トップに戻る

<< 前 次 >>

ブーン2

単ページ   最大化   

あの頃、僕はいつも泣いていた。

人生を変える分岐点は、いつだって突然やってくる。

「どこ!?」

酷い喉の渇きで、殆ど僕の声は出てなかったと思う
でも、それ以上に自分の声さえ聞こえない酷い耳鳴り、
世界は真っ暗だった。
辺りに感じるのは血の匂い、そして焦げ臭いなにか。

幼心に、これが地獄なのだと思った。

「母さん!!!!父さん!!!」

でも、返事は無い、あったかも知れないけど、
僕の耳には耳鳴りさえもしない、静寂しかなかった。

僕は涙の出ない嗚咽を繰り返し、気を失った。

しばらくして日の光が僕を揺り起こした。

目が覚めた僕を襲ったのは、喉の渇きと飢え、
そして、孤独という虚無感だった。

いつもと変わらない日の光は、異常な世界を照らした。
いつも見慣れた村は、殆どの家が柱を残し、消え去っていた。

何人かの人が、家の残骸を持ち上げようと努力していた。

女の人が家の前で泣き崩れていた。

同じくらいの年の子が泣き叫んでいた。

足が無い人がいた。

動かない人が、僕の両親だった。

僕は、ただ、突っ立って何もしなかった。
これが戦争だと知ったのは、数年後だった。


「ブーン!!なにが起きたの!?」
リノの声で目を覚ました。夢だったのか・・・。

僕らは森を抜け、遠く離れた郊外に降ろされていた。


「・・・『核爆発』だお・・・」
ブーンは深刻な面持ちで言った。

「な・・・にそれ・・・」
聞いた事のない単語にリノが聞き返す。
爆発という単語に、おそらく僕と同じ最悪の想像をした。

「ものすごく大きな爆発だお。」

そう聴いた瞬間、リノの血の気が失せて真っ青になったのが分かった。

リノは少しの間をおいて、思い立ったように勢いよく立った。
「まつお!!!!」
ブーンが悟ったかの様にリノの手を引っ張る

「やめて!!!!離して、・・・よっ!!!」

ブーンを振りほどこうするが、ブーンも必死で行かせまいとする。

「せめて、雨が止むまでいっちゃ駄目だお!!!!」
ブーンが真剣に訴える。
「でも!お父さんが!!!お母さんが!!!!」
リノはなおも暴れる。
「いくなお!!!!!!!!!!」
ブーンの怒鳴り声が木霊する。
その気迫に気おされて、リノがへたり込む。
「ごめんお・・・せめて、アレが止むまで・・・」
ブーンはそういいながら村の方角に目をやった。

ブーンが向いた方角を見ると、見たことも無い
黒い壁が出現していた。
遅れてくる水の音で、雨だと気づいた。

それから僕らは雨が止むまでじっと待った。
爪を噛む音がリノの歯がゆさを物語っていた。

2時間程立つと、雨の音が消えた。

リノがすくっと立ち上がる。
「ブーンが連れて行くお、・・・リオンはどうするお?」
ブーンは嫌々ながらも僕に聞いた。

「・・・僕は・・・、いいよ・・・」
断った。
もう、いやだ。
何も見たくなかった。

「それがいいお。戻ってくるまで、待ってるお。」
ブーンはそういうと、リノを乗せて手を広げた。
リノはあの時のような輝く目では無かった。

風を感じると、ブーン達は既に小さくなっていた。

僕は、弱虫だ。
だから、あの時もただ立っている事しか出来なかった。
そして、今も僕はリノを止めなかった。

僕の心は、あの日から麻痺し続けているのだろうか?

人の死の、それ以上に僕は死にたくない。

父さん、母さん・・・。

あれこれボーっとしている間に、3時間は過ぎたのだろうか?
時計が無くて時間の感覚も無かった。

程なくして、何かがこっちに向かってきた。

「リオン、良かった無事だったかお。」
ブーンは深刻な面持ちでそう言った。
でも、どこか疲れていた。

「リノ・・・!?」
目を疑った。
そこにいるのはリノじゃなかった。
すくなくとも、顔形は同じだ、でも、リノじゃない・・・

その人は、僕の胸倉をつかみながらわめいた
口からは胃液の酸っぱい匂いがした。
「違うの違うの!!!!!!!!私じゃない!!!!!!!」
「え、?どうしたの?リノ?」
僕の声を掻き消すようにまくし立てる
「ごめんなさいごめんなさい!!でも!!!私が悪いの!????」


