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EPISODE1 始まりは突然に

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 朝、いつものようにコーヒーを飲みながらホログラフ新聞に目を通す。事件が連なっているがさして興味は無い。精々「やはり帝都以外でか」程度だ。僕が住んでいる帝都ロアンでは犯罪は皆無である。と言うより何より、犯罪の中の犯罪であろう――反乱軍の動向が気になり、他は霞んでしまうのだ。反乱軍『シュートゥルー』に関係する事件があるか目を張り巡らせる。反乱軍、奴らは面白いものだ。自らを解放軍と名乗り、帝国の太陽系への圧政に終止符を討つ事を目的としている。それだけではない、火星に本拠に置いた反乱軍は、今や地球に本拠を置く帝国に対して引けを取らない程に軍事力を高めている。
 とは言え、帝国の支配者である永世皇帝マルシオが本気を出せばすぐに捻り潰せるだろう。
問題は何故・・・すぐに潰して仕舞わないかである。が、それを論じる記事は見たことが無い。
そう驚くほどだ。何か上から圧力が掛かっているのかと勘探りたくなるものだ。もっとも、皇帝への悪口や批判が重犯罪となる帝国において、下手な記事は書けないのだろう。僕も外で友達などと話す時は注意している。どこで聞かれてて告げ口されるか分かったものじゃないからね。
 そう・・・だからこそ、帝国に・・あの皇帝に楯突く反乱軍は面白い。動向が気になるものだ。まあ、僕も内心――皇帝の圧政は認める部分がある。しかし、それが治安に繋がり平和をもたらすと思うし、何より武力に頼って開放を謳う反乱軍は結局の所・・世の中を乱している張本人だと思っている。 っと思案していたら、ダンッダンッと階段を下りて来る音が聞こえる。

「ローグ、起きていたのか。毎度朝が早いなあお前は。ハハハ」
 と父モダンが毎度同じ事を言う。
「早起きは気持ち良いもんだよ。静かで」
 手を組みながら腕と背筋を伸ばして、ローグは言った。

 ローグ・・・それは父が付けてくれた名前。僕は拾い子だったらしい。あれは15歳の時かな、そう教えられたのは。父は鉱物学者で宇宙空間に存在する鉱物を調べる仕事をしている。父が27歳の頃、宇宙空間で鉱物の採取をしている時、偶然僕が乗ったポッドを発見したらしい。一体何故宇宙を彷徨っていたのかは解らないけど、病院に運ばれた幼児の僕は無事だった。不明な点が幾つもあったけど、結局僕は父さんと母さんに引き取られたという事だ。父さんと母さんは子宝に恵まれなくて、また数奇な運命を感じるし、このままほっとけないと理由を教えてくれた。僕は拾い子って聞かされた時、ショックだったけど幸せだなとも思った。拾い子でも父さんは父さんだし、母さんは母さんだ。変わりはない。むしろ、『ここまで何不自由無く育ててくれてありがとう』って言ったら父さんと母さん泣いてたなあ。

「あー母さんが出るぞ。そろそろ七時だ」
 とモダンがリモコンの電源を押した。ホログラフテレビの電源が入ると同時にとピーッと時報が鳴った。母オリンはニュースキャスターを務めている。結構いい歳してるけど、ベテランだし美人なので、父さんはホント上手いことやったなあと思っている。
「父さん、今日は研究施設から呼ばれてるんだろ?のんびりしてていいの?」
 いい歳して、のらりくらりしてる姿を見て声をかけるローグ。
「ハハ。別に大した事は無いのさ。どうせ研究の成果とか聞かれるだけだろう」
 と全く緊張する面持ちも無くモダン。
「いやー・・、助成金もらってるんだろ?余裕そうだけど何か成果あるの?」
 ホントこんなんで大丈夫かとローグ。
「まあ鉱物の解析のために努力していますとか言ってれば大丈夫さ。お前もその内わかる」
 モダンはテレビを見て、笑いながらそう答えた。

 そう・・僕は今、父さんと一緒に鉱物の研究の仕事をしている。僕が皇立ロアン大学在学時、父さんがのんびり仕事している姿を見て、『僕ものんびり仕事して暮らしたいなあ』と父に持ちかけたら、「何だ。俺と一緒の仕事がしたいのか。ハハ良いぞ、俺は顔が利くからちょっと口添えしてやる」と父さんに上と掛け合ってもらい、鉱物研究所の職場にいる。僕も大学を出て2年、研究所で働く24歳だ。だからこそ父さんの自由奔放さがよく許されてるなあって思う。父さんは研究所務めというより、フリーの鉱物学者のようなもので、帝国から助成金をもらって活動している。しかし、何故お金が下りるのか不思議だ。

「そう言えば皇帝の国立記念行事がそろそろだね」
 とローグもテレビに映る母さんを見ながら一言。
「うーむ。久しぶりに家族で遊んで回りたいなあ」
 とモダンはコーヒーを入れながら言った。

 ローグはそれを聞いて『ああっ、いいねえ』何て思った。ローグはこうやってのんびりと一生を過ごせるのは本当に良い事だ。幸せだと思った。だが――――ローグはこれから起こる自身の波乱万丈と言える運命を知る由も無かった。





