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魔王ちゃんの始まり

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なんか憧れるよね、道化師ってさ。
いつも笑顔でいてさ。
でもね、彼、あるいは彼女は別に面白かったり、楽しかったりして笑ってるわけじゃないんだよ?
笑わなくちゃいけないから、笑顔という仮面の下には何があるの?
そして……

道化師は誰に笑わされているんだろうね……?

ブォーン、真っ暗な部屋で私の顔を照らし出す青白い光。
平面な少女は笑顔で私に笑いかけている、そんなデスクトップ。
人間ってさ、メディアに踊らされる好きだよね?
バレンタインはチョコレート会社が。
そのバレンタインからホワイトデーをキャンディー会社が作って。
だから私は別にオタクであるとか、ましてや腐女子なんていう言葉は受け付けない、聞かない。
いつものアイコン、緑色の文字で書かれたPをカチカチ。

ペルソナオンライン。

ペルソナってなんだと思う?
有名なRPGでこの名前があるけどさ、でも違うんだ。
仮面をつけた、お芝居なんだよ、そう私たちは私たちをロール(演じる)する。
どうして私が魔王って言われてると思う?
別に人間を滅ぼすだとか、龍の末裔だとか、そんなファンタジックなことは言わない。
ってか、ただの人間だし、私。
でも、ただの人間の私が神様になれる世界がある。
たとえるなら、もし神様が本当に存在するというのであれば。
私たちは大きな大きな箱庭の中にいてさ。
そこに神様たちが無作為に並べたお人形で。
ほら、脆いでしょ? ちょっとしたショックで崩れちゃうから問題だ、もっと丈夫につくってよ。
だからね、私はここで神様に、うんん、神様っていうのは嫌い、かな。
そう、たとえるなら……



――魔王になってくる――
さぁ、私たちは踊ろう。
私たちは踊りたいから踊るのだと、結局は神様に踊らされていることから精一杯目をそらしながらも。
そして、この感じることの喜びでさえも所詮は虚無なのだろうか。


いつからだろう。
私はゲームが大好きだった。
始めはただ純粋にゲームを楽しんでいた。
けれども、ああ、けれども私は私に気付いたのだ。
私はゲームではなく、自分の意のままに人を操り、生かし、そして殺すことにこそ幸せを、喜びを感じているのだと。
さながらそれは神様になった感覚だった。
けれどもある日、私はこう考えてしまった。
よく世間で言われている、ゲームと現実をごっちゃにするのとは訳が違うのだ。
この世界にもゲームのキャラクターから見た私、つまり神様はいて。
私の行動が、思考が、その一つ一つがその神様によって決められているものだとするならば?
それはとてもつまらないことだけれども。
でも、私はその日、とてもつまらないものになってしまった。
それとも、つまらないという感情でさえも誰かに、それこそ、神様に無理矢理感じさせられているんだろうか。
つまり私は道化師をきどっているとしても。
私の笑みは決して感情から来るものではなく。
神様から私に与えられたペルソナにそって。
とても非力で抵抗できない私の、あきらめなのかもしれない。



――神様なんて、嫌いです――
6, 5

  

有限ていう器の中で、私たちは無為に時間に縛られていて。
自由ってなぁに?
私は自由っていうこと自体が自由でない気がするのだけれども。
色々なことに、沢山の鎖に私たちは繋がれていて。
私たちをつないでいる神様は、そんな宝物をくれたりなんかしないんだ。
でもね、神様。
貴方だって、自由なんていう宝物はもってないんだよって。
神様は嫌いだ。
自己嫌悪、私でない私から私を見ると、私はとても気分が悪くなる。
あれ? この私は何番目の私?
だからね神様。
私はもう神様に憧れたりはしないの。
けれども、私は私が大嫌いだからさ。
今までの神様に憧れていた私とばいばいした私はね。

――魔王になろうと思うんだ――

ある意味それは運命的な出会いだった。
もう一人の、もう一つの世界にいる私を私は魔王として動かし、文字通り遊ぶことができるのだから。
私がMMORPGにはまることはある意味で必然だったのかもしれない。
まずね、私の中の嗜虐心が沸き上がってきたんだ。
虐めるを楽しむ心。
人間っていう有限の生き物は強いんだよね、罪の意識が。
だからね、私が死んで、非力な私であった死体が目の前に無惨に転がり落ちるその光景はさ、魔王としての私の一番のご馳走だったんだよ。
でもね、次第に私はごちそうにあきちゃって。
でも、やっぱりもうひとりの私を凄く嫌って。
でもなんでかな~、凄く愛しいんだよね。
だから知らない間に、どんどん、私と私は一緒になってる時間が増えていって。
だれもいかないような、もっとも黒くて、もっとも怖い部屋にたどりついた私は。
呼ばれてたんだよ。



――魔王って……――
カチ、カチ、カチ……機械仕掛けのように繰り返されて。
カチ、カチ、カチ……機械仕掛けが繰り返される。

彼は短い針で二番目の数字を示していた。
「もう、そんな時間かぁ」
びっくりだ。
声をあげると喉がカラカラだったことに気がついた。
ゴク……
とても冷たくてお水が私の熱った身体を冷やしていってくれた。
魔王は私の中にいて、いわば私は魔王のペルソナだ。
私は微かに汗をかいた服を脱ぎ捨てて、熱いシャワーを頭から被った。
鏡に移る私は魔王なんかじゃなくて、とても非力なただの人間だ。
なんだかやるせなくなって、ぎゅっと口を結ぶ。
ほわほわと暖かいシャワーも、ただ、虚しく私の肌から滑りおちては消えていく。
例えばさ、今私はタオルを手にとる。
そのタオルはさっきまでタオルかけにかけてあったんだけど、今は私の手の中だ。
ほら、誰もこのタオルがかけてあっただなんて証明できないでしょう?
知ってる? 蟻とキリギリス。
あれは教訓とかそんなんじゃなくて。
私たちは今をどれだけ楽しくいるかに追われてて、楽しくしてなくちゃいけないんだって。
誰も楽しくすることをペルソナだなんて思わないんだよね。
「でもね……」
小さく呟き、胸に手を当てる。
「私は魔王なんだよね」
シャワーがかき消す私の声は、とても嫌いな私の本心なんだろうか。



――私じゃない、いつかの私へ――
8, 7

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