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必ず、貴様に

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__________________menace_____________________________





当方が訴えた、心からの願いは敢えなく振り払われた。あたかも目に障る害虫を駆除するが如く、微塵の慈愛も同情もなく拒絶された。というか殺されかけた。どうして己がこんな目に合わなくちゃいけないのだろうかと煩悶する。
俺はただ不幸にも、突然事故に巻き込まれて、死んで、それを家族が嘆いて泣いて。そんなのは悲しすぎるからせめて最後の別れを笑顔で彩ろうと、そういう次第だっただけ。それだけなんだ。なのにさ、ねえ? なあ? この動機に不純はあるか?
無い筈だ。一切の不純物を除いて余りある清廉潔白さ、生でゴクゴク飲んだって毒にはならない。というか健康になれるかもよ?
それをこの扱いですかそうですか。
先ほどまで、ブスリブスリと煙を上げてダメージを負っていた腹部の被害確認が済んだ。
腹が半分欠けている。
勿論ゼラチン風味な身の上の事、出血とか内臓ビローンとかはない。ただ、本来そこにあるべきはずの腹が半分欠けていて、傷口を覗きこめば向こう側が透けて見えるというだけのこと。
だけのこと? そんな訳にいくかド畜生。痛みはないかもしれないが、喪失感は本物だ。
みんな、みんなちょっと想像してみてほしい。
何ら下心のない願いを、唱えた。人生初の、これでもかって願いを唱えた。自らの抱く文字通り最後の、切なる願いを、唱えた。
それを。
それをさぁ、ねぇ? なぁ?
まったく真剣に取り合おうともせず、こともあろうに邪魔者扱い。幽霊に人権はないから殺したって構わないとばかりに無条件攻撃。
こんな悪逆非道が許されるのか? あの鬼畜外道を野放しにしておいて、いち幽霊として俺はこれからも平静でいられるのか?
そんなん、否だろうがよっ!
何も自分のことだけで憤っているわけじゃないんだよ? (クリ、と小首を可愛気に傾けて)
俺と同じく不幸な身の上な同志、その他の幽霊諸君の安全かつ適正な今後を憂いて憤慨しているんだよ? (クリクリ、と更に小首を傾げる)

彼女の如き無理解な霊能者がいる限り、今回のような悲劇はまた繰り返される。
そうだ、そうなのだ。
僕は何を日和見主義に走っていたのだ、ばか野郎。
耳元で騒ぎ立てて睡眠不足に陥らせることが極悪だと? 鼻で笑える、今ならば。
そんなんじゃない、そんなんじゃ彼女は何も学べない。
今回僕は不幸を被った。佐屋美咲という少女の無理解によって。
なるほど、ここで尻尾を巻くのは至極簡単であろう。なにもなかったことにして、黙って身を引けばいい。
そうすれば、もう俺はこれ以上傷つかないからね。
俺はね。
でもさ、毎日どれだけの人間が死ぬと思う?
もう何年も前から毎年百万人を越える人間が死んでいる。その内、老衰は数パーセント程度だ。
ほとんどが病気、事故、自殺。
老衰を幸せとは言わないよ? 不幸なケースもあるだろうし。というか死ぬ事が不幸だし。
でもやっぱり、病気だとか事故だとか、自殺だとかは不幸だと思う。
凄く、不幸だと思う。
そこに未練が残るのだ。そしてきっと自分のように死に切れない人間が現れるのだ。(あれ、そういえば自分以外の幽霊を見ていないのだが? もしかして、死後にも霊感云々の適性は適用されるのだろうか? まあ、きっとそうだよな、じゃなきゃ視界一杯に幽霊であふれていて何もおかしくないからね、そんな世界。この世界な)
そんな同胞達を救うため、助けとなるため、そして何よりもこの己が報われる為に。


俺は、諦めてはいけない。絶対に。




「佐屋美咲は、その持って生まれた稀有な資質から否応なしに、僕たち寄る辺なき亡霊同盟の支援者でなくてはならない。きっとそれは彼女の義務だ。いるかいないか分らない、いてもいなくても変わらない、神様の定めたそれが運命」
彼女はそのディスティニーを、僕への躊躇いなき攻撃という形で否定した。拒絶した。
それは、きっと許されない。大自然の、全宇宙の、真理の、なんかもうそういうごちゃごちゃしたもの的なアレで。
許されない。



許さない。
彼女へ向けていたタスケテ、という切なる願いはここに姿を消した。
今はもう、ユルサナイ、だけがゆらゆらと立ち上る。
「そうだ、俺は俺だけじゃなくて他の不幸な身の上の幽霊諸君ために奮闘しなくちゃいけない。非正当な手段は、崇高な目的を持って浄化されるという間違った信念を貫き通し因果応報死した歴史上の大馬鹿と同じ道を歩まなくてはならない。しかしそんな糞馬鹿がいたお陰で馬鹿が馬鹿を控えるようになった今日を鑑みれば、きっと報われる日は来ると信じている」
そして俺が救われれば何も問題はない。というは他は余禄みたいなものだしね。
ああ、うん。
もう、開き直ったぞド畜生。



無色無音無感無味無臭で類稀なる移動手段を併せ持ち。ひとつの信念を持って行動できる。
誰かの隠し事を暴き立てるのに、ここまでうってつけな存在は他にいないだろうさ。
そう、もう手加減はしない。
徹底的に佐屋美咲という人間を監視する。朝起きてから、夜寝た後も起きるまで。
そして貴様の隠し事、秘め事を暴き出してやる。勿論取引の材料にしてやる為だ。
メリットもあればデメリットもあるがね、だってこちらは透明無色。彼女の秘めたるあんなんを暴露するすべがない。
しかし、そこは工夫すれば良い。なに、大丈夫安心しなって。

俺はしっかりきっかりきっちりぎっちり、あのスケを思うがままに動かして見せるさ。
ああやってやる。
いいね、面白いよ。この面白味は、しばらく死への無情を忘れさせてくれそうだ。
やってやる。徹底的にヤってやる。
覚悟しろ佐屋美咲、この俺を怒らせたことを後悔させてやんよ。

必ず、だ。



必ず貴様に、俺の家族へ俺からの卒界メッセージを朗読させてやっからなぁぁぁぁ!!!!!




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