一千一秒物語

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 稲垣足穂(いながき たるほ1900~1977)の小説。星・お月さま・シガレット・ガス灯などの
ハイカラなモチーフが何度も行き来する、70余篇の超短編からなる作品。
 いずれも幻想的でモダンな香りのする小粋な逸品。


 ある夕方 お月様がポケットの中へ自分を入れて歩いていた 坂道で靴のひもがとけた
 結ぼうとしてうつむくとポケットからお月様がころがり出て 俄雨に濡れたアスファルトの上を
ころころころころ どこまでもころがっていった お月様は追っかけたが お月様は加速度で
ころんでゆくので お月様とお月様との間隔が次第に遠くなった こうしてお月様はズーと下方の
青い靄の中へ自分を見失ってしまった
(『一千一秒物語』より引用)