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1:仲間さがし

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 そんなアステリウスで七大都市に数えられるうちの一つ・大都市リベラ。リベラが大都市である理由は少なからず、この都市の中心に位置する礼拝堂リヴィス院であろう。昔から教会と広場を中心に街が栄えていくのは一般事項である。
 しかし、このリヴィス院は少し違う。そこは『魔霊術の聖地』なのだ。魔霊術とは魔術でも霊術でもない。自らの魔力と霊力を大気に溢れる生命エネルギーとを練り上げ、構成し、形となす魔法である。魔霊術者を養成すると共に、最高峰と呼ばれる者達がそこで独自の研究を行っている場所がここ、リヴィス院なのである。

 そしてここはリヴィス院にもっとも近い居酒屋ピエロ。いつもながら、なかなかの大繁盛。酒に酔った人々が騒いでいる真っ最中だ。みなさんもうベロンベロン。
 その店の傍らに、なにやら周りに比べテンションの低い、言い換えれば、真夜中の居酒屋には不似合いといった、シリアス雰囲気ただよう三人組がテーブルを囲んでいた。
「ったく・・・みつかんないわ」
と深紅の前髪をかきあげながら美女がため息まじりに言う。
 なにをかくそう見事なナイスバディーのお姉さん。オレンジと白のストライプ襟付きノンスリーブをヘソがみえるように胸の下でしばってある。大きなスリップの入ったロングスカートからは好色のいい足が見え隠れしている。髪は高い位置でポニーテールをしているがその状態でも胸のあたりまでの長さだ。
 顔の両側にたらしてある長い前髪を指に巻きつけながら、憂鬱そうに喋り出す。
「もぉ五日目やよ?い・つ・かっ。だんだん馬鹿らしくなってきたわ。冗談じゃないっつーの」
 くどくどとトゲのある愚痴を、かたわらの人物に視線を向けつつ言い放った。
「だれやったかな~?一番近いココなら来るはずだって言ってたんは?よくよく考えてみたら、修行生が校則やぶって酒飲みに来るわけないやん」
 そんな美女の目線の先にいる人物は、ぷるぷると震えながら深呼吸して重い口を開いた。
「い…言いたいことがあるんなら…ハッキリ言ったら、どうだ?」
 取り繕ったひきつりまくりの笑顔をしてみせる。長身の男で、なんというか、工事現場が似合いそうだ。茶髪の短い髪を額に巻いた包帯で逆立てている。別に怪我したというわけではなさそうだ。緑のTシャツの上から防具。腰からは、他の装備に比べ浮いてしまうような立派な剣をたずさえている。
「やぁだ。聞えてたんー?うーん。どこかの単細胞さんは耳もいいみたいやねぇ?」
 わざとらしく、そしてかわいげに首をかしげて言ってみせる。
 その言葉に耐えかねたように拳をテーブルに叩きつけ、勢いよく立ち上がった長身の男。当然のことながら、立った反動でイスがぶっ飛ぶ。
「ど・・・どぉせ俺が全部悪かったよ!あぁどーもすみませんねぇ!けどなぁ!リカ!お前だって賛成してたじゃねぇか!それにお前が飲みすぎた勢いで酔っ払いとケンカになったから、二日間も警察に御用になって、こんなに時間くってるんだぞ?!」
「う・・・」
 ナイスバディーこと、リカ=ルイスは一瞬たじろく。しかしここで引く彼女ではない。テーブルをはたいて立ち上がった。
「は?うちのせいにする気なん?!いいがかりつけんのも、いいかげんにしぃや!」
「おぉ!お前のせいだよ!こうなったら納得させてやらぁ!」
「上等やっ!そっちがその気ならうちも手加減せぇへんで!?ちょっくら表でんかい!言ったるけど、ほえ面かかんようがんばるんやなぁ!?」
