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魔王ちゃんと黒猫

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雨、嫌いじゃないよ。
でもお天気が良いときも嫌いじゃない。
でもね、両方きらいじゃないだけで、決して好きなわけじゃないんだよね。




学校の帰りだった。
「ちょっと寄り道していく?」
「ん、どちらでも」
いつもと違う道、小学生のころの寄り道はすごくどきどきしたけれども。
単なる暇つぶしになっちゃったな、寄り道。
いつからだろう? つまらなくなっちゃったのは。
いらっしゃいませという店員の脊髄反射と同時に寒いほどの冷気が私を包み込んだ。
私一人じゃなかなか入らないな、CDショップ。
「ねえ、聞いてる?」
「キイテル、キイテル」
一生懸命に今の人気歌手の魅力を私に言われても……
私は興味ないし、君が好きなら好きで、私は興味ないからさ。
嫌いじゃないけど、好きでもないってやつだよ。
それでちょっと離れて、私はヘッドフォンを耳に当てて、適当に視聴曲の冒頭を聞いていた。
それでね、偶然みつけちゃったんだ。
なんだかさ、違うんだよね、それだけ。
すごくゆったりとしててさ、海に浮いてるイメージ。
曲は休日だとか安らぎだとか風とか、癒し系?
猫がいろんなところに行ってさ、で、最後は死んじゃうっていう曲で。
でもさ、その猫は後悔してないんだよね。
自分の生きたいように生きて、見たいものをみて、それから恋も知っていた。



――私はどうだろう……?――
なんかさ、ずるいよね、人間って。
大体の人間はさ、「はい」 でもなくて、「いいえ」 でもなくて。
曖昧な返事ばっかりで。
だから私たちの生きてるこの世界っていうのはさ、「はい」 でもなくて。
「いいえ」 でもないんだよね。
それでね。
そういうのの積み重ねの中にはさ、絶対に私も含まれてるんだよね。



凛々だった、ああ探し物が見つかったのだろう。
雑踏の中に紛れる私たち、私たちが作り出す雑踏。
じゃあ、私たちは私たちの中に紛れてるってことになって。
結局は何にも紛れてない孤立無縁なのかもね。
「はい」
「ありがと」
短い言葉と引き換えに私に手渡されるアイス、いちご味。
いちごは大好きだ、甘くって酸っぱくて、なんていうか。
青春味って感じだよね。
ペろっとすると、舌を通して私を駆け巡るひんやりとした感触。
けれども夏を待ちかねている太陽にコンクリートはジリジリ。
なんかさ、私はすごく恨めしくおもったね、この太陽が。
君、そんなにいつもさ、働くことないじゃん。
たまにはさ、お休みしない?
そんなこんなで太陽が雲に隠れるどころか、青は灰色に衣替え。
「あーあ、ふってきそうじゃん」
「うん」
なんか憂鬱そうだ。
君はジリジリの方がお気に入りだったのかな?
でも、私もただ灰色っていうのは好きじゃなかった。
だって、どっちつかずでさ。




――まるで人間みたいじゃん――
10, 9

  

人間にしか聞えてない音ってあると思うんだよね。
人間にしか見えてない色ってあると思うんだよね。
でもさ、それは他の生き物も同じで。
たとえるなら猫の世界には色がなくて、白か黒の世界でさ。
それだけ、綺麗なモノトーンなんだって。
なんだかちょっと、妬けちゃうよね。



ポツリ……
ポツリ、ポツリ…
ポツリ、ポツリ、ポツリ……
「傘持ってる?」
「うんん」
ちょっとずつ、ちょっとずつと慎重に灰色の雲たちは雨を落し始めた。
ちょっとは涼しくなるかな。
でも濡れるのは私だって好きじゃない。
「走って帰る?」
「うんん」
だからさ、そんなに急ぐことないと思うよ。
大事なのは有限を伸ばすことじゃなくて有限を生かすこと。
カラン、カラン。
流れているのは落ち着いた、悪く言えば典型的なクラシック。
私は口にショートケーキのいちごを運ぶ。
すっぱい、微妙かな、いちごにしては。
ポツリポツリポツリ
止みそうもない雨の音をさ。


――彼にはなんて聞えるんだろうね?――
11

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