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譲れいない、ナニカ

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_______________________pride?____________________________________



今己が相対しているのは、か弱い(設定)加納後輩を付け狙う不倶戴天の敵である。そういう大前提で行動してきた当方にとって、現状は不可解に過ぎた。

なにを彼女は爆笑していやがるのだろうか?

それと、何故この化け猫は唸るばかりで一向に、攻撃というものを仕掛けてこないのだろうか?

「ヒッ! ヒィッ! ヒヒヒッ! ば、ばか、馬鹿かよっ! あー、頭悪いなお前ぇっ! ここは俺に任せろって、おま、おま、ヒッ、ヒヒッ、ヒャハハハ!」
「・・・・・・・・・」
知らず、憮然とした表情をしながら堅く化け猫を戒めていた両の腕を緩めてひとつ、息をつく。

危機感の違いだ、これは。こいつに殺されるかもしれないという俺の危機感と、こいつに殺される訳がないという彼女の不用心。
はたしてどちらが正しいのかといえば、現状においては一向に攻撃の素振りを見せない化け猫を見れば一目瞭然か。
どうやら、俺はいらぬ世話を焼いてしまったらしい。かつ、そこを嘲笑されているらしい。
憮然は怒りに変質しつつある。これは、普通にイライラくる。まあ勿論、俺は大人だからそんな、ここは我慢すっけど?
「なにやら、僕が未だ知らされていない情報がおありのご様子ですねぇ」
「ぷっ・・・・知らされていない情報だぁ? ヒャハハ! あんま笑わせんなって、勝手に突っ走ったのはお前だろうがよ」
「ああ、はい。そうですか。まあいいですよ。で、なにこの状況?」
「なにも糞もあるかよ。あるもんかよ。その化け猫はなぁ、別段誰に危害を与えるわけでもねぇ、ただ私がそいつの縄張りに入ったら馬鹿の一つ覚えみてぇに威嚇してくるだけなんよ」
「ああ、なるほど。え、じゃあなんで僕に退治なんて頼んだんです?」
「危害はなくたって、ウゼーっしょ? ってか、命の危機とかだったら誰もアンタなんかにゃ頼まねーよってコトくらい、ちょっと頭捻らせれば分んない? あ、もしかしてもしかしなくても、マジで分かんなかったんっ? 悲劇の英雄ごっこに夢中でっ? 私に頼られてるとか気張っちゃった感じなん? うーわ、相当離れ業っしょソレっ! どんだけ自意識過剰なんよアンタっ! 一体この世の誰が好き好んでアンタなんざに頼るんだよってことくらい、考えりゃすぐ分るっしょ? ねぇ? ねぇねぇ? ねぇっ!?  ッククク!」

お。

おおおお。
おおおおおお、落ち着け俺。そりゃあ今すぐこの馬鹿下級生の頭を掴んでスラムダンクしたい気持ちは分かる、スンゲー分かるが落ち着け! そもそもそんなこたあ出来ない不自由な身の上じゃないか俺は。
だから、ここはまず落ち着いて。怒りを鎮めて、だな。うん、そう、怒るな、心穏やかに。怒るな、世界は愛に満ち満ちている。怒るな・・・・・・怒・・・・・いやいやいや、それって無理っ!!!
「無理無理無理! 絶対無理だからっ! ああああああ殴りてぇ、この、この、コイツ! コイツを殴りってぇぇぇぇ!!!!!!!!」
頭をグワングワン振って叫んで回る。駄目だこのままじゃ憤死する!
「自殺しちゃえよっ! お前いますぐ自殺しちゃえよぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
普段なら絶対言わないようなことを口走っちゃう程度の怒髪天。
「は? なに流石に怒ったぁ? でもざーんねん、幽霊風情が私に何出来るってのさ? 言ってみ? ん?」
「自殺しちゃえよぉぉぉぉぉ!!!!」
頭の中身がこれでもかってくらい、パニック。俺は怒りの化身だった。しかし、いっかな耐え難き恥辱を受け、自尊心に泥投げ付けられたとしても、俺は理性持つ人間、ヒューマンなのだ。
怒りに支配されてはダメだって、アニメとかマンガとかでもよく聞くし。まあ所詮はサブカルだが、間違ったことだとは思えないし、思わない。
よし、我慢だ。