「・・・」

壊れていた。
リノは力なくそこにへたり込んで、うわごとの様に
謝り続けていた。

「リオンは・・・両親を見たお。」
ブーンがゆっくり説明しだした。
「あの光景はいつ見ても酷いお・・・」

リオンとブーンはまず村に向かった。

そこにあったのは爆風で家屋は倒壊し、荒れ果てた村だった。

村の人は熱線でやられ、皮膚は伸び、まるで人じゃない姿をしていた。

そこの一人が、リノに助けを求めた。

リノはただ、叫び

「きゃあああ!!!」

逃げた。

程なくして、その人が倒れた
手から転がり落ちたペンダントがリノに、父親だと知らせた。

「その後、なんとかブーンはリノをつれてきたお。」
ブーンがそのペンダントを差し出した。

「うん・・・、ありがとう」
僕はそのペンダントをポケットにしまった。

「ともかく、此処は危険だお。」
僕らは、リノを抱えて、町に行くことにした。

ブーンの背中に乗ると、涼しい風が僕らの頬をよぎった。

村とは逆方向の森を抜け、町が見えてきた。
「あそこだ。」
僕がそういうと、ブーンがゆっくりと降りた。

町につくと、皆さっきの爆発はなんだったと、
口々に噂していた。

神の怒りだとするものも

なにかの実験だと言うものも

だれも、村の安否については噂していなかった。

僕らは宿に入ることにした。
お金は、二人分しかなかったので、ブーンはぬいぐるみとして入る事になった。

リノをベッドに寝かせると、直ぐに寝息を立てた。
僕らもベッドにはいると、ドロの様に眠った。

悪夢は見なかった。

そうして夜が明ける。

目が覚めると、リノが起きていた。
「おはようリノ。」
リノは昨日より幾分か顔色が良かった。

「おはよう、私リノって言うのね、あなたは?」
そこにはリノが完全に消失していた。

「・・・・・・!!!」

「き、記憶喪失だお・・・」
ブーンがいつの間にか起きていた。
「おそらく、心因性ショックによるものだお。」
聞きなれない言葉だったけど、理解はできた。

「リノ、おなかすいたよ。」
僕はリノを抱きしめていた。
「リノ、ごめん・・・僕が止められていれば・・・」
ようやく、涙が出始めた。
ああ、僕にとってリノは大事な人だったと、今理解した。

「苦しいよ、ねー、あなた誰?」
リノは屈託の無い笑顔を浮かべる。

「僕は、リオンだよ。君を守るために来たんだ・・・。」
リノは僕を見ていっそう笑った。
そのあと、少しふくれっつらになって。
「本当?ありがとう!でも今はお腹がすいたよ。」
そういった。

「これからどうするお?」
ブーンが不意にそう聞いた。

「・・・僕はこの原因を知ろうと思う。ブーンは?」

ブーンはまた深刻な表情を浮かべた。
「ブーンはこの原因の一端は分かってるお。でも、まだ闇の部分が多いお。」
「原因の一端?」
僕はあの時、ブーンが叫んだ事に関係があるかもしれないと思った。

「リオンは聞く権利があるから言うお。」
ブーンが僕をまっすぐ見据えて言った。

「ブーンは生物兵器だお、そしてあの爆発はツンという生きる爆弾兵器の仕業だお。」
生物兵器?じゃあブーンも兵器だと言うことになる。
でも、ブーンからはむしろ優しさが満ち溢れていた。
それは間違いなく、兵器ではない、すべての生物のものだ。

ブーンは少し間をおいて更に続ける。
「ブーン達は相手に兵器を使わせず、一方的にその兵器を使うことの出来る究極の兵器だお。」
ブーンは自分の事を恥じるように目を伏せた。

「その為に、その兵器に使う理論を身体に封じ込めてるお」
・・・、なんとなく、いやな予感がした。
「壊されたら誰でもその理論を使うことが出来るお」

その予感が徐々に現実味を帯び、ぼくに質問させた。
「じゃあ、もしツンが破壊されたら・・・」

「あの大量殺戮兵器を世に出すことになるお!!!」
最悪の予想に、最悪の結果だった。


「ブーンはそれを防がなきゃいけないお。もう世界を滅ぼしちゃいけないお!!」
ブーンの目から誠実さと、自身の過ちを恥じるような、そんな思いが伝わった。

「そっか・・・じゃあ僕もいくよ。ブーン。」
「っお?」
僕の言った言葉がブーンは信じられないようだった。

かまわず続ける
「だって、君一人じゃ満足に宿も借りれないし、それに」
ベッドに座ってる、リノの頭に手をやる。
「それに、この世界を守ることが、リノを守る事につながるから。」

ブーンは少し考えた後笑顔で言った。
「わかったお、よろしく頼むお!」
「うん。」


人生を変える分岐点は、いつだって突然やってくる。
でも、それが悪い事とは限らない。

歩くほうが、突っ立ってるよりも何倍も素晴しいから
僕は泣くのをやめた。
3

それいゆ 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る