「計画通りに事を進めるわよ」
 帝都のある宿の一室に、気迫のこもった声を出す美しい女性。
「ああ、これで皇帝も・・終わりだ」
 と2m程の背丈を持つ大男が笑みを浮かべ言った。続けて、
「もうすぐだ・・。もうすぐ真の平和を――俺達の手で掴むんだ」
 声を震わせながら、大男は唸った。
「あの皇帝がそう簡単に死んでくれるとは思えないわ。この計画で本当に重要なのは統括者計画の子どもを保護・奪還する事。いい?」
 女性は促すように言った。
「ふん・・。統括者・・・ねえ。それはお前じゃダメなのか。なあサナ」
 大男は些か機嫌を損ねた。
「私は・・私はダメよ。そんな柄じゃないわ。混迷の時代にきっと必要になる救世主よ。皇帝の討伐と同じくらい重要だと思っているわ」
 大男を見つめながら、女性――サナは言った。
「どちらにしろ皇帝さえぶっ殺せば、そんなの後でどうとでもなる――――!」
 大男は目を血走せながら言った。
「ダナー・・・。大丈夫よ、きっと・・きっと上手くいくわ。新しい未来に祈りましょう」
 サナは大男――ダナーに向かって、また自分にも言い聞かせるように言った。



 帝都ロアンの永世皇帝マルシオが住まう皇居から、南へ真っ直ぐに伸びた広く大きい道を『招福(しょうふく)通り』と呼び、皇帝が国の創立を祝う国立記念行事では皇居から出てその道を南下し、またその道を折り返す。皇帝は道中で福を招きいれ、それを引っさげて皇居に戻るのだ。国民はその福のおこぼれにあやかり、盛大に祝うのだ。

「バカバカしい・・・」
 その招福通りを歩く男は思わず口に漏らした。大勢の人で賑わう通りで、周りはその男に視線を向けるが、気に留める事も無く過ぎ去って行く。
「飼いならされた犬どもめ―――!」
 男は続けてそう言った。しかし周りには変人がいる程度にしか思われてないだろう。
『犬とはお前たちの事だ!皇帝を疑いもしない馬鹿どもめ―――!』
 流石にこれは口にはしなかった。ふと、男の向かいにあるデパートの街頭のホログラフテレビから国立記念行事の事が説明される。男は元からのしかめっ面をさらにしかめた。

「明日、この招福通りで御歳1400歳を迎えられますマルシオ永世皇帝陛下が、今年で1209年を迎えるオレロアン帝国の建国を祝い、国立記念行事が行われます。つきましては交通及び通行への規制がかかりますのでご容赦願います。また不審な品を見かけたら――――――までご連絡ください」

 男はそれを聞いて、
「1400歳・・・やはりあれは本当なのか」
 と漏らした。男は招福通りの少し道をそれた所にある宿へと足を運んだ。そしてカウンターに向かうとこう言った。
「ジェインだ。二人の所へ案内してもらいたい」
 カウンターはそれを聞くと案内人が先導してくれた。
「1400歳も信じられんが・・果たしてもう一方もどうなのか・・・」
 ジェインと名乗った男は呟いた。





 目も眩むような美しい装飾が施され、どこか中世を感じさせる厳かな広間の玉座に座る男の前に、つかつかと足音が響く。この部屋には・・・どこか場違いな男が、玉座に座る男の前にひれ伏した。
「マルシオ陛下、お呼びですか」
 黒い鎧と赤いビロードのマントを颯爽と翻し畏まると男が言った。
「来たか・・スミス将軍・・。お前を呼んだのは他でもない」
 オレロアン帝国の創立者にして、皇帝の座に君臨し続ける男マルシオ。1400歳という年齢は偽りでは無いかと思う程、その外見は若く――25歳程であろうか・・。普通なら有り得ない年齢だ。
「スミス、反乱軍の奴らが建国記念行事にて、朕(ちん)の命を狙おうとしておるらしい。フン・・無駄な事だが・・・存じておるか――?」
「はは。聞き及んでおります。されど陛下、誠に心配されますな。我々近衛騎士団が陛下の護身を承れますれば命の危険もございません」
「わかっておる。朕は死なぬ。だが・・・何故奴らはわざわざお膝元にて、そのような危険を犯すのであろうか。わかるか――?」
「昨今の反乱軍どもは我々帝国軍の猛攻により勢いを失っておりますれば、進退窮まって特攻ごとき精神で自爆攻撃でも仕掛けてくるやも知れません。奴らも必死なのでしょう。ですが念のために警備を手厚くしときますゆえ、万が一も無いでしょう」
 スミスは自身満々といった表情である。
「フン。もう良い・・。くれぐれも抜かるなよ」
「はは。ではこれにて――!」
 スミスはさっと翻ると、皇室を後にした。
「反乱軍が我が帝国で何をしようと、朕を殺す事など不可能なのは知っているはず。いや――知られたのか――?しかし、あまりに無謀よ。何か・・・何か裏があるはず」
 天を仰ぐマルシオ。
「イドか・・。イドの入れ知恵か・・・」
 マルシオは歯を噛み締め唸った――――。



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