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プロローグ

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もし私の記すこの書物が後世に残るなら、人類がこれまで歩んできた歴史を知って欲しい。

今より遥か昔、西暦20xx年人類は月にセクター(居住区)を完成させた。

これが本格的に人類が宇宙に歩を進めた第一歩とされる。

それより50年は月と地球を間していた人類だが、

宇宙に存在する通称『ユニエネルギー』の発見は、

人類が地球のみならず宇宙の覇者として君臨するのに時間をかけなかった。

飛躍的に宇宙産業は進歩し、ディゾーン(異空間)の開発に成功した。

ディゾーンを利用した宇宙間でのワープ航海は劇的に惑星間の距離を縮めた。

そして200年後には太陽系の全ての星にセクターを造り上げた。

人類は未曾有の宇宙開拓史の幕を開けたのだ。希望という光が宇宙を包み込んだ時代だろう。

そして今、西暦26xx年――私がこれを執筆している時代は・・これと正反対だろう。

絶望という闇に包み込まれている。我々人類にはどうする事も出来ない。

奴ら・・・残忍で狡猾、凶暴で恐れを知らない怪物ども・・・

人類の繁栄も全て奴らに食い尽くされるだろう。我々人類は被捕食者となったのだ。
学者たちは奴ら怪物どもの事をエクソーム(X-OMESの略語)と呼んだ。

エクソームの名はすぐに一般に広まった。恐怖と共に・・・

エクソームについて判明している事は、体長3m以上の巨躯と宇宙空間でも生態機能を維持でき、

人類に対して明確な敵意と――そして殺意を持っている事だ。

既に火星以後の惑星はエクソームに食い荒らされた・・

人類の母なる星、この地球も時間の問題かも知れない。

しかし地球に本拠地を置き、現在太陽系を統治する『宇宙政府』にはエクソームに対して、

人類の英知を結集した二つの計画があると発表している。

一つめは、マスターAI『イド』が統括する自律型武装兵器軍だ。

半永久的に兵器を製造し続ける兵器製造コロニー『エデン』を『イド』が統治する。

そして『イド』はエクソームを駆逐し、戦闘で得たデータを基に兵器に改良を加える。

だがこの機能が有効に働く前に、エクソームの侵略を防げるかは疑問だ。

二つめは、遺伝子工学を利用した改造人間を生み出す事だ。

遺伝子を操作し身体能力を飛躍的に向上させ、戦力を大幅に強化する。

人間に遺伝子改良を施す事は、これまで神に背く倫理的な問題として禁止されていたが、

この危機的状況下で、そういった声も消えていった。

実験は最終段階まで達しており、実戦に配備されるのも時間の問題であろう。

だが私は・・既に人類の終焉のカウントダウンが始まっているとしか思えないのだ。
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私はもう――結論として人類は逃げるしかないと考えている。

突如現れたエクソームに対し、我々人類はあまりにも非力だ。

実は一部の人たちしか知らない計画がある。

宇宙政府は極秘裏に避難コロニーを建造しているのだ。

このコロニーをディゾーンを利用し、エクソームどもの目から隠し通し、

この難局を乗り切った後、また太陽系に帰還する。

だが今なお200億人の人たちが危機に瀕する今、このコロニーには2000万人が限度だ。

1000分の1しか人命を助けれない現実。

人の命に貴賎は無いとしても――我々人類には選択が迫られている。

残り時間は少ない・・躊躇している暇はない。

私も残酷だが――懸命な判断としてこの計画に携わる者として、

ここに筆を置こう。

願わくば――美しい地球と豊かな人類が未来に残ると信じて・・・


                    次元工学者 ウイリアム・ティンバーランド
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