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見つからない、離れない 14

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「それでは、お話いたします」
相馬は、コホン、と気取った咳払いをする。
何だかとても愉快な気持ちだ。
誰も知らない、秘密の物語を、今から自分は一人の人物に話して聞かせる。

「あるところに、恋する乙女が狭いアパートで母親と暮していました。冗談ではありませんよ?怒らずに聞いてくださいね」
再び相馬は、小さく咳払いをした。
「しかし、その乙女が恋をしている男性には、すでに恋人が居たのです。
 乙女は何度も、男性に愛の告白をしました。
 しかし、一向に男性は乙女に微笑んではくれませんでした。
 男性とその恋人は、本当に愛し合っていたのです。
 乙女は悲しくなって、毎晩毎晩泣きました。
 何故、振り向いてはくれないの、私こそ本当に男性を愛しているのに、と。」

 相馬は一度コーヒーを飲む。
朗読家になった気持ちだ。

「やがて乙女の中で、男性への愛は憎しみへ、その恋人への羨望は嫉妬へと変わりました。
 どうしても、男性を自分のものにしたい。
 どうしても、男性の恋人に取って代わりたい。
 どちらも叶わぬ願いでした。
 乙女は、恋を実らせるために、ひとつの決断をします」

 
「男性もその恋人も、殺す事にしたのです」

 
「乙女は、決断した次の日には、それを実行しました。
 男性のことは、なるべく生前の姿のまま死んで欲しかったので、首をロープで絞めました。
 男性の恋人のことは、なるべく苦しめたかったので、ナイフで何度も刺しました。
 乙女の母親は、大変に驚きました。
 それもそのはずです、ある日部屋に帰ると、死体が二つも置いてあるのですから。
 よくもまぁ、死体を部屋に運び出す際に通報されなかったものです。
 きっと、周りが暗かったので、乙女が運んでいるのが死体だということに誰も気付かなかったのでしょう。
 乙女の母親は、大変に悩みました。
 乙女が警察に捕まらなくて済む方法を、何とか考え出そうとしました。
 乙女は母親に言いました。
 わたし、ちょっとでいいから男性の恋人として生きてみたい。
 乙女が言うには、男性の恋人は、他のアパートで一人暮らしをしているとのことです。
 そのアパートに、ちょっとした置手紙と、家賃としての多めのお金を置いておけば、管理人だってわざわざ男性の恋人の身元を捜したりしないでしょう。
 そして、乙女と母親が今まで住んでいたアパートに、男性の恋人として、改めて一人暮らしを始めるのです。
 本来ならそんなことは出来るはずもありませんが、乙女の母親はアパートの管理人です。
 正規の手続きを踏んだように見せかけて、乙女を部屋に住まわせる事にしました。
 乙女は、男性の恋人がまだ生きているかのように見せかけるために、色々な事をしました」

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