 大声で始まったケンカに周りの酔っ払いたちもはやしたてる。にしても、女のほうのさっきまでのセクシーお姉さま風の口調はどこにいったんだ。
「・・・」
 一方、二人の間でのん気に無言でフロートメロンソーダをすすっている男。深い紫の髪を一つにたばねている美男子だ。抽象的な顔立ちと伸ばした髪、男らしかぬといえばそうだろう。詰め襟の服にブーツ、そしてマントをはおっている。
 2人の口ケンカの絶頂期を迎えたあたり、ようするに、後少しで手が出そうといったころあいに、その男はようやくジュースから目線を上に移動させ、口をひらいた。
「・・・リカ。キレーなお姉さんキャラが壊れてる」
「あぁ?!ライ!止めたって無駄やよ!ちょっと口閉じと・・・はっ!!・・・・・・オ・・・オホホホホホホ」
と、手を口に当て、周りに笑顔をふりまきながら椅子に上品な物腰で腰掛ける女。
 その女の仕草に男も我に戻り、椅子に座ろうとするが…後方にあるはずの椅子は、男が立った時かっ飛ばした衝撃でぶっ壊れてしまったようだ。しぶしぶ隣のテーブルから椅子を持ってきて、腰をおろした。
「お前って本当感情高ぶると本性でるよなー。別に自のままでいいんじゃないか?」
 眉をひそめた顔を、机にのせた腕にうずめながら女を見上げて男は言った。
「オホホ。なにを言ってますの、ロブくん?あたくしそんな暴力的な言葉なんて使えませんわよ。オホホホホ・・・」
 またしても口に手をあて、視線をはずす。どうやらこの女は猫をかぶりたいらしい。
 リカとの激しい口喧嘩を繰り広げていた男の名は、トミス=ロブア。リカいわく、トミスという呼び名は可愛すぎて似合わないそうだ。よって、ロブと呼ばれている。
「・・・まぁいつものことだ」
と冷静に再びメロンソーダをすすりはじめる美男子、ライ=ケヴィン。
 カラカラン・・・店の戸についた鈴が鳴り、「いらっしゃい。」と、カウンターからマスターの声が聞こえてくる。
 三人は何かの合図のように、その戸から入店してきた少年へそろって目を移した。
背は低め。まだ幼い少年。真夜中の居酒屋にはこのテンション普通の三人組より不似合いな年頃だ。そして羽織っていたマントがひるがえった瞬間、腰にぶらさがっているエンブレムが顔を見せた。そこにはエメラルド色の宝石に、それを包み込むように花の銀細工がほどこされている。その一瞬を三人は見逃さなかった。
「度胸はなさそうだがよく働きそうだな」
「・・・年は十四・五・・・」
「冒険するには・・・十分でしょっ☆」
 そう言うと、リズミかるに席を離れるリカ。店の中央に位置するテーブルへと滑らかな腰つきで向かう。さきほど入店してきた少年が一人で腰掛けたテーブルだ。
 まずは片手をテーブルにのせ、腰を折る。ちょっと胸強調。
「ん?」
 少年はテーブルに落ちた影に気づき、リカを見上げた。
「ここ・・・座ってもいいかしら?」
 眩しいばかりの美貌。しかもナイスバディー。少年は少し赤面しながら下をむく。
「あ。はい・・・どうぞ」
―――うし。押しに弱そうねぇ~♪
 落ち着きのある物腰で腰をおろした。足を組む。そうして光る足が姿をあらわした。
「ごめんなさい。迷惑だったかしら・・・?」
 先ほどの迫力あるねーちゃんはどこにやら・・・。
「え・・・いや。大丈夫です」
 少年は慣れない美女に緊張ぎみだ。
「私はリカ。あなた名前・・・なんておっしゃるの?」
「あ。マックスです。」
 突如訪れた美女との遭遇に、嬉々として応答する少年マックス。
!リカちゃんの超極秘テクニックその①!
