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「Jolene」The White Stripes

動画はこちら
https://youtu.be/yXlULkwhgrc

ドリー・パートンの原曲
https://youtu.be/IW25foOMkwI


※空条承太郎:(くうじょう じょうたろう)「ジョジョの奇妙な冒険」第3部主人公。
空条徐倫(くうじょう じょりーん):「ストーンオーシャン」主人公。承太郎の娘。



「ジョリーン?」
 空条承太郎は娘との散歩中に立ち寄った公園のベンチでうとうとしてしまった。目が覚めると娘の徐倫の姿が消えていた。
「ジョリーン?」
 もう七歳だ、交通ルールも理解している。ほんの十分ばかりうとうとしただけだ。冷静に現状を分析しながらも、安心出来ない材料も次々と浮かんできてしまう。まだ七歳だ、七歳の女の子だ。好奇心が恐怖心を上回り始める年齢だ。承太郎自身がいつ命を狙われてもおかしくない人間だ。
「ジョリーン……ジョー、リーン!」
 叫んでも答えは返ってこない。低く燕が飛んでいる。雨が近付く気配が濃い。長く出掛けるつもりではなかったから傘を持ってきてはいない。濡れる徐倫の姿が浮かぶ。承太郎は少しでも徐倫が遠くに行ってしまわないよう、時を止めた。
 承太郎には「スタンド」と呼ばれる能力がある。超能力を具現化した物で、承太郎には人型のスタンド「スタープラチナ」が憑いている。圧倒的なパワーと超精密動作を併せ持つ。なおかつ、ほんの二秒ほどだが、時間を止める事も出来た。

「スタープラチナ」の視点で徐倫の痕跡を探す。娘を見失い、いつもの冷静な承太郎ではなくなっているはずなのに、本体の精神状態を色濃く反映させるはずの「スタープラチナ」は冷静に仕事をこなし、徐倫が残した足跡を見つける。いつかこういう事態が来ると想定していたように。
 承太郎は一昔前に、吸血鬼でありスタンド使いでもあり、高祖父の身体を乗っ取ってもいた、ディオ・ブランドーという男を殺した。彼は「弓と矢」という、スタンド使いを量産する事の出来る未知の道具を有していた。ディオ没後も、彼の残した負の遺産である、悪意のあるスタンド使いの残党や、「弓と矢」の調査を行っていた。本業である海洋研究の傍らではあるが、命の危機を感じた事も一度や二度ではない。承太郎だから乗り越えられたそれらの危機を、スタンド使いでもない一般人の妻子に立ち向かう事が出来るとは思えなかった。

 スタープラチナは徐倫の履くスニーカーの足跡を見つけた。
(これは、何か目的のある歩き方だ。誰かを追跡、と言ったところか)
 スタンドパワーも借りて物凄い速さで承太郎は徐倫を追う。意外とあっけなく彼女は見つかる。電柱の陰に隠れて、蒸し暑くなる季節に不似合いなニット帽を被った、猫背の若者を尾行している。デニムの尻ポケットには、折り畳み式のナイフらしき輪郭が浮き上がっている。

「私はあんたを呼んでない」承太郎に気付いた徐倫は、小声でそう呟いた。
「私一人でどうにか出来る」
 ニット帽の男は、黄色と黒の「立ち入り禁止」のテープが玄関の門に張られた一軒家の様子を伺っていた。
「あそこの家のおばあちゃんは猫が好きだったんだ」
 徐倫の声は今では承太郎の胸板で響いている。
「私も何度か遊びに行った。でもこの間、おばあちゃんは遠い所に行ってしまった」徐倫は空を指差した。
「もう四匹殺されてる。きっとあいつだ。公園の横をあいつが通りかかった時に、『これから殺される猫』のか細い声が、糸のように私の耳に届いたんだ」
 徐倫はまだスタンド能力に目覚めていない。だが後年、「矢の欠片」によって目覚める糸状のスタンド「ストーン・フリー」の萌芽がひょっとして既に現れていたのかもしれない。
 主のいない猫屋敷で飢えを待つか、猟奇的犯罪者によって命を絶たれるか。幼いながらも徐倫は全ての猫を引き受けるなんて事は出来ないと察していた。

「長い仕事の合間に帰ってきて父親面するあんたを認めてはいない。父親としては」
 だけど、と言って徐倫は承太郎の胸元から顔を上げて承太郎を見詰める。それは親に甘える顔ではない。泣き言を言う子供の顔ではない。探偵に仕事を依頼する、一クライアントの顔になっていた。
「よく分からないがすごい力を持っているあんたの能力は評価する。だから」
 本当ならば自分でやりたかったことなのに、という風に徐倫は唇を噛んだ。
「これから殺されるかもしれない猫の命を、助けて」
「承知した」
 承太郎は自分の名前に「承」が入っていたのはこの時の為だったのだな、と思う。
 時を止めるまでもない。承太郎は、ポケットからナイフを取り出しかかっていたニット帽の男の手足を「スタープラチナ」で押さえつける。それを見て興奮した猫達が騒ぎ出す。「こいつが仲間を殺したんだ!」と言うように喚いている。取り押さえた男に飛びかかろうとした一匹の猫の首筋を、承は素手で捕らえた。
「人を襲ってしまえば、保健所送りになるぞ」
 承太郎の言葉を理解したかのように、猫達は大人しくなった。

 警察に猫襲撃犯を引き渡し、承太郎の後援組織であるスピードワゴン財団には猫達の引取り手探しを依頼し、事件は終わった。
「ありがとう」徐倫はぶっきらぼうに言った。父は猫だけでなく、自分の命も救ってくれたのだという事に徐倫は気付いていた。我が家までの帰り道、徐倫は久しぶりに承太郎と手を繋いだ。身長195センチの承太郎は、随分と腰を落として歩かなければならなかった。
「徐倫。俺は父親としては失格かもしれない。これからも君を悲しませてしまうかもしれない。だから一つ約束する。今後君に命の危機が訪れたとしたら、何に代えても君を守る。たとえ君を守る事によって世界が滅ぶとしても。俺は君を救う為に世界を犠牲にするだろう」
 と、承太郎は口には出さない。その時が来たら実行するまでだ、と思う。

 家に着く直前に、徐倫は承太郎に今日の出来事の口止めを約束させた。
「ママは私が危ない事すると、泣き出してしまうから」
 泣かせるような事をするな、と承太郎は思う。だが人の事を言える立場でもなかった。
「承知した……やれやれだぜ」
 

(了)

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