれていたら「どれでもいい」と答えているのだが、今はマリアに尋ねられたので無言で返す。だが、本音を言うと心の底からどうでもいい。こんなのただの水をはじく布ではないか、派手に着飾ったところでだから何だというのだ。
おまけに無駄に高い。
腕を伸ばして名札を手にする。
するとさすがのアリスでも宝樹に買わせることを躊躇してしまうレベルの値段が書かれていた。
ふざけている。
こんなの買ったところで夏のわずかな時間にしか使わないと考えると買う気になれない。一応スクール水着はあるのだが、使ったことが無い。
全く馬鹿らしい。
そう思ったアリスはぽいっと投げ捨てるようにして値札を手から放した。
それを見てアリスの思考を完全に理解した宝樹は「ハァ」と小さくため息を吐いた。美幸はこっそりと宝樹の耳元に口を寄せると他の人に聞えないように、小さな声でコソコソと話を始めた。
「ねぇ、やっぱり達也君を呼んだ方がいいと思うの」
「そうしたら二人だけの世界を作っちゃうでしょう」
「そうだけど……」
「それだけじゃないのよ」
「え?」
「ユウキにちょっとしたお願いをしていますの」
「何、それ」
「フフフ。それは秘密よ」
そう言っていやらしい笑みを浮かべる宝樹。
それを見て美幸はほんの少し嫌な予感がした。
その頃アリヤ、詩音、久美と瑠花、それにフレイヤとレイは他の店に寄っていた。そこそこ大手の服屋で色々と見繕いに来たのだ。ちなみに金はちゃんと持って来ている。目的は主にアリヤの私服等だ。
彼女もまた、アリスと同じようにあまり私服をもっていない。
デートに行こうと話していたのに、私服がないことに後から気が付いた。いい機会なのでついでに買うことにしたのだ。
「どんなのが欲しいんだ、アリヤ」
「…………特にないけど」
「そんなんだから私服が無くなるんだぞ。私の趣味でいいのか?」
「…………詩音の好きなのでいいよ」
「マジで?」
「…………だって信じているもの」
「アリヤ……」
なんだか感動的な一面だが、話していることは大したことではない。ぶっちゃけたことを言うと、割とあほみたいなことだ。瑠花と久美は少しあきれ気味に眺めながら、自分たちは自分たちで適当に選ぶことにする。
瑠花は夏に向けて薄着の服を手に取ると、久美の前で広げて見せる。
「久美さん。これとかどうですか?」
「そうね、ちょっと派手じゃない?」
「久美さんってあまり派手なの着ないですよね」
「そうね。落ち着いたものが好き」
「似合うと思うのになー」
「あら、それは私のだったの?」
「だってサイズ的にそうじゃないですか」
確かに一回り大きい。
主に胸のサイズが、決して瑠花が小さいわけではない。平均と同じ程度だ。久美は平均より上、瑠花の選んだ物は久美に対してはちょうどいいも物だった。それを受け取った久美は、自分の体にあわせてみる。
サイズはよい。
だが先ほど述べた通り少々派手で、久美の趣味ではない。
でも可愛い後輩が選んでくれたものなので無碍にはできない。
「考えてみるわ」
「あ、気に入らないならいいですよ」
「そうね。似合いそうではあるね」
その通りだった。
趣味で無い以外に文句のつけどころはなかった。
とりあえず籠に入れておくことにした。
一方のフレイヤとレイはイチャコラしながら品物を見繕っている。
と言っても二人とも特に買う物はないので「これとかどう?」「いいですネー」とか言ってお互いに似合いそうなものを比べあっている。微笑ましいが、どこか例のチョイス外れているらしい。なんだか少し見当外れなものを選んでいる感じがある。
それはそれで二人とも非常に楽しそうだった。
同性カップルばかりで服を選んでいるような光景。
それは中々珍しいものだった。