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 沖に〝鯨〟が消え、眼球も鹿もいなくなり、波の音が返ってきた砂浜で、鱗道は合わせていた手をゆっくりと離した。街を覆うほどの巨大な蛇神の姿は砂山が風に流されるように崩れていく。砂にまみれた全身も、合わせた手の平も汗でびっしょりと濡れていた。
『――あれは、何だったのですか?』
 クロの硬質で涼やかな声が、鱗道に呼吸を思い出させたらしい。息を吸おうとして、同時に吐こうとして、両方など出来るはずもなく鱗道は目眩に揺らいだ。尻の下敷きにあったシロが、
『いたい!』
 キャン! と憐れな悲鳴を上げる。が、それに鱗道は謝罪も言えない。シロがうねうねと動いて鱗道を体から降ろし、心配そうに顔を寄せてきたが構ってもやれなかった。手が震えている。体が震えている。呼吸をなんとか整えようと、激しく脈打つ胸を押さえて必死であった。
 三十年程前は離れた山から見た〝鯨〟を目の前にしたのだ。しばらく眠れず、魘され、体調も変調を来したあの〝鯨〟を。遠目に見た、蛇神と同じ白色の体と見たこともなかった黒色の異形。ブツブツと湧く目。蠢く腕がまた、別の腕による異様な連なりであったことは今日、初めて知ったことだ。当時、気が付かなくて良かった。鬱々とした期間がもっと長引いていたことだろう。夢か幻か見間違いかと思っていた姿の実態は、もっと悲惨なものであったわけだ。
『現在、わたくしが治めているよりも更に北方、雪降らぬ時こそ稀な地を治めていた一柱です。わたくしや我が友を始め、古くより領地を据えるもので彼の者を知らぬ者はおりますまい。尊敬と羨望を集めに集めて、北方の顔とまでなった彼の者はついには冬そのものと称され――玄冬、と呼ばれておりました』
 クロの疑問に答えたのはこごめであった。空木の縄を噛み切って、丁寧に纏めながらに語る柔らかな声に花の香りはない。
『昔――わたくしも我が友もまだ領地を持つより以前に、北方にて大きな異変がありました。穢れが溢れ、淀み、雪は黒く赤く染まり、力無き者は近付くことも出来ません。わたくしや我が友も当時は力及ばず。玄冬は自らの領地を、さらにはそこより南の全てを守るべく、溢れた穢れを巨体に任せて食い尽くしました。北方の異変は収まりましたが、大量の穢れを一度に食らったとなれば強大な一柱であろうとただでは済みません。そうして、玄冬は我が身を海へと流しました』
 鱗道も初めて聞く内容の話である。こごめは長い体に突き刺さっている抜けない棘を抱くように小さな手を自身の胸に添えた。柔らかくも沈痛な声が語り終えて、しばらくしてから――
『その玄冬と呼ばれた神の姿が――あの、〝鯨〟なのですか』
 クロの硬質な声が普段よりも柔らかい響きを纏おうとしているのは、クロもまたこごめの抱える痛みに気が付いているからだろう。
『わたくしも……玄冬が海に流れてからを見たのは正確に思い出すも叶わぬ程以前ですが――面影は殆どありません。かつての玄冬の姿は――それはもう、雄大なものでしたよ。叶うなれば、そちらの姿を見て頂きたかった』
 こごめはクロの気遣いに気が付いているのだろう。小さな金色の目を細めて、クロに微笑みを返す。鱗道はようやく息が整い始めた頃で、
「……クロには、どこまで見えたんだ?」
 と、問う。クロはまず短い返事を寄越し、
『私が見たのは、それこそクジラを縦半分に割ったかのような黒い異形のみです。街にもなんら異変は見られませんでした。時に何も見えないところから異常な砂紋が生じるのは見ましたし、聞いたことのない二つの声は聞こえておりましたが、私には何が起こっているのかほぼ不明な状況でした。見えていた〝鯨〟の姿が……目やら手やらもグロテスクではありましたが、まず、半身はどうなっているのかと不可解ばかり』