 両肘をテーブルに立て、組んだ指の上にかるく顔をのせる。顔を少し傾け、上目づかい。
「わたし今、宝物がありそうな遺跡を見つけたのよ」
「え・・・もしかして冒険者?!すっげ―!ねぇねぇ!話いろいろ聞かせてくださいよ!」
 身を乗り出すほどの食いつきようをみせるマックス。
(よっしゃ!つかみバッチリ!!)
 少年の死角でちゃっかりとガッツポーズをするリカであった。
「それでね、そこの入り口にどうやら魔力がこめられてるらしくって・・・。私だけの力じゃ、どうすることもできなくて困ってるの。あなた・・・もしかして魔霊師じゃないかしら?」
 潤んだ瞳、助けを求めるか弱い目!
―――これで落ちない男はいないはずっ!!
が、しかし。その言葉を聞くや否や、少年は固まった。そして数秒の沈黙の後に、情けない口調でしゃべりだしたのだ。
「あ・・・えと俺、修業の身だし~・・・えっと・・・それにぜんぜん弱いし・・・それに、それに~・・・」
 人差し指をたて、冷や汗ダラダラ流しながら目を泳がせている。あきらかに言い訳を並べようと四苦八苦しているようだ。それにしてもぐっだぐだ極まりない。
「・・・」
 冷めた表情で少年を見つめるリカ。その目にはもうさっきまでの輝きは微塵も残ってはいない。
 そこへ二つの大きな陰がマックスの両側に忍び寄った。
「え?」
 その影を交互に見上げるマックス。
 その影というのは他ではない。ごつい怖そうな男:トミス=ロブアと冷たい表情の美男子:ライ=ケヴィンが、狩りをする前の獣特有の静けさ秘めた目でマックスを見下していた。
「う・・・うわぁ・・・。ご・・・ごめんなさい・・・?」
 少年の冷や汗はピークに達しているようだ。そして意味もわからず「謝る」という術しかこの少年には残っていなかった。
「はぁ・・・。んもぉ使えへんなぁ。んじゃぁ他の魔霊師で、旅出てくれそうな子とか知らんわけ?」
 もーどうでもいい。といった雰囲気で椅子に横座りをし、髪の毛をクルクルといじっているリカ。
「あ・・・あれぇ・・・?」
 リカの豹変ぶりに「同一人物とは信じられない」と言った表情で首を傾げているマックス。女とはこんな生き物なのだよ、マックス。
「いるのか?いないのか?はっきりしろよ」
「は、はい!」
 頭上からの大男の声にせかされ、慌てて思考をめぐらす。この場合、大男の言う後者を選べば、間違いなく血祭りにあげられてしまうという直感がマックスに働いた。自身の死活問題に、目を左右に動かしながら必死に頭をフル回転させる。
「あ・・・。」
 そしてなにかを思い立ったように微妙な声をあげた。
「・・・いるのか?」
 口数は少ないが、なにげに美声なライくん。
「え・・・いることはいんですけど・・・その・・・ねぇ?」
 苦笑いと共に返答した。かなりいいづらそうだ。それほど紹介しにくい人物ということなのだろうか。
「女なのか?男なのか?」
「お・・・女ですけど」
「・・・性格悪い、顔不細工。そういったことには問題ない」
「そういうわけでは・・・ないんですけどぉ・・・」
 上目遣いでかなり気まずい顔をしてみせる。
「せやからようは、とっとと紹介しろっちゅうこと!」
「あ・・・はい・・・」
 一対三。三人組の言葉の攻撃に蹴落とされた少年マックスは、ピエロのマスターに何か伝言した後、三人をリヴィス院へと案内した。


 カツカツと・・・長い一本の廊下に四人の足音が響きわたっている。前も後も続くは廊下のみ。そんな異様な空間のまん中に、マックスを先頭に冒険者三人が列をなしている。
 一人は先ほどから「スゲースゲー!」と、凝りもせずに目を輝かせながらキョロキョロしてる。言うまでもなくロブだ。
 そして丁度その後にいるもう一人は、目をウトウトさせてロブの服をつかみながら歩いている。まさしくマイペース大王のライ。
 そして最後の一人。異常なまでに冷や汗ダラダラなリカ・・・
―――も・・・もしかして・・・うちらごっついヤバイ人間紹介されるんちゃうやろか・・・?
