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パンツ見えている!

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なにやら色々と、新発見やら新展開やら予期せぬ事態が起きてしまった訳なのだが。
纏めて全部に対処しようとしたら、いくらなんでもパンクしちゃうでしょうということで、一度頭をリフレッシュしてだね。
ここからは、ひとつひとつの問題を解決していこうじゃないか。
まずは、そう。


猫だ。






________a goblin cat__________________________________________________________________








因果関係等は不明だが、ここ最近加納後輩に対して限定的なストーキング行為を行い、危害を加えるでもなくただ威嚇を放ってくる。
それも縄張り(?)内のみの話で、その境界から一歩でも出ると姿を消すらしい。
この問題を解決する為の方策としては以下の方向性が考えられる。
1.化け猫の除霊。暴力的ではるものの、最も効果的かつ確実な方法だろう。問題は、あの化け猫をこの非力な幽体一つでどう消し去るか、だが。
2.化け猫の説得。危害を加えることはないものの、あの威嚇には何らかの理由はあって然るべきものだろう。その理由を把握し、怨念を晴らすことによって問題は平和的解決をみるのである。問題は、あの化け猫とどうコミュニケーションをとるのか、という部分か。
3.加納後輩に現在の生活を納得させる。危害はないのだから、風変わりな景色の一部として一生受け入れるよう加納後輩を説得するのだ。問題は、そんなん無理だということくらいか。
4.うーん、思い浮かばない。まあこんなもんか。


「羅列してみっと少ないな、うん少ない」
己の想像力の貧困さが成せる業よ。まあいいや。これしか思い浮かばなかったんだから、このなかから最善策を抜き出して、あとはやればいい。
結果的に化け猫問題をどうにか出来ればOKなのだから、一番の解決方法は考えることじゃなくて動くこと。
よし、行ってみよう! 元気良くネ!



と、元気一杯に飛び立って以前に化け猫と遭遇した地点までたどり着いたはいいものの、そこには猫一匹いやしないわけで。
「あ、そうか。加納後輩に対してのみ出現するわけなんだから、俺だけ来ても意味ないんじゃんか」
遅ればせながらもそこに気付いた俺って天才。
「じゃあどうすっかなぁ」
いきなり手持無沙汰になってしまった。加納後輩が来るまでやることが、ない。壊滅的に、ない。
とりあえず、手近な電柱の陰に座って晴れ上がった空なんかを見上げてみる。
じりじりと時が過ぎてゆく。
じりじり。じりじり。
「さて、どれくらい経ったカナ?」
経過した時間を確認しようとポッケに手を伸ばして愕然。そうだ、携帯!
どういった経緯か全裸から着服(誤字に非ず)にまでレベルアップしてしまったこの僕の、プライバシーの塊であるところの携帯電話は幽体化されているのか!?
ポッケに突っ込んだ指先には堅い感触。間違いない、この手触りは俺が長年愛用している今となっては珍しいフリップ式。
勢いよく取り出して、カバーを片手でカチリと小気味良く開ける(この小気味良さがあるからこその携帯だと思っている)。
画面に広がる、見慣れた待ち受け。これはもしやと期待してアドレス帳を繰ってみると、そこはなんというか、全体的にクオリティが低かった。
ズラズラと並んだ文字はところどころ虫食いだらけ。試しに適当な名前を選択してみるとそこは空白。

なるほど、これらは俺の記憶に寄ってのみ構築されているということか。

つまり、これはただの妄想の産物だ。なんだ、期待して損した。
ポイと捨てて、あとは記憶から消した。同時に放物線を描いて落下するそれは霧散する。なんとか細い存在だろうか、と消えゆくソレを横目に微妙な心地。
アレも俺も同じものだと思えばこそ、そんな気分にもなるさ。
さて、こうして己の脆弱性が再度立証されました。そして暇です。どうしましょう?
「むーん。うむむ。むーん、むーん」
むんむん唸ってみる。意味はない。体感時間も変わらない。
「駄目だ暇だ!」
どうして俺がこんな思いを味あわなくてはならないのか?
それは、加納後輩とのなにやらどこまでが本気なのか分らない約定を果たさんとするが為である。つまりどういうことかというと、俺がこんな状況に陥っている遠因の一つは間違いなく加納後輩であるということ。無論直接の原因はこれから解決せんとする化け猫であるのだろうが、そこに手をつけるためにはやっぱり加納後輩の手助けがいる。
つまりどういうことかというと、今俺が暇な事の責任を追及せんとすれば加納後輩という解が導き出される。
OKわかった、そういうことか。
「よし、加納後輩をいじくって時間をつぶそう」
晴れ晴れとした顔でこの場を後にした。