 と、言う。硬質な声には口惜しさと落ち着きの無さが滲んでいた。状況を見られなかった惜しさか、把握も出来ない惜しさか。声は聞こえていたというから、中途半端な状況把握が不安や焦燥となって落ち着きの無さとして思い起こされているのだろう。三十年程前、鱗道も山中にて会話内容は聞き取れなかったが〝鯨〟の足下から揺さぶられるような轟く声は聞いている。ただ、クロのように状況把握出来なかった惜しさなどは感じなかった。
『一柱ともなれば、己の姿を晒す相手は選ぶもの。故に、我が友が街に降りても、〝わたくし達〟ともなれば別でしょうが、我が友の許諾を得た者以外には見えません。玄冬もまた然り。我が友の代理である鱗道殿は特別でしょうが、クロ殿に玄冬の半身が見えなかったのはそれ故でしょう』
 こごめとクロの対極の声で交わされる静かな会話を聞きながら、鱗道はシロを見た。鱗道の下敷きとなって悲鳴を上げて以来静かであるがゆっくりと呼吸をしているようで、シロの鼻先だけ砂の盆地が出来ている。時折、ちらりと瞼を上げるがすぐに重たげに閉ざされるあたり、半ば眠っているのかもしれない。触れてみた体は僅かな温さが残っているものの、おおよそ普段通りの冷たさであった。
『一つ、不思議なことは玄冬という名前をこごめ様はご存じであるのに〝鯨〟としか呼び掛けられなかったことです。何故に、玄冬の名で呼び掛けなかったのでしょう』
 クロの疑問に、こごめが困ったように頬に小さな手を当てて首を傾いでいる。これは、こごめがクロの疑問を深く受け止めすぎているからだ、と鱗道は気が付いた。心情や過去を根掘り葉掘り洗い出そうというのでも、きっちりと整えられた明確な理由を求めているわけでもない。なんなら、返答を求めた質問ではなく、本当に単純な疑問を口に出しただけである。
 クロはかつて名前がなく、分類らしいもので呼ばれていたことがあり、それを辛いものだと受け取った経験がある。だからこそ名前があるにも関わらず――しかも、親しげな間柄であったことが垣間見えているのに――名前で呼び掛けなかったことが単純に不思議なのだ。鱗道がクロの疑問の程度に気が付けるのは、クロの過去を知っているからである。こごめは当然クロの過去など知らずに、聡明な鴉として会話を重ねてきた。クロの疑問を質問だと思い、何かしら答えを返してやらねばと深く考え込むのは当然である。鱗道が間に入ろうと口を開く前に、
『細かいことを気にする鴉だこと――いや、カラスかどうかは分かりやしないが、見てくれがそうであるからね。鴉と呼ばせて貰おうか』
 頭に届いたのは、砂時計をひっくり返したときのような乾いた微かな声である。反応したのは鱗道だけではなく、クロもシロもそれぞれ顔を上げたり目を開けたりとしたが、声の主は見付けられていない。真っ先に声の主に辿り着いたのは、一跳ねして鱗道が脱ぎ捨てた手袋に辿り着いたこごめであった。小さな手が手袋を持ち上げると、
『おや、我が友。そんな所に』
 酷く小さな一匹の蛇が砂の上を滑り始めた。先の大蛇とは大きさは比較しようもない、蜷局を巻けば片手に収まってしまうほどの長さしかない蛇である。しかし、その小さな体の白い鱗は月明かりを受けて絹のように煌めき、時に青、所により緑を含んで額の一ヶ所だけが赤い。そして小さいながらも金色の目は、漆黒の瞳孔をきゅうと弓形に細めて笑うのである。