我慢なんざ逆立ちしたって出来るかぁぁぁ! ってな具合ではあるけれども、それも含めて飲み込んで、包括的に、ガ・マ・ン。

こういう時の対処方は、ちゃあんと心得ている。

頭の中にポエムを呼び起こすのだ。昔作ったやつを。下手に自分を可愛がって中途半端なのを思い浮かべると失敗する。これは恥ずかしければ恥ずかしい程に効果的なのだから。


”寂しげな君の横顔に ひらり舞う蝶々の指先(しるべ)をそうっと添えて” から始まる壮大なポエムのオープニングセンテンスを並べ立てただけで、一気に冷却される脳髄。

「あの夜の俺は狂っていたんだぁっ! いやぁぁぁぁヤメテェェェ!!!」

余りに恥ずかしいわド畜生! 頭を抱えてうずくまる。よし、成功。

「は? なにいきなし?」
目前にて起こった、突然の豹変に戸惑いつつも癪に障る物言いで加納後輩。ある意味、突き抜けているな彼女は。まあ、だから何だという訳でもなし、さらに言えば己が手心を加える材料になんて、未来永劫なりえない訳だ、これが。
「何も糞もありませんよ、加納さん。君に生命の危機がないのであれば、それが一番素晴らしいことだという事実に気がついただけなのです」
ただ立ち直るだけでは能がない、しっかり偽善者ぶっておくことを忘れない。瞬冷クールになった頭は恐ろしい程に良く回る。この手の天の邪鬼には、こんなんが一番面白くないに決まっているからね、という意趣返し。

「へぇぇぇぇ、上等じゃんか。果てしなくつまんねぇけどな。まあ、いいや。要はお前は、無力なんな。じゃあ取引は、ご破算だ」
ここに来てもまだ己が優位を保とうと、かつて交わした取引を持ち出してくるあたり、彼女にもまあ、可愛気はあるのかな? 知らんけど。
「まだ僕が無力だと決まったわけでは、ないのでは?」
「ハァ? そんなら、ッダラネェ御託並べてないでサッカサあの化け猫に特攻してこいやホラ、ホラァッ!」
「ハハハ。加納さんはせっかちさんダネ! 駄目だよ、ダメダメ(人差し指を彼女の眼前に添えて優雅にフリフリ)。性急に成果ばかりを追い求める、そんな即物的な人間に成り下がるには、君はまだまだ若いデショウ?(あたかも己は違うかのような、圧倒的上から目線で) ここは、腰をどしっと据えてネ、待ちの一手が効果的と僕は見ているヨ(勿論口から出まかせだ)。君も僕くらい、人生経験値を積み上げればこの真意が汲み取れると思うけれど、今はまだちょっと早いかなぁ?(殊更に見下した目線と口調) まあ、僕にすべて任しておいてよ、大丈夫、悪いようには、しないからサ(ニコリ、と花咲く爽やかな笑顔で〆)」

「く、くくく、くそ、くそ、糞幽霊がぁぁぁ、なぁぁぁにぃ、調子くれちゃってんのぉぉ? おま、お、お、おまえ如きがさぁぁ、え、な、ななな、なにが成せると、とと、とか、思いあがっちゃって、ててて、てんのさぁぁぁ?」

計画通り激昂する後輩。ふふん、こっちがその気になればこのくらい、軽い軽い。

「あれれ? (すごく、邪気のない笑顔を作り上げて) なにか僕、キミの気に障るようなこと、言っちゃったか、にゃぁぁぁん?(最高の皮肉、と自負する)」

「う、ウフフ。うふ、うふふ」
顔をうつむけて嗤い出す後輩。あれあれ、彼女の装甲は、思ったよりも脆かった模様。いやはや、少し悪いことをしちゃったかにゃあ(すごく満足げな顔)。
まあ? 僕のが先輩だし? まあ、多少侮られた程度でちょっと大人げなかったカナ。ヨシヨシ、その可愛気に免じて今回のところはこのくらいで許してやっかな。

「あーらあら、センパイったら、流石のご余裕でございますね。ますわね。それならば、きっと先輩は、もちろん先輩は、あの化け猫を、完膚なきまでに、徹底的に、完全に無欠に塵の一つだって残すことなく、綺麗にサッパリ退治して下さるって、勿論、そういうことで、ございますよねぇぇぇぇぇ?」

「・・・・・・・・・・」

残念ながら、可愛気なんて毛の一つもありゃあしなかったらしいこの、この糞後輩。
まあ、まあいい。こうとなりゃあ、もうアレだ。兎に角あれだ。俺にだって、譲れない一分がある。

受けて立とうじゃないか、この、この、糞後輩がぁぁぁ!!!!!

「ええ、ええ、ええ! そういうことで、ございますよぉぉぉ? (ニッコリと、そしてネチャネチャと。殊更に相手の勘気へ触れるように)」

「そういうことなんで、ございますかぁぁぁ?」
「そういうことなんで、ございますぅぅぅぅ」







まあ、要するに意地の張り合いが、始まった。






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