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見つからない、離れない 13

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「・・・それは、302号室に住んでいた相生聡子さんだと言った筈です」
「そうですか・・・」
息を呑むほど恐ろしい目で、相馬は睨みつけられる。

「実は、302号室のあの状況がどのようにして作られたか、物理的には大体分かっております」
「・・・」
「気付いてみれば、何でもない単純な話です。
 まず腐りかけの死体と、あらかじめ手首を切断しておいた死体を302号室に運ぶ。
 そして、他の人間から切り取ったと考えられる手を、その死体の手首切断面の近くに置く。
 内側から鍵をかける。テープで目張りをする。
 窓を開けて、ベランダから下の202号室のベランダに移る。そしてベランダから窓を開け、中に入る。
 あ、当然、202号室の窓の鍵はあらかじめ開けておきます。
 部屋の鍵を自由に使える人にとっては簡単な事でございます。
 202号室の住人が、夜は仕事でいなくなるということも、その人にとっては当然分かっている事です。
 そして、202号室の窓の鍵を閉める。部屋の鍵も、当然閉める。鍵を自由に使えるんですからね。
 しかしこれでは、死体のある302号室の窓の鍵を閉める事が出来ません。
 ですが、死体を発見して警察に通報した人間なら、通報してから警察が来るまでの間、窓の鍵を閉めにいく時間がございますね」

 一気にそこまで喋る。
喋っている間、呼吸すらしていないのではないか、と相馬には思えた。

「そんな事が出来る人物に、心当たりはございませんか?」

相馬は、ふ、と息を漏らす。
「ええ、心当たりがあります」
自然と微笑む事が出来た。

「私以外に、考えられません」

 相馬は、自分がした事を少しの狂いもなく言い当てられて、完全に諦める事が出来た。
302号室のあの状況を作り出すのが一番容易なのは、管理人の自分以外に存在し得ない。
そんなことは、ある程度脳の発達した動物なら、すぐにたどり着く結論だ。

「解せないのは、何故こんな事をなさったのか、ということです」
それはそうだ。
あの状況が生まれた理由、それは恐らく、この世では自分以外に誰も知らない。

「お話しましょうか?」

相馬は今、何故かとても清清しい気持ちになっていた。
そんな清清しい気持ちをくれた、この人物になら、全てを話してもいいのではないか、と相馬は思う。

「是非、お願い致します」

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