佐藤君との初デートは、結局佐藤君の仕事がたくさんはいってしまい、4月30日の日曜日しか空いてなくて自動的にその日となった。
しおりちゃんは妙に鼻が利く。と、あたしは思うんだ。
「かーれーんちゃーん」
リビングのソファに座り携帯電話相手ににやにやしてたら、しおりちゃんがしなだれかかってきた。液晶画面を覗き込もうとする。うぎゃぎゃ。咄嗟に手を高く上げ、ぱちんとそれを閉じた。
「な、なに? しおりちゃん…」
気持ち悪いよ?
「気持ち悪いってね。かれん」
しおりちゃんは居住まいを正すと、「あんた、最近ちょっと変」
真面目な顔でそう言われた。
「え」
どきっとする。しおりちゃんの目が再び三日月形になった。ほんっと、気持ち悪いってば。
「ケータイ買ったかと思ったらにやにやしながらいっつもそれ、手にしてるし。足元ふわふわして心ここにあらずだし。─── ねえ、まさかとは思うけど、ひょっとしてカレシでもできた?」
「……」
ん?
今、なんていうか、ビミョウに失礼なことを言われたような…。
考えながらも自然顔が赤くなっていた。
「ど、ど、どうして?」
「どうしてって。え? まじで?」
しおりちゃんの目が大きく見開かれた。「ほんとに? ほんとに、かれん、カレシができたの?」
あたしは顔をさらに赤くすると、唇は閉じたままでぶんぶんと右手を顔の前で振った。唇を開くことなんかできなかった。開けば尻尾を掴まれてしまいそうだから。しおりちゃんはそういうひとなのだ。抜け目無い。
「うっそ…」
しおりちゃんは呟くみたいに言う。すんごく衝撃を受けてる顔に見える。
─── なんでだ?
「ち、ちがうって、ちがうって言ってるじゃん」
あたしは、キッチンのほうを窺いながら強く否定した。今までになく混乱していた。キッチンには母がいる。換気扇の音に掻き消されて、多分こちらの声は聞こえていないだろうとは思うけど。
まだ佐藤君とのことは家族の誰にも知られたくなかった。
「へえ…。かれんにカレシがねえ。へえー」