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ライトノベル新人賞についての考察

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 『ライトノベル新人賞』に求められる作品というものと、それ以外のライトノベルでは、実は全く……とは言わないが、かなり別のものなのではないかと筆者は考えている。コンセプトが違うとでもいうのだろうか。
 この項では、ライトノベル新人賞って何よ? という題について自論を述べさせて戴きたいと思う。

 1.新人賞で大切なのは『世界観』
 2.オリジナリティとは何か
 3.受賞作でしょ? つまんないんだけど?



 1.新人賞で大切なのは『世界観』

 一般的にはライトノベルというものはキャラ小説などと言われている。
 なるほど。確かに有名なライトノベルというものは、ストーリーや設定などよりもキャラクターのことを思い浮かべると思う。
 涼宮ハルヒの憂鬱であれば、その作品のストーリーよりも『ハルヒ』や『キョン』といったキャラクターを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。
 フルメタルパニックであれば『宗介』や『かなめ』のキャラをストーリーよりも先に思いつくのでは。

 確かにライトノベルにおいてキャラクターは非常に重要らしい。
 しかし結論から言うと、ライトノベル新人賞において最も重要なのは『世界観』であると筆者は考えている(でも涼宮ハルヒの憂鬱って新人賞受賞作品だけどキャラ良いじゃん、という意見には目を瞑ってもらいたい。申し訳ない)。
 また、今は世界観と表現しているが、この『世界観』という単語は『オリジナリティ』だとか『設定』だとか『アイディア』といったものと類似していると今回は捉えてもらいたい。

 オリジナリティ≒設定≒アイディア≒世界観

 では何故世界観が最も重要かと考えると、ぶっちゃければそれが一番他作品との差別化がしやすいからである。
 ライトノベル新人賞では様々なものにオリジナリティが求められている。
 そのオリジナリティの出しやすさの序列を考えると、
 世界観>キャラクター>ストーリー
 だと筆者は考えている。

 何故このような順番なのか。
 まずストーリーに完全なオリジナリティを求めることは、不可能であると筆者は考える。
 いや、勿論オリジナリティのあるストーリーを考えつくことはできる――が、それが読者にとって本当に面白いものになるかは極めて難しい。

 例えば主人公が棺桶に片足を突っ込んだホームレスで、泥を啜り木の根を食んで生きていくも結局心なき人間に嬲られて殺された、というストーリーはオリジナリティ――斬新ではあるだろうが、誰得? と言われても仕方ない。

 ホームレスの嘆きを訴えたかったんだ! と作者が叫んでも、多分見向きする人は少ないだろう。しかもそれはライトノベルの求める十代の若い読者であればなおさらだ。
 よってライトノベルのストーリーというものは、大体が決まっている。

 主人公がヒロインと出会う→仲良くなる→事件が起こる→解決する

 これが全てとは言わないが、大体のライトノベルは(起承転結の4つのエピソードで捉えると)こんな感じだと思われる。
 下手をすればありきたりと言われるこのストーリーから、逃れることは出来ないと考えている。特に十代の若者に焦点を当てたライトノベルというジャンルにおいては。

 という観点からして、ストーリーに真の意味でのオリジナリティを求めることは極めて難しいと考えられる。

 次にキャラクター。
 ストーリーに比べればオリジナリティが活きやすいと思われるが、これも意外と難しい。
 ここでもライトノベルというジャンルの枠が枷になりがちで、主人公は十代の少年に大体限られてくる。
 理由は、それが最も十代の若者に受け入れやすいから。
 が、十代の若者を主人公にしたところで、一体そいつに何ができるのか。
 学校に行って勉強して部活して、あとはせいぜいアルバイトに精を出すくらいだ。
 そんな人生の浅い奴を主人公にしてオリジナリティを出せというのも酷な話だと思う。
 頑張ってオリジナリティを出してもただの奇人変人になりやすく、読者の共感を得るのは難しいと思われる。

 その点、世界観というのはかなり自由が利く。
 魔法が使えようが、重力がない世界だろうが、水の中でも呼吸ができる世界だろうが「そういう世界観だから」の一点張りが可能なのだ。
 よって余程の天才でない限りは『世界観』にオリジナリティを出すのが賢明といえる。



 2.オリジナリティとは何か

 オリジナリティは、難しい。
 新しい物でありつつ、誰得になってはいけないのだ。
 ゴキブリがヒロインです、と言われても、オリジナリティはあるかもしれんが誰得だろう。擬人化すればまた話は変わると思うが。

 新人賞での審査員からのコメントのようなものを見ていると、やはり『オリジナリティ』を強調するような文面が見受けられる。既存の作品とは違うものを求められる。乱暴な言い方をすれば、面白さよりもオリジナリティの方が比重が大きいように感じられるくらいだ。
 受賞作を眺めていても、世界観にオリジナリティが見られるものが多い。

 確かにライトノベルはキャラクター小説かもしれない。けれど、ライトノベル新人賞においては『世界観』が半分以上の重要性を握っていると筆者は思うのだ。
 ちなみに受賞作でラブコメが意外と少ないのは、オリジナリティのある設定を入れにくいからだと考えている(その点、変態王子と笑わない猫はラブコメにオリジナリティのある設定を上手く落とし込んだ作品である。ストーリーがまさかの超展開というかご都合だったので、個人的には好きではないが)。

 ではどうやって新人賞用の作品を書けばいいのか?

