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プロローグ

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まだ新芽も萌えぬ。
外気の冷たさは肌を刺すように刺激する。
吐く息も白い。気温は五度以下のしるしだ。
そんな年はじめ。

小さい時からの目標への切符を得るための今期最終日。
今日のためにクリーニングに出しておいたブラウスは、ピシッとノリを利かせ肌と擦れるごとにその存在感をアピールしている。
電車の中で駅のKIOSKでおもむろに買った週刊誌を広げた。
何かの特集であろうか。そこには若き頃、凌ぎを削り合った相手、今では自分の目標でもアオイが笑顔で写っていた。
「あんまり調子のるなっつーの」
心の中でそう呟いた。その反面、私のしっているアオイがそこにいて内面ほっとしている自分がいたのに複雑な思いを抱いた。
小さい頃からの性格か、しっかり目覚まし時計で起床し前日ビニールを切っておいたブラウスとスーツに身を纏い、今朝も計算通り急行電車を捕まえる事ができた。
目標とする駅に着いたのは午前八時三十分。相手の待つ施設までの道のりにあるコンビニに行き、ブラックのホット缶コーヒーを買い一息入れる。
これから自分の待っている己との戦いに覚悟を決める為にもちょっとたリラックスは必要だった。
相手の待つ施設まで歩きながら今日の事を頭の中で何度もイメージ。昨夜何度もイメージし、対策を練ったはずなのに不安はぬぐい切れなった。
交差点を渡り、神社をみつける。神社沿いを左に歩き、つぎの交差点で右に曲がれば、もう目的地だ。
手にしている今はもうすっかり空になった缶を道にあるゴミ箱に入れる。交差点を右に曲がった。
そこにある少し古いデザインの建物は、小さいころから毎週通っていたはずなのに、今日ばかりはその建物の古さから貫禄という存在感を感じさせてくれた。
入口のすぐそばにある一階の売店で真白の真新しい扇子を買い、すぐにすこし固い和紙の入れ物から扇子を出した。
扇子の骨である竹のしなり具合を確認するようにゆっくり開いた。小さい時から慣れ親しんだ香りがした。真新しい扇子には扇子特有の香りが強い。
「よろしくね、相棒」と、周りには気づかれぬよう一言呟きまたゆっくりと扇子を閉じ鞄にしまった。
定刻まであと十分。戦場は4階、銀沙。いつもどおりエレベーターではなく、階段をつかい4階までのぼる。
靴を脱ぎ、七部屋あるうちの銀沙と名付けられた部屋の前に立つ。ひと呼吸入れ、中へ踏み込んだ。




ナギサにとって二十一回目の冬。




職業・・・・女流棋士




肩書きは   草薙 渚 女流一級。



そう、私は将棋を指す事を職業とする女だ。





1月。
今期最終日最終局、私の女流名人挑戦をかけた一局。
女流プロ2年目。二十歳の私。大きな挑戦の小さな第一歩。
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