『やぁ、こごめ。この度は世話になったね。直接に礼が言えて良かったよ。これも末代が依り代を、あの坊やに目にもの見せてやるためだけに大盤振る舞いしてくれたからというもの。末代、お前にも礼を言わねばならないね』
 蛇神は静かに砂の上を滑るように進み、鱗道達を見るのに適度な距離でこごめと並び蜷局を巻いた。この小さな小さな蛇神が出て来たのは、鱗道が脱ぎ捨てた手袋の下である。その手袋は蛇神の力が移った五枚分の依り代が擦り込み揉み込まれ、鱗道が叩き付けたことで鹿の頭を割り、角を折ったものだ。手袋に残っている依り代を使うことで、砂に蛇神が這った痕跡が残っていることから、蛇神は小さくも顕現せしめたというわけらしい。赤い舌をちらちらと揺らして語る蛇神に、鱗道はしかめ面を向けて、
「抜け殻は、クロに集めて貰えばあっという間に集まるから構わんだろ……それに、好きにしていいと言ったのはアンタじゃないか」
 皮肉を言われる筋合いはない、と言い返す。しかし、蛇神は当然分かっていたかのように、
『そうだとも。お前の好きにさせた。いや、まさか自ら殴りにいくとは思っていなかったがね。実に痛快であったよ。満足しているとも。だが、全て使い切るとはね……数年は箱を開けられもせんよ』
 機嫌はすこぶる良好である。ただ、それとは別件、あくまで刺さねばならない釘は刺す、ということらしい。咎める意思はさほど強くない語調で、鱗道をからかうように舌を揺らす。気にしたのは鱗道ではなく、
『鱗道殿。気にならさぬことです。数年など、一夜の夢ほどの時ですとも』
 心からの励ましを告げるこごめである。が、数年を一夜の夢と言えるのは、こごめが一柱と呼ばれるような強力な〝彼方の世界〟の存在であるからだ。蛇神は分かっているがあえて指摘せず、鱗道も曖昧に言葉を濁した。なにせ――荒神の頭を砕くほどの力は、小さかろうと蛇神が砂に痕跡を残すほどの顕現をさせている。それが時間としてどれ程保つか分からないが、この機を逃しては勿体ない相手が一人いる。
 一応は、その視線を確認した。赤い鉱石の目は、こごめの横一点を見つめて動いていない。今回は見えている、のだろう。
「……クロは、初対面だな。これが俺が代理を務めてる蛇神……の、分身、でいいんだよな?」
『ああ、構うまいよ。この細かい事を気にする鴉が気にしないのであればね』
 蛇神はクロに小さな頭部を向けると、赤い舌をちろりと揺らして見せた。じぃっとその姿を見ていたクロは、
『――初めまして、蛇神様。お目にかかれて光栄です』
 一瞬の間を持って、右の翼を大きく広げた後に胸の前で畳んでみせる、大袈裟な一礼を蛇神に向けた。クロの仕草に蛇神は顎を開いて、牙を引いたまま舌を出して機嫌が良いと伝えるようにゆっくりと鎌首を振った。
『あまり畏まってくれるな。此度は非常に貢献してくれた鴉の前に晒すには、力の残骸を搾り取った貧弱な姿だからね。それに、わたしはお前になかなか構えやしない存在だ。これきりの邂逅になるかもしれぬし、次の邂逅が互いに穏やかとは限らぬよ』
 クロは謙遜の仕草として頭を振った。ただ、非常に興味深いのだろう。旺盛な好奇心を一切隠さず、赤い目は蛇神を見つめ続けていた。蛇神はクロの性質を理解しているのか、単に大らかなのか、クロの興味本位の視線を黙認している。
『あの、ええっと、あの』
 次いでシロが小さく口を開いた。疲労なのか眠気なのか、不明瞭ではあるが、
『お久しぶりです。蛇神サマ』
 シロが紡いだ挨拶に、蛇神は愉快そうに体をくねらせた。
『犬っころも大分礼儀を学んだようだね。良きことさ。お前も頑張ってくれたじゃないか。穢れはいまだに苛むかえ? 今なら、口から入って直接食らってやってもいいよ』