 物語というのものは、
 世界観+キャラクター+ストーリー(+構成)で出来ている。

 まずオリジナリティのある世界観を考える。
 そうすれば、その世界観で生きるキャラクターが生まれてくる。
 オリジナリティのある世界観であれば我々の生活とは違っているだろうから、価値観や生活様式などが違うはずだ。
 その上でストーリーを考えれば、とりあえず物語は作れる。

 とまぁ世界観の重要さを述べさせて戴いたが、キャラやストーリーでもオリジナリティが出せないことは無い。

 オリジナリティとは、言い方を変えれば普通とは違うということだ(普通の定義は時代によって移り変わるが、面倒なので個人の感覚の普通に任せたい)。

 例えば、勇者と魔王という題材であれば、普通は両者が戦い、激闘の果てに勇者が勝つのが普通であろう。
 このストーリーにオリジナリティを持たせた(だろうと考えられる)のがデート・アライブだ。
 普通であれば魔王に該当する精霊を倒す訳だが、その精霊を倒すのではなくデートすることで平和的な解決に導く、というもの。この作品が面白いかどうかは置いておいて、とりあえずストーリーは斬新と言えるかもしれない(今でも斬新かは知らない)。

 だがこの斬新さというのも時代が進むごとに難しくなる。
 戦国時代の武将が女性化するなら、元が人間なのでまだ理解できなくもない。しかし今は無機物である戦艦(最近では城)までもが女性化する時代なのだ。
 昔なら『女性化する』というのは斬新であったかもしれないが、正直今の時代ではもう何が女性化したって斬新とは言えないだろう。

 ちょっと脱線したが、まぁこのように既存のストーリーを別のもの、方法に置き換えることで斬新なストーリーというものは生み出せる。
 学校で授業するという何の変哲もないものでも、生徒が悪魔であり、人間と共存することになった悪魔たちに人間の世界の出来事をレクチャーしていくことになったらどうか。人間と悪魔の世界の常識にはあまりに大きな隔たりがあり、問題が起きつつも学級委員長である主人公が悪戦苦闘しながら解決する……となったら、まぁ普通に人間の生徒たちが普通の授業をするよりはなんぼか面白いのではないだろうか。その中で主人公と悪魔の少女のちょっと運命的なボーイミーツガールがあったり。

 まぁそれだけでは単調な物語になってしまうので、あとはそこらへんに転がっている創作支援サイトでも各自覗いて、物語の作り方を学べば良いだろう。
 キャラクターの葛藤とか障害とか縦と横の線とかどんでん返しとか伏線とかそこらへん。

 次にキャラクターだが、意外とこれが難しい。
 筆者としても答えは出ていないのだが、とりあえず『変態』がキーワードではないかと思う。
 とらドラという作品に『竜児』という主人公がいるが、お掃除大好きカビを見ると嬉々として掃除をするようなキャラなのだ。一般的な男子高校生では無い、普通ではないだろう。つまり変態であるといえる。
 変態にも良い変態と悪い変態がいて、そして変態は大体面白い。
 俺、ツインテールになりますという作品の主人公は、ツインテールが好きなあまり幼女化しつつツインテールの戦士になる。ツインテールが好きという主人公もなかなかいないのではないかと思われる。立派なオリジナリティだ。

 個人的な解釈なのだが、良い変態と悪い変態を区別するのに必要なことは、ずばり『他人に迷惑をかけるかどうか』ということだと考えている。
 掃除好きだろうが、他人には迷惑はかけない。
 ツインテールが好きだろうが、好きなだけでは迷惑はかけない。
 変態というとマイナスのイメージがあるかもしれないが、周囲に迷惑を掛けなかったら変態上等。ちょっと気持ち悪いかもしれないが、むしろお友達になりたい。そんなキャラクターを作り出せれば、もう勝ったも同然である。

 悪い変態は周囲に迷惑をかける。
 猥褻物を陳列したり、ストーキングをしたり。
 しかし良い変態は、そんなことはしない。ただ己が変態なだけである。
 ノータッチ・イエスロリコンに似たところがある気がする。
 それを徹底できるものは変態という名の紳士の称号を得ることが出来るが、出来なければただの変質者もしくは犯罪者だ。
 そんな紙一重の変態性こそが、キャラクターをより魅力にするのではないかと筆者は考える。

