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嵐の前に

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 部下の前だというのにもかかわらず、たいして不満を隠さずにフラッグは愚痴をこぼしていた。
「山賊団を全滅させてお疲れな俺らが、なんで休む暇もなく任務につかにゃならんのだ」
 木に背中をもたれさせ、貧乏ゆすりをしながら不機嫌そうな顔をしているフラッグに若い騎士が答えた。
「そりゃ要請があったからでスよ。まああの領主はさっさと俺らに出ていってほしそうでしたから、どっかに根回しでもしやがったんスかねぇ」
「何他人事みたいに言ってんだ!領主との交渉役してたのはカストール、お前だろうが!」
「交渉役?そりゃあ苦情受付係の間違いでスよ。イライラしてるからって責任を押し付けないで欲しいっス」
 フラッグは軽く舌打ちをすると、カストールから眼を逸らした。
「しっかしまあ、隊長がそこまで不機嫌ってことは、また女関係でなんかあったんですかい?」
 髭面の騎士がそう言うと、フラッグは思いっきり睨んだ。
「あと1日あれば、あの街で最高クラスの娼婦とヤれるはずだったんだ!この急な任務さえなけりゃあなぁ!!」
「また娼館通いですかい。そろそろ隊長も落ち着くために、嫁さんでも貰っちゃあどうです?」
 フラッグは口を歪ませて笑うと、吐き捨てるように言った。
「ヤダよ、めんどくせー。俺はヤりたい時ヤりたい女とヤれる、今の身分がいいんだよ」
 それを聞いていたほかの騎士たちも、やれやれとあきれた様子だった。
 その空気に気付いたフラッグは咳払いを一つすると、カストールに任務の詳細を説明するように言った。
「あー、それなんでスがねぇ…。実は何も知らされてないっス」
「どういうこった?」
 フラッグのまじめな質問に、カストールは言いにくそうに応えた。
「任務内容については、既に現地入りしている騎士に詳細を聞くようにといわれてまス」
 フラッグはいかにもだるそうに空を仰ぐと、大きなため息を吐いてから部下に命令した。
「ロット、トマスを連れてルグレンの情報集めてこい。できるだけ現地の騎士に見つからんようにしろ。馬を使っていい、なるべく早く詳しく穏便に、だ」
「あいよ。ほれ、ちゃっちゃと行くぞトマス!」
「ん」
 先にルグレンへと向かう準備をする二人を後目に、カストールは訊ねた。
「急にどうしたんスか、隊長?」
「ああ、ちょっくらきな臭く感じただけだ。まあ、勘だよ。そんなに気にすんな。それより馬が2匹いなくなった分の、荷物を運ぶ割り当てでも考えてろや」
 そうは言ったものの、フラッグの中でその不安は大きくなりつつあった。
 ルグレンについたジーノ達は、早速ドラゴンの資料を探し始めた。結果としては、そこらへんの酒場から古本屋まで一通り探したものの、一般的なもの以外は見つからなかった。
 400年前に人類が総力を挙げてドラゴンを退治した。現存している野生のドラゴンは極少数であり、ドラゴンを直接見たものは少ない。そのせいか資料もかなり少ない。ドラゴンを倒すお伽噺や英雄の武勇伝では多数本が存在しているものの、ドラゴンの生態についての資料は一切なかった。国がドラゴンの養殖を仕切っているところから見ても、それらの情報は極秘資料として規制されているのだろう。
 3人が何の成果もないまま宿へと向かっていたところ、妙齢の女性にいきなり声をかけられた。
「ちょっとそこのあんた」
 そのまま気付かずに歩いて行くジーノに、その女性は再び声をかけた。
「あんたよあんた!そのでかい剣背負ったあんた!」
 そう言われて振り返ったジーノに詰めよって、その女性はいきなり質問をぶつけてきた。
「ねえ、あんたその剣どこで手に入れたの?それとも誰かからもらったの?」
「ちょっとあなた、なんなんですかぁ!ジーノさんは喋れないんですよぅ!」
 その女性がジーノに詰めよったまま、フィーに目を落としてジーノに訊ねた。
「あんた、口がきけないの?」
 その質問に何度もうなずいて肯定するジーノの様子を見て、女性は渋々引き下がった。
「おばさんは一体誰なんですかぁ?」
 その一言で空気は一瞬で凍り、その言葉は圧倒的な殺意と共に放たれた。
「もっかいその単語を口から捻り出したら、犯して殺して犯すわよ、この薄汚いメス餓鬼が」
 そのあまりの迫力に心底怯えたフィーは、ジーノの後ろで隠れるようにしがみついてしまった。
「あーあ、ジーノとスムーズに会話するにはフィーの通訳がいるのに、どーすんのよこれ?」
 その言葉にジーノはリンに手話で話した。
(リン、お前が通訳してくれ)
 リンは大きくため息をつくと、手話の教本を片手に通訳し始めた。
(これは自分の恩師の形見の剣です)
「恩師?そいつラドルフって名前じゃなかった?」
 女性のその言葉にジーノは眼を見開いて驚いた。
「やっぱりそうなのね。長生きできる奴じゃないとは思ったけど…」
(あなたは師とはどういう関係で?)
「ああ、昔あいつに依頼したことがあってね。わたしはエネ、エネ・ウィッシュよ」
 これ以上立ち話もなんだったので、4人で宿屋に行くことになった。ジーノはラドルフが自分と出会ってからのことを、大まかにエネに伝えることにした。
「そう…。あいつがコトダマ使いだったとはねぇ」
 しみじみとそんなことを呟くエネに、リンが質問した。
「で、ジーノの師匠ってエネさんから見てどんな人でした?」
 エネは少し悩むと、笑顔で話した。
「まあ、傭兵って人種の中ではかなり善人の部類に入ってたと思うわね」
 だからこそ隙が多く、そこに付け込んで依頼をしたなどと、エネは一切口にしなかったが…。
 まあそんな話をしつつ、ジーノ達はエネと同じ宿に泊まることになった。
 翌朝、日が昇り始めて間もない時間、ジーノは剣の鍛錬をする為、人気のない空き地を探していた。その道中、建物の陰から大柄な男が飛び出してきて、ぶつかる寸前のところでジーノは何とか避けることができた。
「す、すいませ…。――!!」
 その男は謝ろうとしてジーノの姿を見たとたん、何かに驚いて凄まじいスピードで逃げていった。ジーノは少しの間不思議に思っていたが、自分がバスタードソードブレイカ―を背負っていることを思い出して、勝手に納得した。
 ジーノと大柄な男がぶつかった場所からおよそ2キロほど離れたところにある馬小屋で、ロットはイライラしながら何かを待っていた。そこへ走ってきた大柄な人影を見つけて、ロットは地面に唾を吐いた。
「おせーよ、トマス!テメ―はもう貴族でも士官でもねーんだ!そこんとこ自覚して…」
 ロットはそこまで言うと、トマスの様子がおかしいことに気付いた。トマスはロットのもとに来たかと思うと、いきなり頭を抱えて蹲り、小刻みに震えだした。
「おい、何なんだよ全くよぅ」
 頭をかきながら困り果てるロットだったが、下調べ自体はほとんど済んでいることと、あと1日もすればフラッグ達がルグレンに到着することを踏まえて考えたところ、トマスを休ませることを優先しても何ら問題ないと判断した。ロットは馬小屋のわらにトマスを寝かせると、自分も横になって来たるべき任務に備えて体を休めた。
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