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彼が望むP/あの日、託されたもの ⑧

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 今の状況を一言で表すなら“絶体絶命だな”とジョーカーは敵を前にしてのんきに考えた。
 目の前には六体のドーパント、全て敵である。戦闘に参加しないと思われるパラレルドーパントを除いても五対一。圧倒的に不利な戦局だ。
 一度だけ、パラレルによって閉じ込められた並行世界の中で五体のドーパントを相手にしたことがあるが、そのときは仮面ライダージョーカーではなくダブルでの戦いだった。ダブルはフォームチェンジによって多才な戦法を駆使して戦えた。そして何より、相棒であるフィリップが一緒だった。彼の頭脳から導き出された作戦があったから五体のドーパントが相手でも渡り合えたし、その際に五体中四体のメモリをブレイクすることができた。
 だが今は違う。仮面ライダージョーカーに出来ることは純粋な格闘だけ。棒や銃のような武器が使えるわけでもなく、風や熱、幻想の力を借りることもできない。
 さらに相手のドーパントはどれも特殊な能力より戦闘能力に特化したものばかり。特にビーストドーパントやジュエルドーパントなどはダブルの最強フォームであるサイクロンジョーカーエクストリームになることでやっと倒したドーパントである。相手の適合率が低くても大きな障害になることは間違いなかった。
 勝ち目がない。誰が見てもそう思う状況、ジョーカー自身そう思ってしまいそうな自分を無理やり抑え込んでいた。
 負けられない。勝たなければならない。絶対に諦めることはできない。だから、戦うしかない。
 半ば自棄に近い気持ちでジョーカーは拳を構える。そんな彼を五体のドーパントはゆっくりと囲んでいく。それがさらにジョーカーを焦らせる。
 完全に囲まれたらお終いだ。袋叩きにあって負ける。ジョーカーは完全に囲まれる前に敵を見回す。右斜め後ろにいるバイオレンスはまだ余裕を見せて完全に戦闘態勢に入っていなかった。
 やつを叩いて一度全員から距離を取る。そう決断し、ジョーカーは高い瞬発力でバイオレンスに接近。案の定バイオレンスは不意を突かれて対応が遅れる。
 胸部に拳を数発打ち込みひるませる。そして蹴りを一発横腹に入れてバイオレンスを地面に倒した。
 すぐさま全員から距離を取るべくジョーカーはその場から駆け出す。だが、そんな彼の頭上を影がよぎる。そして目の前にホッパーが着地。驚異的な跳躍力ですぐにジョーカーの行く手を遮った。
 慌ててジョーカーは立ち止まるが、その時にはすでにホッパーの蹴りが飛んできていた。ガードしきれずにそのまま後ろへ吹き飛び、地面を転がる。
 そこへ追い打ちをかけるように先ほど攻撃を受けたバイオレンスが現れる。そして今だ寝転がっているジョーカーの腹部を目がけて鉄球を振り下ろした。が、身体を横に転がし間一髪でそれを避ける。地面に大きな穴が空いた。
「あぶねえ……」
 今の攻撃の威力を目の当たりにし、ジョーカーの背筋にぞっとしたものが駆け抜ける。今の一撃を受けていたら間違いなく動けなくなり、そのまま袋叩きにあって殺されていただろう。
 一瞬も気を抜けない。コンマ一秒の判断ミスが死を招く。つまり今の攻撃を避けたからといって安心してはいけない。
 すぐに起き上がると、ジョーカーはすぐに周りを見回す。眼前にはバイオレンス。後方にはホッパー。そしてバイオレンスの右後方にはジュエルが両腕を交差させながら立っている。胴体に埋め込まれている巨大なダイヤが輝いている。
 ――やばい。そう思ったときにはすでにジョーカーは跳躍していた。一度見たことる攻撃に本能が反応したのだ。
 ジョーカーの跳躍と同時にジュエルは胴体のダイヤから輝く衝撃波を発射していた。だがそれは命中することなくジョーカーの真下を通り過ぎて行った。そして先ほどまでジョーカーの後ろにいたホッパーに迫る。