 蛇神の冗談――恐らく、冗談を真に受けて、シロの耳がぴったりと顔に張り付く。ぎゅっと口を強く閉じて目も閉じて、雪玉のようになったシロを蛇神は面白がるように笑った。
『〝鯨〟はね――奴は、もう一柱たる存在ではないからさ』
 砂時計がひっくり返されるように、改めて乾いた声が上がる。蛇神の声は、クロとは全く違う無感情さに占められていた。クロの声は多少の抑揚を付けても硬質であるが故に、抱えている感情が表現されにくいのだが、蛇神の声は――
『自ら食った穢れによって腐るにも時間がかかり、すんなりと腐ってやるにはかつて一柱であった力が強すぎて、ああして半端な姿で幾星霜と漂っているのが奴だ。かつてを懐かしんで潮目の度にここに寄ってはわたしでは消化不良な厄介ごとやら億劫な穢れを食らってくれるのは有り難い反面、半分とは言え立派な穢れを抱えた荒神よ。混濁した意思も醜悪な異形も、お前達が目の当たりにした通り』
 抑揚は充分にあり、乾いているが流動的な声である。だが、それらは長く人間に代理を担わせ円滑に事を進めるために用いている技術に過ぎない。蛇神の感情は本来の巨大な体躯の奥底にあり、それも――
『名とは重いもの。末代に言って聞かせているとおり、名を知ることで支配する――相手によっては、そんなこともあるものぞ。時には全てを決定づける。全てをだ。〝わたし達〟の世では、特に力が強大であればある程、名前が持つ力も強くなると言うもの』
 鱗道やクロと、そしてシロとも共感、共有しがたいものであることは、蛇神自身が理解している。〝彼方の世界〟と〝此方の世界〟に大きな隔たりがあることを最も理解しているのは長く生きているだけでなく、長く〝此方の世界〟と関わり続けてきた蛇神自身であるだろう。
『醜悪極めた姿となった己が身を、一柱であった時の名で呼ばれたい者がいようかね』
 ――わたしなら御免だ、と蛇神は言っている。そして、それはこごめも同じなのだろう。こごめは小さな蛇神の横に座り、寄り添っている。
 一柱と呼ばれる神に近い存在にも名前があることを鱗道が知ったのは、十年以上前――シロの一件でこごめと関わってからだ。その時に蛇神にも名前があるのかと問うたが、分かったのは名前があると言うことだけである。鱗道の死に際に問い忘れなければ教えてやる、かもしれないという含みを持った言葉を頂戴したがそれだけだ。
 こごめを名で呼んだ〝鯨〟だが、蛇神を名で呼ぶことはしなかった。また、蛇神はこごめにも――これは、鱗道に知られないように、というだけであるかもしれないが――名で呼ばないように頼んでいるようだ。人間の、鱗道の祖先の裏切りにあって蛇神は傷を負って己の領地を追われた。こごめに傷を癒やして貰い、鱗道家の者に償いを要求し、蛇神自身は己の代理を務める者に巣穴を作って領地のどこかにある巣に引き籠もっている。〝鯨〟程の大きな変貌でなくとも――それが、蛇神が名前を呼ばれるべきではないと考える理由になっているとしたら。それを、〝鯨〟も察して名前を呼ばないのだとしたら。
 考えすぎだろうか、と鱗道は目を瞑った。聞くにしろ、今ではないということだけははっきりしている。その内、夢の中で蛇神と語らう日は来よう。その時に尋ねれば良いし、答えられねばそれでいい。シロやクロ、そしてこごめの前で詳らかにすることではない。
 閉じた目を開いた先で、クロが珍しく落ち着かないように体を揺らしていた。己の些細な疑問を発端に、空気が淀んでしまったことにクロは気が付いているようだ。とは言え、何を言えばいいかもどうすればいいかも分からない、といった状況だろうか。鱗道はふっと顔を上げて蛇神を見ると、
「……アンタの昔話は面白そうだな。こごめなんか、鯨飲なんて呼ばれてたぞ」