神聖な学び舎は勤勉な教師の紡ぐ事務的な単語の羅列と、怠惰な教師の紡ぐ猥雑な一人語りと、新米教師の紡ぐ敬語混じりの棒読みと、勤勉な生徒の立てるカツカツとした筆記音と、怠惰な生徒の立てる下種な笑い声と、特殊学級から響く断末魔で静謐先輩が裸足で逃げていくような惨状だった。無論、いつものことだ。
久しく日常の感覚を思い出す。そうだ、己はこの四方八方からの音に身を沈めて日々を生きてきたのだ。
低い天井を仰ぎ、省エネヤクザに折れた苦肉の策としての薄暗い廊下の一角にて佇み、己を再確認する。
そうだ、これが俺だ。
ここにいる、これが俺。それが大事、なによりも大事。

伊藤樹、ここにいまし。

なんか荘厳な気分に浸りつつ、問題の加納後輩が在籍するクラスを探して徘徊。
ここでもないそこでもないと行ったり来たり、狭い校内を縦横無尽にかけずり回ってようやっと、見覚えのある横顔を見つけ出したるは昼休み直前であった。
自分の不要領さが嫌になる。ここはこの腐った気分すらも加納後輩にぶつけて憂さ晴らしするしかナイネ!
ウキウキしながら、数学担当教師が板書する文字を意外にも一生懸命書き写す加納後輩の背後へにじり寄る。
(ヘヘヘ、お前が悪いンだゼ? お前が俺をなんかこう、そんな感じであれで結果的にこうなってまあそこはこうなのかもだがアレはソレで複雑だがとにかく、お前が悪い。全部)
腕をワキワキさせながら、さてどんな悪戯を仕掛けてやろうかしらんと目を爛々と。


「マジ反応しなかったン? ありえないッショ? ゼッテェやせ我慢だから(忍笑)。じゃあ次はチョイとレベル上げてサ。山田ぁ、文鎮投げろよ」
「ついに出ちゃう!? 最終兵器山田! お前が役に立つ時がキタぜ? ホラ、用意してあっだろ? 出せよ、んで、投げろ」
「ぁ・・・・でも、もう、授業、終わる、し・・・・」
「は? じゃあ授業終わるまえに迅速に投げればいいじゃンかよ。あ、もしかしてもしかして、逆らってンの?」
「ち、違っ!」
「違うンなら、示さなくちゃ、駄目だろ? なあ、山田ぁぁぁ?」
「ひゅ・・・・・ぅぅぅぅ」
山田なる小柄な少女、鞄からなにやら懐かしい鉛の物体を取り出してオロオロ。
「おおう、なにそれ大物じゃん。私ぁもっと小さいの想像してたんけど! 山田鬼畜だなオイ!」
「さ、サエちゃんが文房具屋さんでこれ買えって」
「あ? なに?」
「・・・・・・・」
「ホラ、早くしないと授業終わっちゃうだろが、ちゃっちゃとヤれよグズ」
「う、うん、うん。な、投げる、けど、その、やぶさかではないのだけれども、これ頭に当たったらただごとじゃ済まない気が・・・」
「おーい山田ぁ? あんま退屈させんなよ。皆眠くなっちゃうだろ? 一人でも良い夢見ちゃったらお前、次の時間に凄い感謝されっぜ? みんなから」
「ぐず・・・・ご、ごめんね、ごめんね加納さん・・・ごべんべぇ・・・」
山田なる小柄な生徒、意を決して投擲体制。
まあ、あのサイズはどう考えても洒落にならんわな。

「加納後輩!!!!!!!!!!! パンツ見えている!!!!!!!!

「はぁっ!? えっ!? きゃっ!?」

天才的機転を駆使して加納後輩を窮地から救った。





「あー、加納君、どうかした?」

数学教師が、教室の誰よりも眠たそうな眼で、突如授業中に立ち上がった加納後輩の奇行に対して淡白な反応を返した。その他の生徒諸君も反応は同じようなもの。
なにコイツ? 的な白眼視に晒された加納後輩、顔を真っ赤に染めながら首を横に振り振りおとなしく着席。しかるのちに、我が方へと食らいつくような猛禽の眼。
『ころすころすころすころすころすころすころすころす』
まこと、わっかりやすい後輩である。
「いやね、ちゃんと今のアレには理由があるのですよ加納後輩」
俺としては声をひそめる必要はないので堂々と釈明してみる。
「いま君ね、なんかあの、いじめっこ集団から文鎮とか投げ付けられそうになってたから。だから僕は先ほど咄嗟に天才的な機転を披露した訳ですよ」
褒めてもいいし惚れてもいいよ?
『ころすころすころすころすころす』
ふむ、言葉が届かない。

キーンコーンカーンコーン

ここで体よくチャイム。学業の区切り。これ幸いと己が身の潔白どころかお手柄を示す為に彼女を物陰に誘う。
「まあとにかく、詳しく話すからちょっと人気のないとこにいこ? な?」
加納後輩はといえば、顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり、俺のことを言葉の限り罵倒したいのは山々なのだが衆目のある手前そういうわけにもいかずに極大の我慢をしている感じで、なんかいっぱいいっぱいだった。
『ころすころすころすころすころす』
はいはい、まったく世話の掛かる後輩だよネ。ニッコリ笑ってからゆっくりその場を”逃げ出した”。

