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彼が望むP/あの日、託されたもの ⑦

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 アサシンドーパントを撃破し、残る敵はただ一人となった。
「あいつ……廃工場の中に入って行ったっけな」
 一度変身を解除した翔太郎は最後の敵と戦うべく、工場の入り口を見据える。。
「待って翔太郎君!」
 先ほどまで照井を介抱しながら戦いを見守っていた亜樹子が翔太郎を呼びとめる。
「これ、持って行って」
 亜樹子は翔太郎に駆け寄ると、フロッグポッドとデンデンセンサーを手渡した。
「隠れてるあいつを見つけるのに少しは役に立つでしょ?」
「ああ、助かる。あいつはまだ何か企んでるみてえだ。手遅れになる前に見つけないといけないからな」
「あいつ、風都をめちゃくちゃにするって……」
「大丈夫だ。そんなことは絶対にさせねえ」

 ――僕の好きだった街をよろしく。

「相棒に託されたんだ。俺は仮面ライダー、この街の平和を守る者だ」
 翔太郎はフィリップからの言葉を思い出す。
「俺たちは……だろう?」
 少し苦しげながら、照井は訂正を加える。
「そうだったな。俺たちは仮面ライダーだ」
「だが……すまない。俺はこれ以上戦えそうにない」
 忌々しげに照井は自分のぼろぼろになった身体を見ながら言った。
 戦いによりダメージと三日間の監禁生活による衰弱が、照井を行動不能にしていた。
「いや、十分だ。お前が戦ってくれたから俺はここに戻ってこられた。感謝してるぜ」
 翔太郎は帽子を頭から外すと、中にふうっと息を吹きかけて被りなおした。
「だから、あとは俺に任せろ。全部終わらせてくる」
 そう言って、亜樹子と照井を一瞥すると、翔太郎は廃工場の中へと向かっていった。


