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No.33/純朴亭主と嘘吐き女房/fu

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純朴亭主と嘘吐き女房


 そう遠くない昔、ある町に小さな一軒家があり、そこで純朴亭主と嘘吐き女房の夫婦が暮ら
していました。

 純朴亭主は、それこそ幼児のような一途さで嘘吐き女房を愛しました。嘘吐き女房が自分の
近くで息をしていて、話してくれて、何かをしてくれて――嘘吐き女房と一緒に居ると、それ
だけで彼の心にはお囃子が鳴ります。常に祭りの中心にいるような高揚感を感じているのです。

 嘘吐き女房は嘘吐きなので、純朴亭主にたくさんの嘘を吐きました。
「ひ弱なあなたの体が心配。精のつく犬料理を作りたいのだけど――」
 純朴亭主の辞書に"疑う"という言葉は載っていません。ましてやそれが愛する嘘吐き女房の
言葉とあっては尚更です。純朴亭主は、近所の野良犬を一匹絞めてきてしまいました。
「野良犬を殺す元気があるのなら大丈夫ね」
 嘘吐き女房は、そう言って野良犬の死体を裏庭に埋めてしまいました。

 純朴亭主は、本当に嘘吐き女房を愛しています。もちろん純朴亭主も大人ですので、夜とも
なれば嘘吐き女房と同衾したいと思います。純朴亭主から迸る欲求を感じ取ると、
「実家に電話をしてこなくちゃ。お母様が腰を悪くしてしまって、心配なの」
 本当は一緒に寝たくて仕方がないのですが、純朴亭主は表面上笑顔で取り繕って、優しく嘘
吐き女房に手を振って送り出しました。彼は嘘吐き女房の両親に会ったことはありません。


 ある日、ちゃぶ台に置き手紙がしてありました。嘘吐き女房の姿はありませんでした。
 文面を見た瞬間、純朴亭主の辞書に"疑う"という言葉が記載されました。それからは、疑い
続けて、疑い続けて……嘘吐き女房は、手紙に唯一つの真実を残していったのです。なのに純
朴亭主は、それだけは信じられずに、そのまま独りきりで一生を終えました。
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