しばらく走って背後を伺う。
「ふっー! ふっー! ふっー!」
威嚇する猫のように体中で猛って追ってくる。猛禽の彼女には最早、おれしか映っていないらしい。明らかに尋常でない様子の彼女を避けるように廊下の人ごみが割れる。
(いいのかそんな奇行晒して・・・・・)
彼女には全体的に我慢が足りていないのではなかろうか? だから簡単に弱みを見せて、そこを付け込まれる。
「ふっー! ふっ! ふっーー!」
まあ、今はそんなことはいいか。彼女の忍耐もそろそろ限界だろう、ここいらで手頃な物影は・・・ああ、あの空き教室でいいかな? 丁度奥まったところだし、適度に薄暗く適切に埃っぽい。間違ってもあんなトコで昼飯食う輩なんぞおらんでしょう。
「はいゴール」
スラッ、と俺は扉をすり抜けて。
「ふっっーーーーー!!!!!」
ガタガタガシャーン! と加納後輩は轟音を立てて開け閉めして。

「さあ、これでやっとマトモに話し合えるね、加納後輩。とにかく緊急の事案から話始めようか、いいかい君は勘違いをしてい・・・・」



「っっっだぁぁぁまれこの腐れ幽霊のインポ野郎! 黙れ黙れ今すぐ黙れ! じゃなけりゃその口をファックしてやるっ! その汚い口をいますぐファックしてやるっっ!!!!!!!」

ガン! ガン! ガン!

足を三度踏み鳴らしての大激怒。ちょっとビビっちゃったのは内緒だ。


「お、オーケイ。わかった、わかったからまずは少し落ち着こっか? な?」

「っっから、豚はしゃべるなぁぁぁぁ!!!!!! 耳から入って肺腑の奥まで不愉快になってたまんねぇぇぇんだよぉぉぉぉ!! 今の貴様の鳴き声を聞いただけで怖気が止まらない、今すぐ内臓全部取り出して奇麗に洗いたいくらいだ! わかったか、わかったら今すぐ黙れぇぇぇぇぇ!!!」

「・・・・・・・・・」

ついふざけて『ぶひひーーーー♪』とか言っちゃおうか瞬時迷ったが、賢明な僕は沈黙を選びました。偉い、おれ。
俺偉い。


「ふーーーーーーーー! ふぅっ! ふー! ふー、ふーーーーーーー。ふう、うん。まあ、あれだ。多少は、同情する気持もあったんだ、貴様には。若くして死んで、何か未練もあって。だから私はこの持ち前の度量でもって最大限、貴様の馬鹿げた行動を受け入れてきてやった。時には度を越すこともあったが、まあ許してきたんだよな」

「っ・・・・・っっ・・・・・」

その言い方は多分に誤解を招きますよ、とか。ただいまの発言は著しく事実から逸脱しております、とか。つーかあんま調子乗るなよこのアマとか、そこらへんの反論は全部飲み込んだ俺は大人。大人な俺。

「でもな、限度を超えるにしても、限度ってモンが、あらぁな。まあ、貴様の如き無知蒙昧なる幽霊には分らんだろうがな。あ? なんだその目は? 何か云いたいことでもあるのかもしかして? というかさ、ちょっと顔をそむけてくれないか? なぜかというと、簡単なことなんだがな、ホラ、品性は顔に現れるモンだろう? で、ご多分に漏れず貴様の顔にも貴様の肥溜臭い品性が現れちゃっている訳なの。まったく本当に、豚の糞にしか見えない顔しているな、貴様は。見ているだけで悪臭がしてくるようだ。凄いよお前の顔面、本当なんで良く生きてて平気だなってレベルなんだが・・・・ああ、もしかしてだから死んじゃったのぉぉぉぉ!? ああ、そう、なら納得したよ。そら死んで当然だから、同情もねぇわな。まあいいや、どうでもいい。どぉぉぉぉでもいいよ貴様のことなんか、その程度の存在だからな、貴様は。うん、でもさ、そんな底辺をひっぺかさないと見つけられない場所にいるような貴程度の幽霊がさ、なあ、なあ、おい、今を光り輝いて生きている私になにをしてくれた? ってとこから、話は始まるんだよね。ああ、馬鹿で阿呆で知恵足らずな貴様のために、わざわざ説明してやった私に、感謝を忘れるな?」







































軽く縦横を喪失する程の怒りに包まれる。
そりゃここに来た主目的はズバリ嫌がらせだけれども。だからちょっと後ろ暗いのだけれども。しかし、一応は窮地を救ったのが俺なのです。それをここまで言うか、そうかそうかそうですか。

こりゃもうガチンコファイトグラブだな、と拳を握り締めて口を開こうとしたら。

ガラガラ~

誰も来ないと踏んだ、空き教室の扉がゆるやかに開かれた。おうおう、どこのどいつだいこんな時に空気の読めないお白痴さんはよぅ!
とか若干攻撃的に音の発生源を睨み据えると。





「・・・・・あ、加納さん・・・・?」



それは先ほど加納後輩に文鎮を投げつけようとしていた、確か名前は山田だった。










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