 まぁ変態性以外にも、キャラの魅力というものはあるだろう。
 こいつだけにしかできない特技というのも、魅力の一つだ。
 とある魔術の禁書目録の主人公である『上条当麻』は能力を打ち消す右手を持っている。そのオリジナル性を活かして彼は悪人相手にSEKKYOUをぶちかます。それが彼の魅力といえる。そういう主人公はあまりいないのではないかだろうか。

 まぁここら辺は創作支援サイトとかに書いているだろうし、これ以上は割愛。
 とりあえず筆者は変態の重要性を説きたかった。



 3.受賞作でしょ? つまんないんだけど?

 受賞作というのは、伸び代を考慮して選考する場面もあるらしい。
 つまり、面白さの上限が50点で40点の作品よりも、上限が70点で30点の作品の方が選ばれる可能性があるということのようだ(この例は極端かもしれないが)。
 面白さの度合いが低いというのは、例えば物語のラスボスを脇役が倒してしまったりした場合だ。大抵の場合、読者は主人公がラスボスを倒すことを望むと思う。
 こういう場合、面白さの上限が下がる、と呼称することにする。

 そうした伸び代を考慮して、上記の例でいえば「今は30点だけど、この作品は70点になれる可能性がある!」ということで受賞した作品でも、結局改稿がうまくいかず、30点のままとか進歩が全くまま出版され「何これつまんねー」という現象が起きるのだろう、と思われる。

 勿論それらはレーベルによって違うだろうし、そういう意味でも「この作品はあのレーベルに向いている」などといったリサーチを行い、応募する必要があるのではないだろうか。一次落ちした作品が受賞なんて話も聞く。



 ・最後に

 ライトノベルを書くのは難しい。正確に言えば、受賞できるようなライトノベルを書くのは難しい。
 ハーレムがどうのこうのと言われることの多いライトノベルだが、新人賞受賞はそれとはちょっと違う世界だ。決して女の子ときゃっきゃうふふしていれば受賞出来る訳ではない。少なくとも、今の時代は。過去の作家は知らん。
 オリジナリティを生み出すために頭を捻らなければならない。何故ならオリジナリティがないと多くの場合受賞できないからだ。
 誰も見たことの無い設定を考え、魅力的なキャラクターを生み出し、ストーリーの作り方を学ぶ。それがどれだけ難しい事か。
 ある意味では、ただ面白いだけでは許されない一般小説よりも難しい部分もあるのではないだろうか。ライトノベルには斬新さが求められるのである(というか小説は大人向けの物が多いと思うので、そもそも子供向きのものであるライトノベルと比較するのはナンセンスであるとは言える)。
 面白い剣と魔法のファンタジーを送る。勇者と魔王ものの作品を送る。
 うん、面白いね。でも見たことあるよね。
 で落とされる世界。
 設定は時代が進むごとに増え、後続は更に苦しい思いをすることになるだろう。
 ああ! あのネタ使われた! せっかく斬新なアイディアだったのに! ……なんてことも少なくないのではないだろうか。
 受賞できるまで、ひたすら新しいアイディアを生み出し続けなければならないのだ。
 過酷な業界だと思うが、受賞を狙う人には頑張って欲しいと筆者は思う。

 ライトノベルの過渡期なのだろう。
 昔は漫画を読む子供を馬鹿にする親が多いとよく聞いたが、最近ではあまり聞かないように思える。漫画が世間に認められてきたということだろう。
 もっと言えば、手塚治虫の時代と比べれば、漫画はかなりの人権を得たのではないだろうか。
 それと同じで、ライトノベルも徐々に認められていくと思う。
 そもそもライトノベルを馬鹿にするのは、多くは大人なのではないかと筆者は考える。
 ライトノベルは『十代の若者』をターゲットとした媒体のはずだ。それに大人が低俗だというのは、お門違いではないだろうか。
 コロコロコミックを見て、ちんちんやうんこが飛び交う作品がある低俗なものだと馬鹿にする人は余りいないのではないか。
 何故ならあれは小学生向けのものだからだ。それに対して大人が文句を言っても、大人が子供向けのものに何言っちゃってんの、となる。
 それと同じで、ライトノベルも大人が口を出すのはちょっと違うと筆者は考える。文句を言っていいのは、十代の若者たちではないだろうか。
 低俗、とはちょっと違うが、ライトノベルは子供向けのもののはずだ。文章力がどうのこうの言っても、十代の若者たちにはそれで十分なのである。大人が文句を言う事ではない。
 出版業界がつらいとは聞くが、今の時代は大体の業界が厳しいことだと思う。
 ライトノベルもこの時代を生き残り、後世に残る日本の立派な文化として発展していくことを願う。
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