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味覚増強剤

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こぢんまりとした研究室の中で
シー博士は声を上げた。
「やった。ついに完成した」
その声を聞いて助手がやってきて、博士に聞いた。
「本当ですか。完成したとは」
助手は主に雑用をしていたので、
研究の進み具合は知らなかったのだ。
「何も嘘をつく必要はあるまい。本当だ。
長年の努力の甲斐があった」
「おめでとうございます。
ではさそっくコロン社のほうへ」
コロン社とは言うのは研究費用を捻出して
もらっている会社のことだ。
博士がこの研究を思いついたのは数年前の
ことだった。そしてそのアイデアをこの国で
一番の総合商社コロン社に披露したという
わけだ。コロン社の担当者は、興味を持った。
また博士の経歴も良かった。国内有数の
理系大学を卒業し、様々な研究所で研究者
として働いた。コロン社は博士と
契約を結んだのだ。
博士に研究費用と給与を出すという契約だ。
また完成したときには、大金を出す。
その代わり特許はコロン社に譲り渡す。
というわけで博士はコロン社に報告に
向かわなければならなかった。報告を受けた
担当者は大喜びで、上司に伝えた。
上司はすぐに会議でそれを
生産することを提案し満場一致で賛成された。
そしてそれは大量生産にうつされた。
博士が開発したものとは味覚増強剤だった。
簡単に言うと旨いか不味いかが分かる薬だ。
アメの形をしているのだが、
なめると一週間ほど味覚が鋭くなる。
味覚音痴の人でも料理評論家ほどの舌に
なるのだから、元々鋭い人は
凄まじいレベルになった。
最初はあまり売れなかったが、
徐々に売れるようになった。
そして評論をし始めるのだ。
最初のうちは良かった。
しかしだんだんと不満の声が上がってきた。
なぜなら味覚が鋭くなりほどほどの料理では
我慢できなくなってきたからだ。
しかし毎日高級な料理を食うわけにも行かない。
よって不満がたまっていく。かといって
味覚増強剤を手放すわけにはいかなかった。
増強剤の副作用で本来の味覚が鈍り
使わなければほとんど味を感じられなくなって
しまったのだ。ほどほどの料理を旨い旨いといって
食っていたときと今、
どちらがいいのだろうか…。
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