 さっそく亜樹子から手渡されたデンデンセンサーにメモリを挿入してゴーグル型に変形させる。これで中にいるパラレルドーパントの場所をすぐに見つけ出すことができるだろう。
 翔太郎は廃工場の中へと入り、センサーを頼りに人の気配を探す。
 機材は全て撤去されていたが、未使用の資材が大量に放置されていた。まるで山のように何か所にも高く積み重なっており、今にも崩れそうだった。
 翔太郎は迷路のように入り組んだ資材の山の間を歩いていると、センサーが小さな反応を示した。資材の山の奥に誰かがいるようだ。
 翔太郎は資材の迷路を足早に駆け抜け、奥へと進んでいく。反応はどんどん強くなる。
 山を抜けると、事務所として使われていたと思われる小部屋が現れる。そして、センサーはその中に誰かがいることを示していた。
「見つけたぜ」
 翔太郎は静かに小部屋の扉へと近づき、そのまま勢いよく蹴破った。
 古くなっていた扉は、金具が外れて部屋の中へと飛んでいく。その衝撃でほこりが舞い、視界が一瞬曇った。
「何だ!?」
 うろたえた声が部屋の奥から響く。
「よう、取り込み中か?」
 翔太郎は部屋の中に入っていく。甘ったるい臭いが彼を出迎えた。
 部屋の中には大量のごみが散乱している。よく見るとそれらは全てコンビニ弁当の容器に菓子パンの袋など食べ物に関するごみだった。
「斎藤を倒したのか」
 護衛役はいなくなり、パラレルドーパントを守る者は誰もいない。しかし、彼はそれほど焦っていないようだった。
「決着をつけにきたぜ。後はお前だけだ。観念しな」
 翔太郎は左手の人差し指をパラレルに向ける。
「流石は仮面ライダーと言ったところか。アサシンを倒したのなら、俺を倒すのもたやすいだろう」
「分かってるなら話は早いな。諦めて素直にメモリブレイクされてくれ」
「嫌だね。俺は絶対にこの街をめちゃくちゃにする。絶対にだ」
 パラレルは強く歪んだ意思を言葉に込めて翔太郎にぶつける。負の感情とガイアメモリの毒素が繋がり、混ざり合い、パラレルを凶行に駆り立てていた。
「なんで街をめちゃくちゃにしたいんだ」
 翔太郎は改めて問う。
「この街が嫌いだからだ。三十年近くこの街で暮らしてきたが、俺にはいいことなんて一つもなかった。暗黒の人生だったよ」
 パラレルは鬱憤を晴らすかのようにまくしたてる。
「何が風都だ! 風の街だ! 俺には一切風が吹かねえ。むしゃくしゃするよ」
 風都に限らず街には様々な人間が生きている。人の数だけ人生がある。全ての人間が恵まれた、幸せな人生を送れるとは限らない。
 翔太郎は閉口する。たまたまパラレル――宇治原はそういった人生を送ってきてしまった。いくら翔太郎でもそれはどうすることもできない。
「俺に風が吹かない街は邪魔なんだよ! 何もかもが目障りだ! めちゃくちゃになってしまえばいい! 俺がそうしてやる!」
 言いたいことを全て言い切ったのか、パラレルは酸素を取り込むために荒々しく呼吸をする。
「お前の言いたいことは分かった。俺から言えることは何もねえ」
 翔太郎は静かにジョーカーメモリを取り出した。
「だが、お前の行動で人々が、そしてこの街が泣くことになるんだ。俺は絶対にそれを止めなきゃいけない」
『ジョーカー!』
「――変身」
 ジョーカーメモリをロストドライバーに挿入。スロットを横に弾くようにして倒す。
『ジョーカー!』
 再び漆黒の戦士、仮面ライダージョーカーへと変身する。決着を付けるために。
「最後にもう一度聞く。素直にメモリブレイクされるつもりはないんだな?」
「当たり前だ。俺は今からお前を殺すんだからな。いや、お前だけじゃない。もう一人の仮面ライダーもだ」
 パラレルは強気な発言でジョーカーを少しひるませた。
「アサシンを倒したんだ、お前は確かに強い。俺よりもだ」
 実際、ジョーカーはパラレルとの最初の戦闘とアサシンの戦闘を経て、自身の戦闘能力はパラレルよりも上だと自負していた。だが、相手の強気な態度に不安がよぎる。
「……だがそれは正面きって一対一で戦った場合に限るよなあ?」
 パラレルは不敵に笑う。
「どういうことだ?」
「力は蓄えた。俺は次のプランに移行するだけだ」
 パラレルは両手を前にかざす。銀色の粘膜のようなものが床に広がっていく。翔太郎を並行世界に閉じ込めた精神干渉攻撃だ。粘膜の上にあった机や椅子、ごみなどは全て中に沈んでいった。
 さらに粘膜は面積を広げていき、ジョーカーの足元に迫っていく。
「くそっ」
 慌ててジョーカーは後退し、小部屋から出ていく。粘膜は一定の面積で肥大化を止めると、移動を始めてジョーカーを追尾した。
 粘膜が小部屋から出ていく。そして一緒にパラレルも小部屋から出てきた。右手にはアタッシュケースがぶら下げられていた。
「安心しろよ仮面ライダー。お前をまた並行世界の閉じ込めようとは思っちゃいない。一度脱出したお前にはもう同じ攻撃はできないんだ」
 パラレルは余裕のある態度で語る。
「今の攻撃はお前と距離を取るため、そして新たな駒を呼びだすためのものだよ」
 パラレルは左手で何かを引っ張るような動作をする。粘膜が震える。そしてそこから何かがゆっくりと顕現する。
 人間だった。五人の男性。服装はばらばらだったが背丈は全て同じ。さらには顔もまったく同じ。完全な同一人物だった。
「な、なんなんだこいつらは……」
 ジョーカーは目の前の光景に困惑を隠せない。
「彼らは俺だよ」
 パラレルは言った。
「いくつもの並行世界に存在する俺を引きずりだした。同じ目的を持った俺たちだ。今の俺の体力じゃ五人が限界だが」
 粘膜から現れた五人の宇治原はにやにやと笑いながらパラレルの方に振り返る。
「俺たちの目的は分かってるよな?」
 パラレルは五人の自分に問う。
「仮面ライダーを殺して、風都をめちゃくちゃに。そうだろ?」
 一番右の宇治原が答える。
「この世界での目的が済んだら、俺の世界の風都をめちゃくちゃにする手伝いをしてくれるんだったよな?」
 真ん中の宇治原がパラレルに問う。
「ああ、そうだ。俺たちの目的はみんな一緒だ。この世界での目的が済んだら、そのあとはお前たちの世界に順番にわたって、そこの風都をめちゃくちゃにしていこう」
 パラレルは答えた。
 並行世界の自分との取引。自分の目的の達成を手伝ってもらう代わりに相手の目的の達成も手伝う。全員の目的が同じだから、単純で分かりやすい取引だ。
「さっそく、始めようか」
 パラレルはアタッシュケースを開く。中には無数のガイアメモリが入っていた。無造作に五本を掴み、五人の自分に投げ渡す。
「まずは目の前の敵を殺そうか」
 パラレルはジョーカーを指さした。五人の宇治原たちは頷くと、それぞれ渡されたガイアメモリを鳴らしていく。
『バイオレンス!』
『アイスエイジ!』
『ビースト!』
『ホッパー!』
『ジュエル!』
 五人の宇治原たちは、五体の異形の怪物へと変貌を遂げる。そしてゆっくりとジョーカーの方へ向き直る。
「なんてこった……」
 ジョーカーは自分の置かれた状況に唖然とする。六対一。新たに増えた五体のドーパントはどれも戦闘能力が高い固体ばかりだ。一方ジョーカーの基本戦闘能力はダブルの半分程度である。
 ドーパントたちの後ろでパラレルが高らかに言う。
「俺はここで高みの見物といこうか。お前が殺されるところをしっかり見届けてやる」
 横並びに立つ五体のドーパントが、ジョーカーへと近づいていく。
「さあ、決着をつけようか。仮面ライダー」
 六人の“同じ男”の下卑た笑い声が、廃工場の中に響き渡った。
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