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愛しの彼女は愛しい彼女?

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 七.愛しの彼女は愛しい彼女?

『続いてのニュースです。先日のダイゼンジコーポレーション社長令嬢誘拐事件の続報が入りました』
 月曜日。今日も柚代家の朝食は、兄と妹の二人だけである。
 三日も連続で両親が不在というのは、さすがに珍しいことだった。
『―の二名の男に誘拐を指示していたとして、株式会社YORYの副社長、依井宗貴氏が逮捕されていたことが明らかになりました。依井容疑者は―』
「サヤちゃんの言ってたこと、ホントだね」
 そう言ってパンを口に運ぶ妹に、兄は「そうだね」と言って頷いた。
『―株式会社YORYは、国内トップシェアを誇る家電メーカーとして、業界内では独走状態でしたが、今回の事件により、少なからぬ影響を受けるものと言われています。それでは、次のニュースです』

「おっはよー!」
「おはよう」
 彼女は自転車を降りると、彼の隣について歩きだした。
「なんかさ、あっという間の週末だったね。強盗捕まえたり、魔王と戦ったりさ」
「そうだね」
「あ、そういえばさ、……あんときのトーヤ、結構かっこよかったよ」
「え、どのとき?」
「ん、ほら、最後にびゅーん、ってさ」
「あれは、サヤのおかげだよ」
 そう言って笑った彼に、彼女は頬を赤らめた。
「ふーん、そっか、な」
「サヤ、どうかした?顔赤くない?」
「全然!全然赤くないしっ!」
「ならいいんだけど。あ、そういえばさ、この間、雛になんか言ってたの、あれ何?」
「え、ああ、あれ。うーん、どーしよっかなぁ」
「なんだよそれ」
「では、こうしよう。学校まで競争して勝てたら教えるということで」
「ちょっ、ずるいぞ、サヤっ!」
 そう叫んで、彼は自転車にまたがった彼女を追いかけた。

「ゲーム、しばらく休止だってな。依井のせいで不具合が出たんだと」
 そう言って、彼は牛乳のパックを足元のビニール袋に落とした。
「勝負は、しばらくお預けってことだな」
「しょうがないね」
 風が一度、強く彼らの顔を撫でた。
「ねぇ、今度さ、大善寺さんも誘ってどこか遊びにいかない?」
「あー、海とか、いいな」
「金治、目、垂れてるよ」
「え、そうか?」
「うん」
「いたーっ!」
 振り返った彼らの視線の先に、幼なじみの彼女が駆け寄る姿があった。
「橙也」
「ん?」
「負けねーぞ」
「うん」
 そう言って、彼らは拳を打ちつけ合った。

「あの、これは…」
 夕暮れのオレンジが照らす二人きりの図書室で、彼女は彼に、携帯電話を差し出した。
「出て」
 彼はそのシンプルな白の携帯電話を受け取って、耳にあてた。
「もしもし…?」
『ふふふ、わたしが誰か、分かるっすか?』
「…アユガイっ!?」
『トウヤ先パイ、お元気だったっすか?』
「君こそ!どうして?」
『ふふふ、それはっすねぇ。ダイゼンジの科学力はァァァァァァアアア―』
「良かった、とにかく良かったよ!」
『あ、ちょっと、最後まで言わせてくださいっす…』
「また、会える?」
『もち、ばっちり準備して待ってるっすよ!じゃあ、先パイはどうぞ、引き続きマオ先パイとお楽しみくださいっす~』
「ちょ、ちょっと!」
 そう言って切れた電話を、彼は彼女に返した。
「大善寺さん、ありがとうございます」
「まおでいい」
「へ?」
「わたしも、橙也くんって呼ぶから」
 彼は、ほどなくして答えた。
「はい、まおさん」
「橙也くん、わたしも、自分の言葉で伝えたいことがある」
「え…」
 彼女のこの言葉に、彼の胸は大きく鳴った。
「……」
 三秒ほど待って、彼女の口は小さく動いたものの、けれどその内容が聞き取れず、彼は彼女に聞き返した。
「え、今、なんて…?」
「言った」
「えっ、と…?」
「もう、言った」
 そう言って本に視線を戻した彼女の顔は、夕暮れのオレンジに照らされていたけれど、その頬は赤く染まっているように、彼には見えた。
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