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つつつシリーズ 人類vs宇宙蟲

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「随伴艦、セレナート停止しました」
 オペレーターが声をあげた。女性の声だ。
 セレナートのメインエンジンはとうに臨界点を過ぎ、いつ爆発してもおかしくない状況だった。
 レーダー観測官が声を張り上げる。
「ヤツら追いついてきます! このままではセレナートがっ」
 第十二次宇宙探査船団は謎の宇宙生物群と遭遇、襲撃にあっていた。木星のはるか彼方、未だ人類が足を踏み入れることの許されない場所から来たと思われるそれらは小さな艦から次々と襲いかかり、旗艦、セレナーデとセレナートを残し船団のすべてを食い潰した。
 振り切ったと思われたのだが、いま地球圏を目前とした彼らに再び襲いかかった。
 セレナートの砲撃に呼応するように宇宙蟲たちから光線が幾条も放たれる。双方の攻撃はお互いに致命傷を与えるものにはならなかった。
「主砲充填完了」
 セレナートのオペレーターが艦長、トキタに告げる、と同時に艦長が命を下す。
 発射されたエネルギービームの帯にに群がるように宇宙蟲が切迫する。数十のそれらと砲撃が爆塵に散る。
 しかし、主砲で数十潰そうとも数の圧差にセレナートは為す術がなかった。最初の一匹が外皮装甲に取り付くと次々に。みるみるうちにセレナートの外周は宇宙蟲で埋め尽くされた。
「エネルギーフィールド前面に集中展開。本艦をセレナートの前に出せ!」
 白ひげをたくわえ、歳のいった男が腕を振り指示をとばす。旗艦艦長、ワタナベ少将である。
「艦長、トキタ大佐から通信です。」
 モニタに回線が繋がれると、トキタの顔をうつった。
「ワタナベ少将。貴艦だけでもお逃げください。そこからでは間に合いません」
 二艦には距離があった。停止する以前から遅れが出ていたからだ。
「これいじょう私に部下を見殺しにしろというのかっ!」
 ワタナベも理解していた。何が一番とるべき選択であるのか、を。しかし、彼の情深い質がそれを拒むのだった。
 船団を率いる者としてそれは愚かでしかないが、部下を失い続け、ついに残艦二となったとき見せたワタナベの涙がトキタの次の言葉を詰まらせる。
「……少将。今、ここで、我々の、仲間たちの死を無駄にしないためにも行ってください」
 ワタナベは下を向いた。その時間はほんの数秒であったが両艦の船員には永遠にも感じられた。
「艦首を再び地球へ向けろ。旗艦、セレナーデは本宙域を離脱する」
 顔をあげたワタナベのその声は平静であったが、握った拳は震えていた。
 セレナーデのすべての船員は自然と敬礼をしていた。トキタが返礼しようと腕を上げかけたとき、画面が赤色に染まり通信が途絶えた。

「状況を確認しろ」
 セレナートの艦内にはけたたましい警報音が鳴り響いている。
「本艦のエネルギーが凄い勢いで消費されています。予備電源もだめです」
「原因はなんだ」
 トキタの問いに答えられるものはいなかった。
 赤色灯に照らされていたブリッジが突然、淡い光に包まれた。
「宇宙蟲、発光を始めました。このままでは爆発します!」
 宇宙蟲に襲われて幾度。必ずそれらは発光後に爆発をするのだった。
 トキタにある考えが浮かぶ。
「まずい! エンジンを動かせ、すぐに」
 トキタが叫ぶ。
「いま動かせば本艦は爆発してしまいます。化物どもひきつけるためにもそれはできません」
 クルーの一人が応えるが、トキタはその言葉を受けながらも、もう一度叫んだ。セレナートを盾に少将を逃がす時間を稼ぐという点において、それはクルー全員の考えが一致するところである。
 それなのに意見がわかれるのは、答えを導き出すための情報に違いがあるからだ。
「だからこそだ! やつらはエネルギーを食う」
 トキタが気づいたこと。それは宇宙蟲の特質だった。
 船団で初めにやられていったのは小さな艦だった。小さな艦、つまりエンジン出力の小さなそれらは、緊急時、「逃げる」という船団が全速力をだす場合にそのエンジンがもっとも早く限界を超えてしまうのだ。暴走状態のエンジンが発するエネルギーは大艦のそれよりも高くなる。ゆえに狙われた。
 やつらが何のためにエネルギーを食うのかはわからない。しかし、食うのだ。高エネルギーを求めてさまよっているのだ、この宇宙を。
 セレナート、セレナーデの二艦にさいしても暴走状態にあったセレナートが先に狙われたことから間違いないだろう。
 そして、今エネルギーを食われたセレナートと本宙域を全速離脱するセレナーデ。どちらがより大きなエネルギーを持っているか、など訊くまでもなく明白であった。
 しかし、もう遅いのだ。トキタの指示とほぼ同時にセレナーデのノズルに火がついた。
 それと同時にセレナートに取り付いていた一匹が離れ、飛んでいった、セレナーデへ。二匹目が飛ぶと堰を切ったように飛び出していった。
 
「艦長! 虫が」
 誰かの言葉と一緒にセレナーデに衝撃が伝わり揺れる。
 セレナートから通信が入り、トキタの憶測がワタナベへ伝えられる。
 一考して、それ仮説は正しいとワタナベは判断した。
「本艦の出力をあげろ」
 ワタナベが命じる。
「本艦はこれよりエンジンを臨界爆発させる。エネルギーを食いにやってきた糞虫どもを道連れにしてやる」
 ワタナベの思いがけない言葉のチョイスにブリッジ要因は小さく笑う。
「少将! それは私の仕事です」
 ワタナベが首を振る。セレナートをもう一度臨界、爆発させるには時間が足りないことを知っていた。その間に二艦ともが落とされてしまうことを。
「貴艦はこのまま静待を続けろ」
「しかし!」
「死を無駄にしないために、だろう?」
 ワタナベは歯を見せて笑ってみせる。
 今度はお互いに敬礼を交わす時間があった。

 セレナーデからの通信が切れ、艦内は水を打ったようになった。
「対閃光シャッター降ろせ」
 カメラ類保護のための防護壁を降ろさせる。
「エンジン出力を保て。爆発と同時に本宙域を離脱するぞ」
 それから数分とたたないうちにセレナーデは爆発。セレナート脱出。
 約四ヶ月後、セレナート地球に帰還。宇宙蟲の情報を軍に提示。
 これを機に人類は新たな時代へと突入していくのだった。
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