『ああ、あれかい? こごめは昔は気が強くてね、〝鯨〟をまさか――』
『お止めください、我が友! ……若気の至りです、お恥ずかしい』
 話の道筋を変えることは上手くいったらしい。蛇神の声は人間を真似たふざけた抑揚をしており、慌てふためいたこごめは蛇神の頭を抱え込んだ。あまりの勢いと素早さに、クロが小さく声を漏らすほどである。だが、こごめの腕から蛇神は容易くするりと抜け出ると、長くしなやかな体にするりと巻き付きながら、
『奴が歩むと雪が降る、等と言ってね。近寄られたらたまったもんじゃない。わたしなんぞは耐えがたかった。よくこうしてこごめに巻き付いて暖を取ったものだよ。そして』
 砂時計が三度目の時を刻む。さらりと落ち始めた砂の音は、
『奴の毛皮は、こごめに劣るが温かったものさ』
 やはり酷く乾いていた。小さな小さな砂粒が擦れ、高く軽く乾いた音を立てている。この砂がどこから始まったのか――岩から始まったか、山から始まったか、もっと大きな所から始まったかは分からない。だが、きっと蛇神の声を成す砂は、豊かな山か豊かな海から来たのだろう。それは間違いないだろうと、鱗道は思うことにした。
「……いつか、あの〝鯨〟を食うのか」
 蛇神と〝鯨〟の間で、そんな話が出ていたことを思い出す。蛇神は金色の目を鱗道に向け、その瞳孔を糸のように細めた。
『ああ。奴とはそういう約束をしている。奴が穢れに染まりきったその時は、わたしが丸呑みにしてやるとね。もっとも、あの分では当分先であろうが』
「俺は……運が良かったな。あの大きさが食えるアンタを降ろすには、どうしたらいいか想像もつかん」
 右手で首裏を掻く鱗道の言葉に、蛇神は口を開けて笑うかのような表情をして見せた。先程から、月のような金色の目は海を見返すことを一度もしていない。
『そうだね。奴を食うときは、わたしは〝わたし〟自身でこの地を治めているだろうさ。お前に迷惑はかけまいよ、末代』
 蛇神の目は、〝鯨〟がいない海を、たった一度として見ることがなかった。
『我が友は、それはそれで寂しく思うのでしょうね』
 潮のにおいを払うかのように、花の香りが小さく咲いた。蛇神の小さな体に擦り寄りながらこごめが語ったのだ。小さな目は微笑ましげに細められている。蛇神はしばらく黙った後、その頬を二股の舌で舐め上げて、
『さて、我が友、鯨飲や。此度は誠に助かった。お前と末代の恩のやり取りはこれで終いとするらしいが、わたしとはまだ続けようじゃないか。恩を返し返されまた返し、機織りのように末永く紡ぎ行こうぞ、鯨飲よ』
『後生ですから、そう呼ばないでくださいまし……』
 こごめの頬が赤くなり、蛇神を巻き付けたまま大きく跳ねた。するりと蛇神はあっさりこごめから離れ、砂地に雑な蜷局を巻く。こごめは小さな手で顔を隠したまま、砂に足を着けずに数度跳ねて、
『それでは皆様、またお目にかかれましたら、次はゆるりと』
 結局そのまま、大きく高く跳ね上がった。視線で追えば月にかかろう高さまで届くが、こごめの白い影はひゅるりと僅かな渦を描いて落ちてくることなく、花の香りを僅かに残して消えてしまった。
「あそこまで気にしてると……凄く気になるな」
『残念だが、恩人に後生と言われては話せないね』
 蛇神はこごめの軌跡を視線で追うこともしないし、見送りらしい言葉もなかった。こごめはクロの事も今回の件も蛇神から直接聞いていたようだし、一柱同士となれば人間にとって遠距離だろうと話す手段も機会も簡単に設けられるのだろう。
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