マーケミンの街
マーケミンの街はいいところだった。流れ者の俺に優しくしてくれたし、ご飯もくれた。仕事もそこそこ楽しかったし、充実していたと思う。
でも、もうそれも終わりだ。俺はずいぶん長く戦ってきて、もう戦い方を忘れてしまった。奇妙な話だが、戦えば戦うほど、俺は戦いを忘れていった。もう戦えない。それがすべてだ。
「ほんとうにそう?」
シスター・アンジェラが金髪の目を悲しげに潤ませながら聞いてきた。どうだろう。俺にも本当のところはよくわからない。でもこのままじゃいけないということはわかる。
だから街を出ようと思った。
「いつでも戻ってきていいよ。ここはあなたの故郷なんだから」
「違うよ」と俺はズタ袋を持ち上げながら言った。「俺の故郷は、北の森のどこかさ」
それだけ言って、街を出た。
城門の外に出ると街道が続いている。ずいぶん長い。そう、俺はずいぶん長い旅をまたはじめようとしている。せっかく手に入れたものをすべて捨てて。
「魔王を倒した勇者が、なんでまた旅に出たりするんだ?」
五十年間、城門の前に立ち続けてきた老兵に俺は肩をすくめた。
「いかなきゃいけないところがあるんだ」
「で、それはどこなんだ? この街よりもいいところなのか」
「さあ。それはわからん」
「無駄なことだと思うがなあ」
ひどいなあ。道中の安全くらい祈ってほしいもんだ。
「ま、いくだけいってみるさ」
俺は言い捨てて、歩き出した。
歩く、歩く、歩く。
平和な世界はどこだろうと、青い空を見上げて考えながら。