「おいおい、味方のことも考えろ」
 ホッパーは大して焦る様子も見せず、軽々とジョーカーの方へと跳躍して回避。そのまま空中でジョーカーに蹴りをいれる。だがなんとかそれはガードし、体勢を保ったままジョーカーは着地に成功した。
 だが、着地地点のすぐそばにはビーストがいた。即座に肉弾戦へとなだれ込む。高い攻撃力を誇るビーストの打撃をジョーカーは受け流すようにやり過ごす。が、勢いまでも受け流すことはできず、徐々に後退していく。
 ぞくりとするような殺意と気配を背後に感じ取り、ジョーカーはすぐさま地面を転がるようにして右方に逃げる。すると先ほどまでジョーカーがいた空間をバイオレンスの鉄球が薙いだ。そしてそれはビーストの右腕に当たった。
「あぶねえな!」
「お前も避けろよ!」
 ビーストとバイオレンスは互いに責任を押し付けるようにののしり合う。そこに隙を見出し、ジョーカーはさらに地面を転がってバイオレンスの後ろに回る。
 まずは一発、ここでバイオレンスにマキシマムドライブを打ち込んでメモリブレイク、確実に敵一体を無効化する。そう考えてジョーカーはドライバーに挿入されたジョーカーメモリに手を伸ばす。
「させるか!」
 急に冷気を感じ取って声の方向へと振り返る。アイスエイジがジョーカーに向かって手を伸ばしていた。
 強烈な冷気をジョーカーに向けて一直線に放出。すかさず横に回避。だが少し反応するのが遅かった。
 ジョーカーは一瞬だけ異常な冷たさを右腕に感じ取り、そのまま感覚を失った。すぐに右腕を動かそうとするが、感覚がないためどうすることもできない。体勢を整えて右腕を目視すると、真っ白に凍りついていた。
「こいつはやべえな……」
 過去にもアイスエイジによって身体の一部を凍結されたことがるが、その時はヒートメモリの力があっても解凍することはできなかった。ましてやジョーカーメモリの力しか使えない現状ではこの腕を直すことは絶対に不可能だ。アクセルの力があればなんとかなるかもしれないが、照井は戦える状態ではない。
 つまり、右腕を使わずにこの状況を打破せねばならないということだった。戦闘が始まってからほとんど相手側に対して痛手を与えることができていないというのに、ジョーカーはさらに追い詰められてしまった。
 だがうろたえている暇すらジョーカーにはなかった。
 ジュエルとホッパーが挟み込む形でジョーカーに迫ってくる。どちらに対応するべきか。すぐに判断しなければならない。
 ジュエルはサイクロンジョーカーエクストリームのマキシマムドライブでもダメージを与えられないほど防御能力が高いため、ジョーカーの格闘能力ではいっさいダメージを与えられない。ジュエルとの戦闘は避けた方が得策だ。
 ジョーカーはホッパーの方へと駆ける。そこでさらに考える。ここで自分の攻撃を避けたら前方には誰もいなくなる。だからホッパーは間違いなく肉弾戦に応じる。そこでなんとか大きなダメージを与えることができれば――
 加速した勢いを左拳に乗せて殴りかかる。だがジョーカーの予想とは裏腹にホッパーは大きく前方に跳躍して攻撃を避けた。避けられるとは思っていなかったためジョーカーの拳は見事に空を切り、そのまま体勢を崩してしまう。
 立て直そうとするジョーカーの横にはアイスエイジが現れる。床を凍らせてスケートの要領で移動したのだ。細かい動きは無理だが直線的な動きならかなりの速度で移動が可能だ。
 アイスエイジは手を突き出す。ジョーカーはとっさの判断でわざとそのまま転ぶ。放たれた冷気は何もない空間を通り抜けた。
 だがアイスエイジはすぐさま目の前で転がるジョーカーを蹴り飛ばす。うめき声をあげながらジョーカーは地面を転がり、そして資材の山にぶつかった。
 蹴られた部位を押さえながら急いで立ち上がる。五体のドーパントはすでにこちらに歩み寄っていた。背には資材の山。
 ジョーカーは完全に逃げ場を失った。
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