 居酒屋ピエロからリヴィス院は裏口を使って五分という短時間で院中に入れた。が、しかし・・・なにを隠そうリヴィス院に入ってから、すでに二十分が経過している。
 最初、門を抜け、階段で3階まであがり、そこにある一室に入るまでは何もおかしな事はなかったのだ。リカ達もその一室に例の彼女がいるのだと確信していた。
 が・・・甘かったのだ。その部屋にはいらなくなった古書が置かれているといった雰囲気の部屋で、ほこりっぽい空気の中無数の本棚が並べられていた。
 あたりを見渡すリカ達をよそに、おもむろに少年が戸棚にある一冊の本を手前にひく。すると戸棚が床に沈んでいき、戸棚の裏にあった暗闇へと続く階段が姿をあらわした。ランプの灯りを頼りながら降りると、巨大な地下迷路。様々なトラップをマックスが解除して進んでいき、行き止まりで立ち止まったかと思うと壁のある箇所を二回ノックした。それを合図のように壁がすっと消え、奥には今現在行進中の廊下が続いていたというわけだ。
 この間、ロブはスゲースゲーと連呼。リヴィス院に入ってから五十回は言っているであろう。さぁ記録はどこまでのばせるか?!なんちて。
 まわりはすべて大理石、壁に五mの間隔で電灯がついている。そんな廊下をあてもなく歩きつづけて早十数分。
―――なんちゅぅ豪華さやねん・・・・・・。普通、生徒が一人一人がこんな厳重に管理されてるわけない・・・・・・。ま・・・・・・まさかうちら騙されてる?!着いた先にはでっかい怪獣とかおって、まんまとエサにされるんちゃうの?!いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
と、絶叫中のリカちゃんをしりめに、マックスは立ち止まった。
 そして言うまでもないが、眠りながらロブのあとを歩いていたライは、いきなり止まったロブの頑丈な背中におでこをぶつけた。
「ココですよ。」
 振り返って微笑む少年。
「なんもねぇじゃんか。」
 そぅ、廊下はまだまだ向こうに続いている。マックスが立ち止ったのは今まで歩き続けていた廊下と全く変化のない場所だ。
 不思議がる二人と寝起きでボケボケ一人。
「まぁ見てて下さいよ☆」
 と言って、まだ向こうに続く廊下に片手をかざした。
――オープン・セサミ!!――
 マヌケな呪文を唱えた瞬間、マックスから風が吹いた。
 すると・・・・・・少年の手より向こう側にあったはずの廊下は消えている。そればかりか、そこに現れたのは、果てしなく続くブラックホールを連想させるような真っ黒な空間が続いている。
 そしてその三十mほど先に、金の縁取りが装飾された二枚扉が緑の光をほんのり放ち、浮かんでいた。
「アレが入り口ですよ。ついてきてください。」
 その扉を指差しながら、マックスは道もない暗黒の上をスタスタと歩いて行く。
「「「・・・。」」」
 沈黙して暗闇を見つめる三人。
「大丈夫ですよ。てきとうに歩いてもこっちに辿り着けますから。」
 と、十mほど向こうでマックスは言う。
「・・・ロブア。」
 神妙な空気の中、せかすようにライがロブの名前を呼んだ。
ゴクリっ・・・
 息をのんだロブは、その暗闇にそぉ~っと片足を出してみる。
ヒタッ。
「おっ!!」
 何もない暗黒に足がついた。新しい物への発見で、嬉々としながら進んで行くロブ。ほんとうに単純な性格だ。
「・・・実験台トミス=ロブア。成功。」
「どうやらあたし達が行っても大丈夫みたいねぇ♪」
 ロブで試すという、なんとも薄情な仲間達だった。

3, 2

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